キトマ〜フルス道
幸か不幸か、キトマとフルスの間には直通の道が通っているらしい。
ただしきっちり整備されている訳ではなく、異形や野盗がうろつく事もある少々危険な道らしい。
野盗は言わずもがな、異形も別に怖くはない、という訳で、その道を通る事にした。
その道は、平坦な草原を切り開いて作られたものだった。
除雪こそされていないけど、道の所はまわりと比べると雪の高さが低くなっていたのでわかった。
「除雪くらい、しといてほしいもんだな…」
龍神さんが、雪から足を抜きながら言った。
「まったくね…これじゃ、一体何時間かかるかわかんないわ」
キトマ〜フルス道は2時間ほど歩く長さらしい。
でも、このままでは確かに何時間かかるかわからない。
「確かにそうですね…私がなんとかしてみます」
「えっ?できるの?」
「試してみます」
私は左手を伸ばし、術を詠唱する。
「氷法 [雪解けの道]」
道に積もった雪がきれいに解け、地面がむき出しになった。
「おぉ、こりゃ助かる」
「寒いし、走って行きましょうか。時短にもなるし」
…やっぱり寒かったんだ、朔矢さん。
そして、朔矢さんは走り出して間もなく転んだ。
「道は濡れたままなので、走ると危ないですよ…」
「…先に言ってよ」
「いや、普通はわかるものだと思いますが…」
泥だらけになった朔矢さんを術で洗ってあげようと思ったのだけど、「そんな事したら余計に寒くなるからいい」と言われた。
「寒くないって言ってなかったか?」
「…うるさいわね!」
朔矢さん、本当の事を言われると怒るタイプなのか。
正直、こういう人は嫌いじゃない。
「でも、そんな状態で町に入って恥ずかしくないですか?」
「大丈夫よ…入ってすぐ池かどっかで洗えばいい!」
「池は凍ってると思いますが…」
「…川!川で洗うわよ!」
「どっちみち濡れるなら、今やった方が…」
すると、朔矢さんは短剣を取り出した。
「わっ!わ、わかりました!わかりましたから、それしまって下さい!」
そんな茶番をしながら、道を進む。
しばらく歩いた所で、メイスを持った野盗が出てきた。
金品と食糧をよこせと脅してきたけど、朔矢さんが旋刃盤で胸を切り裂いて黙らせた。
さらに少し歩くと、短剣を持った野盗が出てきた。
これは私が氷閉じで動きを封じ、そこを龍神さんに倒してもらった。
そしてこれを皮切りに、次々に野盗が現れるようになった。
持っている武器は斧や弓、棍など。
剣や槍を持っていないあたり、もとは普通の人間や異人だったのだろう。
かわいそうにも思うけど、放ってはおけない。
単独で襲ってくるものもいたけど、2人3人で襲ってくるものもいた。
別に苦戦するほど強い相手ではないのだけど、消費を抑えておきたいという意味では厄介な相手だ。
何しろ数が結構多いので、3人がかりとはいえ、全て捌くのはなかなか大変なのだ。
「やっぱり走りましょ!キリがない!」
「…そうですね!」
走り出したはいいが、ぬかるんだ道を走るのはやはり苦労した。
わかってはいたことだけど、飛べないというのは結構なバッドステータスだ。
「きゃっ!」
後ろから飛んできた矢を避けたら転んでしまった。
すぐに後ろを向き、相手を凍らせようとしたのだけど、なんとその野盗は凍りつかなかった。
「えっ…?」
私だけでなく、龍神さんたちも驚いていた。
「ふふ…あいにくだが、効きやしねぇぜ」
「どうして…あっ!」
理由がわかった。野盗は氷雪のマントをつけている。
氷雪のマントは、寒さを防ぐと同時に氷のダメージをカットする魔法道具。
よく見れば、男の後ろにいる子分らしき野盗達も同じものをつけていた。
「なんでそんなものを…!」
「旅の防人からいただいたものを、こいつで増やしたのさ。今どき、このマントは必須アイテムなんでね」
親分が見せびらかしてきたのは、コピーライトという魔法道具。
これは、光を当てたものを増やす事ができる。
「大した野盗どもだな…だが、肝心の強さはどうかな?」
「見せてやらぁ!」
親分が手を伸ばして合図をすると、子分達が襲いかかってきた。
爪を構えてきたものは私が矢を胸に撃ち、斧を振り上げてきたものは龍神さんがギリギリまで引きつけて攻撃をかわしつつ、カウンターを決めて倒す。
朔矢さんは、シャベルを振り上げてきた野盗の足に旋刃盤を絡めて転ばせ、引きずりまわしてまわりの野盗を攻撃、最後に地面に叩きつけて仕留めた。
さらに、私は弓持ちの矢を躱しつつ魔弾を撃ち、矢で追撃して倒した。
龍神さんが刀でメイス持ちを切り払い、朔矢さんが短剣を投げて棍持ちを倒す。
一人だけいたクワ持ちは、私が五点射ちで決めた。
最後に残った親分はというと、激昂して斧を投げてきた。
「っ!」
見てわかった…
こいつ、それなりの経験者だ。
何故ならこの男は今、斧を投げつつ剣で斬りかかってくるという技を仕掛けてきたからだ。
さらに、今度は斧を一度投げ上げて剣で攻撃し、攻撃を受け止められた所を落ちてきた斧で畳み掛けた。
この戦闘スタイルからすると、戦士だろうか。
「戦士か…」
龍神さんも気づいたようだ。
戦士ということは、たぶん元は人間だったのだろう。
人間が生きながらに異人になる事を昇華と呼び、昇華先は基本的に戦士、防人、術士、騎士、殺人者。
そして、その中で最も昇華する確率が高いのが防人と戦士。
この両者はかなり近い関係にある種族で、正直あまり大きな違いはない。
強いて言えば、防人は地味な技や防御系の技に優れた者が多く、戦士は派手な技や攻撃系の技に優れた者が多い。
上位種族になると守人と狂戦士という種族に分かれ、それなりの相違点が生まれる。
そして、最上位の種族である勇人と魔戦士になると、近縁種族とは思えない程の違いが出てくる。
戦士も防人も、元は大切な人を守るために戦うことを決めて異人になったとされる種族。
なのに、その末路がこれか。
悲しいけど、現実は現実だ。
「星術 [ライトニングフォール]」
術を使い、その鍛錬された肉体を地に還した。
「…」
「ちょっと、野盗相手に何考えてるのよ」
「あっ、何でもないです」
再び道を進む。
野盗が現れるのは、その地域の経済が不安定な証拠。
でも、フルスがそんなに経済的に不安定な国だという話は聞かない。
「朔矢さん、キトマって経済不安定な国なんですか?」
「いや、別にそんなことないと思ったけど」
「そうですか…では、なぜ野盗が現れているのでしょう」
「フルスの方が荒れてるんじゃない?」
「そうなんでしょうか…」
まあ確かに、盗品を売り買いする店があるくらいだからそうでもおかしくはないか。
そんな事を考えてるうちに、フルスについた。




