表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
三章・影の雷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/322

パーティー

全てが片付いた後は、町を立て直すことになった。

というのも、イクアルさんに化けていたイゼル…さん、が国民や兵士に莫大な負担をかけていたからだ。


まず、国民から半ば強引にかき集めた食糧を全て返し、国民城の兵士達みんなに疲労回復の薬を飲ませ、休暇を与えた。


国の人達に関しても、みんな疲れ切り、過労とも言える状態で、いつ誰が倒れてもおかしくない状況だった。

そこで、まずイクアルさんが疲労回復の薬を人々に配り、その上で十分な休みを与えた。

さらに、サリスさんが臨時の診療所を開き、体調の悪い者は名乗り出るようにと呼びかけた。


イゼルさんは自身が殺した人々及び過労や飢餓で死んだ人々の蘇生を行い、彼らとその家族への謝罪をサリスさんと私達と一緒に行った。

全員の蘇生が終わった後、イゼルさんは人々を集め、自分がサリスさんの弟子である旨を最初に言った後、今までイクアルさんに化けて悪政を強いていたこと、再生者尚佗の甘言に乗ってリッチとなっていたことなど、全て話した。


そして、今回悪いのは全て私であり、イクアルさんにもサリスさんにも非はない。もしまだ私に恨みがあるなら、どんな私刑でも受け入れる、と宣言した。


でも、人々は彼女に危害を加えなかった。

批判の声は上がったけど、それは尚佗に対するものばかりで、イクアルさんはもとより、イゼルさんやサリスさんに対してのものは全くなかった。


それどころか、人々はこうして私刑と批判を覚悟して公衆の面前に姿を現し、謝罪と償いをしたイゼルさんの潔さに感心し、また、心を入れ替えて再びサリスさんの弟子となり、修行に励む事を誓った彼女に、応援の言葉を投げかけた。


イゼルさんは、涙ながらに人々に感謝した。

サリスさんも、何度も頭を下げていた。


この国の人達は、みんないい人ばかりのようだ。

イクアルさんは、いい国民を持ったものだ。


あとは、国民達も含めたみんなで国を立て直した。

全てが終わった後は、サリスさん達がお詫びで…ということで計画してくれたパーティーの準備の手伝いもした。


その、最中のことだった。


私は朔矢さんと一緒に、城の火薬庫へ向かっていた。


「ったく、まさかあたしが民衆のパーティーの準備の手伝いなんかすることになろうとはね」

朔矢さんは、そんな事をぼやく。


「嫌なんですか?」


「別に…嫌ではないわよ。でもね、なんか…」

朔矢さんは一旦黙り、再び口を開いた。


「てかさ、あんたこころの妹なのよね。あいつは、あんたが龍神と旅してる事は知ってるの?」


「?え、ええ…」

話題がいきなり飛んだから、困惑した。

「そうなの。妹を、天敵とも言える種族に任せるなんて、こころも変な奴ね」


「あ、あの…」


「なに?」


「今、パーティーの準備が何とか…って話してましたよね?」


「…あっ。ごめんね、パーティーって言えば、龍神がパーティー好きだったなって思って。

それで、龍神と言えば、あんたと旅をしてる奴。あんたの姉はこころ。それで、こころはあんた達が旅に出てる事を知ってるのかな…って思ってさ」


この一瞬で、よくそこまで連想ゲームを繋げられたものだ。

その頭の回転はすごいと思うけど、話が飛ぶのはちょっと困惑してしまう。



さて、そんな事をしているうちに火薬庫に到着した。


「ここが火薬庫…」

黒い樽が棚や床にびっしり並べられた、大きな部屋。

正直、思ってたより大きい。


「まるでワイナリーね…はー、ワイン飲みたいわ」

朔矢さんはワインが好きらしい。


「で、これを何個持っていけばいいんだっけ?」


「24個です」


「結構な数ね。…しっかしさ、イクアルもなんでモノ出したりするのかしらねぇ」

今回のパーティーはサリスさん達が企画したものだけど、物や人員の準備に関してはイクアルさんも手伝うと申し出た。

それで今、夜打ち上げる花火を作るのに必要な火薬を持ってきて欲しいと頼まれたのだ。


「まあ、いいじゃないですか。感謝の気持ちの現れなんでしょうし」


「…ふー。あたしにはわかんないわ」


朔矢さんはそんな事を言いながらも、火薬樽に浮遊魔法をかけて浮かべた。


「アレイ、これ何て書いてあるの?」

朔矢さんが指さしていたのは、「火気厳禁」と書かれた看板。

「火気厳禁、って書いてありますね」


「そう…ありがと」


一瞬なんで読めなかったんだろう…?と思ったけど、すぐにその疑問は消えた。

そうだ、朔矢さんは読み書きが出来ないんだ。


「ごめんね、色々と迷惑かけて」

朔矢さんは、急に謝ってきた。

「あんたには言ってなかったけど、あたしは読み書きが出来ないのよ」


「そうらしいですね。過去を見た時に拝見しました」


「そっか、あんたは過去を見れるんだったわね。

別に、字を勉強した事がない訳じゃないわよ。一文字だけの言葉なら読めるんだけど、二つ以上の文字がつながると途端に読めなくなるの。…いや、厳密には読めない訳じゃないんだけど、一つの言葉として認識出来ないのよ。小さい時からずっとそうなの。

だからさ…まあ、あんたにこんな事言うのもなんだけど、あたしの特性って事で理解してくれない?」


もちろん、理解する。

この世には色んな人がいる。

その中には、私には想像も出来ないような個性を持った人が沢山いるだろう。


「わかりました」


「ありがとうね。やっぱり、龍神と旅してた奴は違うわ」

え?と言うと、朔矢さんは言った。


「あら、聞いてないの?あいつも特性持ちなのよ」


「え…?」


「あいつの話し方とか行動とか、なんか変な感じしなかった?」


「…特には」


「そう…あのね、あいつは『自閉症』ってのを持ってるわよ」


「え、彼がですか?」

これは意外だった。

龍神さんは、普通の人だと思っていたから。


「そう。ま、本当に軽いものだから、気をつけて見てないと気付きづらいかもね。

あいつは時々、変に小難しい言葉を使うし、謎のこだわりを見せてくれる事もあるわ。

あと、話の筋とか空気を読んでくれない事があるから、ちょっと困らされる場面もあるわね」


「そうでしょうか?」

私は彼と接して、露骨な違和感を感じた事はないのだけど…

「ま、うちらはみんなクセ強いからさ、そういうもんだと思ってちょうだい。それに…わかってるとは思うけど、あいつは悪い奴じゃないから」


「てことは、少なくとも朔矢さんは彼を認めているんですね」


「ええ、そうね。あいつは人の事を考えないけど、根はいい奴なのは間違いないから」

朔矢さんがそう言ってくれてよかった。

同族にも嫌われていたら、彼には本当に居場所がない。


「…それで、何してたんだっけ」


「この火薬を持っていくんですよ」


「…あ、そうだった。じゃ、さっさと行きましょ」



みんなの所へ火薬を持っていった頃、ジヌドへ行っていた龍神さんが帰ってきた。

そして、彼も私達の手伝いをしてくれた。


準備をしている間、彼の言動をよく見ていた。

でも、やはりこれといっておかしな所はなかった。

強いて言えば、人々を集めてやたら饒舌に喋っていた事か。


龍神さんはサバイバル術やゲームに詳しいらしく、集まった人達とその話題で大いに盛り上がっていた。

その様子を傍から見ると普通の談笑なのだけど、よく見ると彼は…何というか、自分の話ばかりしているように感じた。

周りの人達は、困惑しながらも何とか彼に合わせている…という感じだった。


そう言えば、彼は自分の好きな事を喋りすぎる癖があるって言ってた。

もしかしたら、あれも彼の特性故のことなのだろうか。



パーティーは盛大な花火が打ち上げられ、豪勢な食事が出され、大盛りあがりだった。

冬に見る花火も悪くない。

何なら、夏に見る花火より綺麗だった。


龍神さんは花火も好きらしく、人々に花火に関する雑学をペラペラと喋っていた。

あの饒舌っぷりは感心するけど、興味がない人にとってはいい迷惑だろう。


終わった後、龍神さんと合流した。

「楽しかったですね!」


「ああ。こんな所に来たのも、花火なんか見たのも久しぶりだ」


「それじゃ、行きましょうか」


「え、どこに?」


「宿ですよ。もう寝ないと」


「…そうか、そうだな。よし!」


そうして、私達は町中の宿に泊まり、夜は明けていった。


      ◆ 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ