古城の戦い
嵐のような猛攻を必死で避け続けた。
でも、奴は疲れる所を知らず…
疲労から動きが鈍り、ついに攻撃を食らってしまった。
「アレイ!」
龍神さん達の声が聞こえる。
「…!」
素早く跳ね起きて棍の叩きつけを躱す。
さっきの攻撃もそうだったけど、私と奴とでは一撃の威力の差があまりにも大きい。
でも、それは必然か。
私と奴との間には、超えられない壁がある。
奴は、かつて熟練の吸血鬼狩りであり守人だった最高位の負の吸血鬼。
対して私は、つい最近戦いに身を投じるようになった一介の水兵。
性質的な意味でも経験的な意味でも差がありすぎる。
しかし、だからと言って諦めはしない。
私には、守るべきものが…裏切れないものがある。
地に手をつき、グラスを睨みつける。
いかに体格や体力、能力に差があろうと、本当に勝てない相手ではないはず。
何か、何か方法があるはずだ…
…閃いた。
上手くいくか分からないけど…一か八か、やってみよう。
まずは、回避の構えを取りながら魔力の即時回復薬を飲む。
そして、太陽術を使う。
「[シャインフォール]」
帯状の太陽光を降らせる術。
消費は重いけど、これで一気に削れる…と思う。
「ぐぉっ…!!」
上手くいったようだ。
グラスが大きくのけぞった所に、さらに追い打ちをかける。
「[フローズンクラスト]!」
相手を凍らせてダメージを与える術だけど、本当の目的はそれではない。
ある程度凍りついてくれれば、弓技の「ブレイクスリンガー」で一撃で倒せるかもしれない…
その望みにかけようと思ったのだ。
ところが、グラスの体は凍りつきはしたものの、奴自身の動く速度は低下しなかった。
しかも、こちらが隙を見せた事で反撃を受けてしまった。
棍によるかち上げを食らい、大きく空中に飛ばされた後、地面に叩きつけられた。
さらに、そのまま顔を殴られた。
「う、うぅ…」
顔を押さえ、どうにか立ち上がる。
すると、掌を生暖かい感触が走った。
流血しているらしい。
「ふん」
グラスは、嘲笑するように言い捨てた。
「無様だな。小綺麗な顔が、低俗な血にまみれている…」
「…!」
回復魔法を使い、弓を射る。
しかし、奴はそれを容易く避けた。
「今までのお前の快進撃はただのまぐれ…それを証明してやろう」
グラスは手を横にかざし、黒い魔弾を複数生成した。
そして、それらに魔力を流して巨大化させ、一斉に飛ばしてきた。
これなら避けられる…と思ったのだけど、予想と違う動きをしてきたために避けられなかった。
吹き飛ばされ、立ち上がったちょうどその時、再び私の顔目掛けて棍の一撃を放ってきた。
避けられるはずもなく、食らってしまった。
さっきよりも強い痛みと流血を感じ、すぐに回復する。
すると、すぐにまたふっ飛ばされる。
タチの悪い事に、奴は私が回復するまで待って、回復した途端に攻撃してくる。
しかも、奴の武器は棍。連撃が容易な武器だ。
傷を癒やしたとはいえ、疲れが溜まっている私に、連撃を避けられる訳がない。
一撃喰らうだけでも、意識が飛びそうな程の痛みが走り、刃物で切られたかと勘違いするほどの血が流れる。
避ける事は出来ないし、回復してもまたやられる。
でも、回復しなければとても二発も耐えられない。
結果として、私はほとんど回復しては奴に殴られるだけのサンドバッグと化していた。
こんなの、ただの拷問だ。
もう、何も考えられない…
「なんなのよ…なんでそんなにいたぶるのよ!」
朔矢さんが、叫んだ。
「そうだな…理由は、二つか」
グラスは、棍を振るうのを一度止めた。
「まず一つ。こいつからは、吸血鬼狩りの力を感じる…恐ろしい程のな。
幸運にも、こいつはまだ自身の力に気づいていないし、覚醒する兆しもない。
だが、俺達にとってこいつの存在が脅威なのは確かだ。故に、排除しておくに越した事はない」
グラスは棍を顔の前で横に構えた。
「そして二つ。こいつは、俺に傷をつけた女だ」
それを聞いて、龍神さんが唸った。
「どういうことだ?」
「さっきも言っただろう…こいつは15年前、俺が狙った獲物だ。あの時のこいつは、どう見ても普通の水兵の子供だった。だが、俺が近づくと妙な髪飾りを出して、女の鎌使いの魔力魂を召喚した。そして、俺の翼と左目を斬り裂いた。
何とか逃げ帰ったが、あの日以来、俺は飛ぶこともままならなくなり、左目は見えなくなった」
グラスは、恐ろしい程に光る右の目で私を見た。
「故に、お前とまた会える日を楽しみにしていた。
今度は、確実に仕留めてやると心に誓ってな。
しかし、本当に立派な姿になったものだ。
今こそ、声を大にして言ってやろう。
お前が憎い…ここで、殺してくれる」
なるほど、つまりは私を逆恨みしていた訳だ。
まあ、いいだろう。
「なる…ほどね。いかにも…吸血鬼…らしい、理由だわ」
私は震え声で言った。
直後、また殴りかかってきたが、今度は結界を張って防いだのでダメージは受けなかった。
「そんなに…私が憎いなら…」
わざと挑発的な微笑みを浮かべ、弓を納めて両手を広げる。
「やってみなさいよ…私を殺して、あんたの…何が、満たされるのか…知らないけど」
一見無防備に見えるだろうけど、実は大事な細工をしているのだ。
「お前を殺して満たされるものか?それはな、一重に俺達の心だ」
これには、朔矢さんが反応した。
「へえ…?」
「俺とニリは一心同体…俺が傷つけば、ニリが傷つく。
そして、俺の心残りはニリの心残り。
ここでお前を殺せば、俺もニリもスッキリする。
ただ、それだけだ」
「ああそう…」
今奴が話している間に、準備は完了した。
そして、ちょうどいい所で奴はかかってきた。
「…ふふ」
私は微かに笑い、帽子に手を入れる。
そして、祈りながら髪飾りを取り出す。
「お姉ちゃん…力を貸して」
髪飾りから、姉の魔力魂が現れる。
「!!」
驚くグラスに、姉は容赦なく鎌を振り下ろした。




