四人目の皇魔女
地下牢の過去を壁に映し出してもらい、それを数年置きに遡ってもらうこと数分。
ついに、「それ」を確認した。
「あった…これだ」
地下牢の突き当たりの壁に作られたトンネル。
それは2400年前に掘り抜かれ、その500年後には埋められた。
しかし埋められた、と言ってもあくまで入口が塞がれただけで、抜け道自体は健在のようだ。
「これなら行けるわね」
「はい…行きましょう」
一応、兵士が見てない事を確認してから、壁の突き当たりへ向かう。
そして、そこでアレイが能力を使う。
「古のモノよ、ここに蘇れ…」
そして壁が静かに崩れ落ち、その奥に隠された抜け道が姿を現す。
「よし…行こう」
小雷球で明かりを灯し、抜け道を進んでいく。
もちろん、抜け道の入口はアレイに塞いでもらった。
長い間使われていなかったせいか、カビ臭い上にネズミがうじゃうじゃいる。
「鬱陶しいですね…[凍てつく大地]」
アレイが術を使い、ネズミを全て凍らせた。
「助かるよ。ネズミは好きじゃないんでね」
色々冒険してきたが、ネズミとムカデは何度見ても慣れない。
出口の岩を動かし、抜け道を抜けた先は、小さな石造りの部屋だった。
部屋の中には、全部で6つの棺が置かれている。
「玄室…かしら。ずいぶん気味悪い所に繋いだもんねぇ」
「なんか、ゾッとしますね…」
アレイは、ふっとした顔で棺の一つに近づいた。
「なにしてるの…?」
「この棺から、魔力を感じます。何か、とても強い異人の―」
アレイは戸惑う事なく、棺の蓋を開いた。
その中にいたのは、赤い帽子にピンク色のスカート、白い靴下を履いた、オレンジ髪の魔女。
それを見て、俺たちは驚いた。
「えっ…!?これって…!」
「さっきの皇魔女…よね。どういうこと?」
なんと、俺たちを牢に押し込めた皇魔女が眠っていたのだ。
「棺に入ってるってことは、死んでる…のか?」
「いえ、この体から出されている魔力は生者のものです」
「そう…なら…」
朔矢は、あろうことかモーニングスターを取り出した。
因みにモーニングスターとは、棒や棒に繋いだ鎖の先端にトゲつきの鉄球をくっつけた武器だ。
「えっ!?ちょ、朔矢さん!」
「ま、待てよおい!」
「何よ?」
「そんな物騒なもので起こす奴があるか。せめて術で起こそうぜ」
「そうですよ…それにそんなもので叩いたら、普通に死なせてしまいかねません」
「そう?」
「そうに決まってます!」
「いや、でも、別に叩こうとしてる訳じゃないわ。トゲを擦り付けてやろうと思って…」
「いや、それもダメだろ!
…あのな、相手は皇魔女なんだぞ!怒らせでもしたら、俺ら今度こそやられるぞ!」
すると、朔矢はモノを下げて大人しくなった。
素直に俺が能力を使い、弱い電流を流すと、皇魔女はあっさり目を覚ました。
「はっ!…ここは?」
「よかった…目覚められましたか!」
「あ、あなた達は…?」
「私はアレイ、レークの水兵です。この人達は…」
「甘燗朔矢、そして冥月龍神、ね。言われるまでもない」
「あら、ご存知でしたか」
「当然でしょう。それよりなぜ、あなた達がここに?」
「訳あってお城を訪ねた所、あなたそっくりの存在に牢に入れられたんです。それで今、抜け道を使って牢を抜け出してきた所なんです」
「私そっくりの…?あっ!そうだった!」
皇魔女は、全てを思い出したようだった。
「何者かが私を襲い、メターモの極魔導書を奪って私に化けたのでした!」
「極魔導書?」
朔矢は知らないのか。
「私達魔女にのみ扱える、最高位の魔法が記された魔導書…それを何者かが奪い、私の姿を騙った!」
「そういうこと…でも、魔女にしか扱えないなら、なんでそいつは魔導書を奪って変身できたの?」
「それはわからない。でも、奴が私の姿に化け、私に昏睡魔法をかけてここに押し込めた事は覚えてる」
「昏睡魔法?でも、あんたには何の魔法もかかってなかったが」
「えっ…?どういうこと…?」
「こっちが聞きたいよ…」
すると、アレイが喋り出した。
「もしかしたら、長い時間が経って魔法が弱まっていたのかもしれません。
昏睡魔法は、元々長続きするものではありませんし」
皇魔女は素晴らしい!と言う時の教師のような顔をして、
「よくご存知ですね。その通り、昏睡魔法は永続的なものではありません。
しかし、いつ解けるかは全くわからない。
…そうだ、お尋ねしますが、今は何年何月ですか?」
「今日は、1245年12月23日です」
「12月…!?ということは、2か月も眠ってしまっていたんだわ!
フルスは…我が国は、どうなっているのです!?」
「あなたの偽物によって、酷い圧政と搾取が強いられています。既に何人もの人が、理不尽な理由で処刑されたでしょう。今日も、皇魔女に楯突いたという理由で処刑された人がいます」
それを聞いて、皇魔女は肩を落とし、うなだれた。
「ああ…なんてこと…!
奇襲を許した上、国を乗っ取られてしまうなんて…」
その肩に、朔矢が手を置いた。
「皇魔女さん。落ち込む前に、やることがあるんじゃない」
「…やること?」
その刹那、皇魔女ははっとした。
「そうだ…国を、民を取り戻さねば!あなた達、お力添えを願えますか!」
「もちろんよ」
「喜んで!」
「アレイに同じくだ!」
皇魔女は、肩を震わせた。
「ありがとう…ありがとう!!」
俺は顔を引き締め、手を上げた。
「さあ、そうと決まれば行動開始だ。
この国は…俺達が守って見せるんだ!!」
「「はい!!」」
こういう役、ちょっと憧れてたんだよな。
「それで?作戦は?」
「そうだな…」
「まずは、私の偽物の正体を暴かなければ。
どなたか、顕現魔法を扱える方はいませんか?」
「なら、俺がリベレーの魔導書を使えるぞ」
「あたしも、顕現魔法がかかった短剣を持ってるわ」
「私も顕現魔法は使えます」
「あら、これは失礼。では、全く問題ありませんね。
あとは、玉座に突撃するのみ!」
「…え?」
「それが一番シンプルな方法かと。そこで向こうの正体を暴き、私が本物の皇魔女だとみなに明かすのです!」
「…まあ、それでなんとかいけるだろう」
「民は私を信じてくれている。事情を知れば、偽りの皇魔女に味方するものなどいないはずです!」
「…そうね。よし、もうめんどいし凸りましょ」
「ああ!行くか!」
「はい!…あ、そうだ。皇魔女さん、失礼ですがお名前は…」
「はっ、これは失礼しました。
私はイクアル・アリテッド、火の皇魔女です」
「…わかりました、ありがとうございます。
まずは、城と国を取り戻しましょう!」
イクアル・アリテッド
魔法王国フルスの皇魔女で、火の属性と「錬磨」の異能を持つ。
自らの火と武器である扇を組み合わせて巧みに扱い、攻撃から防御、回復まで満遍なくこなす事で知られ、火術士最強との呼び声も高い。
外見は再生者楓姫に少し似ているが、当然ながら性格も種族も全く異なる。




