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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
三章・影の雷

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忘却の人物

過去を見て驚いた。

この魔女は、間違いなく元々はメドルアの城の玉座に座り、長らくこの国を治めてきた。

この人は、何も嘘など言っていなかった。

彼女がメドルアの皇魔女であるという話は、嘘ではなかったのだ。


それだけではない。

彼女は、過去に私達と会っていた。

私は全く覚えがないのだけど、この人と私達はマドール城の玉座の間で、話をしている。

それも、さして遠くない過去に。


その時に彼女が名乗った名前を、私は口に出した。

「スレフ・ジニマス…」


すると、彼女は顔を上げた。

「今、私の名前を呼んだか?」


「え、ええ…」

彼女は顔をほころばせ、歓喜の声を上げた。

「あ、ああ…

やっと、やっと私の名前を…!」


笑顔になったのも束の間、すぐにまた泣き出した彼女に、龍神さんが苦笑いをした。


「おいおい、泣いてばっかじゃ訳がわかんないぜ」


魔女は、涙を拭った。

「ひぐっ…龍神…だっけか。お前も私の事は知らないんだな?」


「あ、ああ…今アレイが見せてくれたおかげで、あんたの話が嘘じゃないって事はわかったが…」


「当たり前だろ!私は、嘘なんか何も言ってない!

私は、このメドルアの皇魔女、スレフだ!」


これは…

ちょっとよくわからないけど、とりあえず彼女がおかしいのではなく、私達が彼女の事を忘れている?という事のようだ。


「落ち着いてください。…申し訳ないんですが、私もあなたの名前がわかっただけで、あなたの事自体を思い出した訳じゃないです」


魔女は、ため息をついた。

「…でも、無視されるよりずっとマシだ。

ありがとうな、私の名を呼んでくれて」


「いえいえ。とりあえず、国に入りましょう。

スレフさんのことは、私から説明します」


「そうか…うっ…本当に…ありがとう」




門前の警備員には、過去を見せつつ説明した。

二人は狐につままれたような表情をしながらも、とりあえず納得してくれた。



そして、スレフさんを連れたまま手当たり次第に歩き回った。

こうすれば、エーリングさん達に会えると思ったからだ。


なぜ彼女に会おうと思ったかというと、さっきスレフさんの過去を見た時に気になるものを見たからだ。


数日前の夜中の事だ。

スレフさんは、窓を締めて寝ていた。

そんな中、青白く光る小さな四角形の何かが、外から窓をすり抜けて部屋に入ってきた。

そしてそれは、スレフさんの近くでしばらく浮遊した後、彼女の左の頬にすっと入り込んだ。

直後、スレフさんは目を覚まし、頬を触ったけど、何も変化がなかったので気にせず、また寝てしまった。


彼女を私達が忘れてしまったのは、これが原因だと思う。

でも、一体何が起こったのか全くわからない。

なので、エーリングさんを見つけて意見を伺おうと思ったのだ。




程なくして、エーリングさん達の部隊を見つけられた。

「あ、いたいた」


「エーリングさん!」

私が声を張り上げると、エーリングさんはこっちを見て、すぐにスレフさんに気づいた。


「ん…お前だな、例の魔女は!」


「エーリング…」

スレフさんは、悲しげにつぶやいた。


「…お前、なぜ私の名を知っている!どこで私の名を聞いた!」


「聞いたも何も…私達は長い仲だろ…お前のとこに何回も魔法の講師として行ったじゃないか。

頼むよ…思い出してくれよ…」


でも、エーリングさんは冷たかった。

「何を訳のわからないことを!私はお前など知らんわ!」


槍を抜き出したので、私が事情を説明した。


「…待ってください!」




私が経緯を説明すると、エーリングさんは唸った。

「うーむ…

とするとこいつではなく、我々がおかしいと言うことか」


「おかしい、というか…少なくとも、この人は何も間違った事を言ってはいません。

理由はわかりませんが、私達が彼女をきれいに忘れてしまった…という事かと」


「ふーむ…」


とその時、一人の騎士が走ってきた。

「隊長!」


エーリングさんは、彼の方を向いた。

「どうした?」


「城で聞き込みを行ってきたのですが、数日前の深夜、城の周辺を飛び回る奇妙な光が目撃されたそうです」


「奇妙な光?…詳しい事はわかるか?」


「はっ、なんでも、青白い光を放つ小さな物体だったとの事です。

それはしばらく飛び回った後、ある部屋に窓をすり抜けて侵入したと…」


私だけでなく、全員がピンときた。

「どこの部屋だ?すぐに調べよう」




光が窓に飛び込んだという城の一室へ来た。

スレフさんは「ここは私の部屋だ!」と言い張ってたけど、城の人達はみんなそんなことはない、ここは長い間空き部屋だ、と言っていた。


でも、過去を見るまでもなくわかった。

スレフさんは、嘘なんか言ってない。

ここは、紛れもなくスレフさんの部屋なんだ。


「ふーむ…」

窓やベッドを調べながら、エーリングさんは唸る。


「隊長、何かわかりましたか?」


「いや、何も…」

ここで、エーリングさんははっとして、スレフさんに尋ねた。


「数日前、お前は確かにここで寝ていたのだな?」


「ああ」


「ならば、最後にここで寝た日の夜、何か変わった事は起きなかったか?」


「変わったこと…あ!」

スレフさんは、手を叩いた。


「そうだ…うっすらとだけど、変な青白い光が見えたんだ。それでその直後、頬に変な感じがして…」

私が見た過去を、そのまま話してくれた。

するとエーリングさんは、「やはりそうだったか…」とつぶやいた。


「そうだった、って?」

龍神さんが聞くと、彼女は言った。


「スレフ、すまなかった。今回の件は、お前に非はない」


「え、どうした、急に…」


「お前が見た光の正体は、恐らくイロールという異形の一種だ」


「えっ!?異形!?」


「ああ…イロールは青白い光を放つ、2センチほどの小さな異形だ。

こいつは、人や異人に寄生するタイプの異形でな…寄生されると、周囲の人々に永久かつ完全に忘れられてしまう」


そういう事だったのか。

どうりで、どうしても思い出せないわけだ。


「な…!どうすればいいんだ!そいつをどうにかしてこの体から追い出せないのか!?」


すると、龍神さんが口を開いた。

「一応、不可能ではないはずだ…」


「本当か!?」


「ああ。ただ、とにかく根性が必要だ」


「…どういう事だ?」


ここで、再びエーリングさんが喋る。


「イロールは、宿主の心身が激しく傷つき、壊れる寸前になった時、宿主の体を捨てる。

つまり、お前の体と心、両方を痛め付ける必要があるのだ」


つまりは、すごく痛くて辛い思いをして耐えなければならないのか。

まさしく、根性が必要な事だ。


でも、スレフさんは迷う事なくこう答えた。


「…やってやる!このままみんなから忘れられたままなんて、絶対にごめんだ!」


エーリング・ホーレイ

レザイ王立騎士団において元帥の階級に就いている魔騎士で、輾羽の直属の部下の一人。

槍、弓、短剣、術を見事に組み合わせた圧巻の戦術と、心優しい性格で多くの団員から尊敬と信頼を集めている。

戦闘時は騎士らしく荘厳とした口調と態度だが、プライベートでは一気に打ち解け、柔らかで優しい女性となる。

異様な程に長い金髪のポニーテールが特徴的で、その顔立ちとスタイルもとても美しい。

年齢は不詳だが、少なくとも8000年は生きていると思われる。

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