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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
三章・影の雷

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吸血鬼の洞窟

国を出て、言われた通り北へ向かった。


「んで?どこに吸血鬼がいるって?」

朔矢さんはもう怒ってはいなかった。


「北の洞窟、って話だったが」

ここで私は、星気霊廟で手にした地図を開いた。

地図には、町の真北の岩山に赤い丸が映し出されている。

「ここからさほど遠くない所にあるみたいです。たぶん、しばらく歩けばつくかと思います」


「そうか。だそうだぜ朔矢」


朔矢さんはため息をつき、そしてはっとしたように言い出した。

「そう言えばアレイ、さっき王を黙らせたあれは何?」


「あ、あれは…」

取り出そうとすると、龍神さんに止められた。

「ま、待て!出さなくていい。

朔矢は、ただあれが何なのかだけ知りたいんだ。そうだよな?」


「そ、そうそう。あたしは、あれの正体が気になるだけなの。ね、教えて、アレイちゃん?」


この感じ…朔矢さんたちも、お姉ちゃんが怖いのかしら。

まあ無理もないだろう。


モノは出さず、説明だけする。

「あれは私が転生して間もない頃、再生者になった姉に初めて会った時に渡されたものなんです。

そして言われました…『これには私の力と魂が宿ってる。もしあなたが、これ以上ないくらいの危険を感じた時は、これを使いなさい』と。

それ以来、ずっと手放さずに持ち歩いているんです」


「な、なるほど…使った事あるのか?」


「一度だけあります」

すると、朔矢さんが食いついてきた。


「いつ…使ったのかしら?」


「15年前、恐ろしく強くて凶悪なアンデッドに襲われた時です。

あれは…」

当時はわからなかったけど、今ならわかる。


「負の吸血鬼…恐らく、アビスランクの…です」

すると龍神さんたちは、真剣な顔で聞いてきた。


「男のか?」


「はい…黒髪の男性の吸血鬼でした。

目は黒く…背丈はちょうど龍神さんと同じくらいで、青い衣服を着ていました。

コウモリのような、大きな黒い羽を2枚持ってたので、すぐに吸血鬼だとわかりました」


結構前の事だけど、初めて本気で殺されると思った経験だからよく覚えている。


「どこで襲われたの?」


「アルノの北の森です。レークから海を泳いでアルノの北の浜辺に上がり、そこから森を通り抜けて町に行こうとしていた時の事でした」

この後の事が印象に残り過ぎていて、なんでこんな事をしていたのかは覚えていない。


「すでに暗くなり、夜になっていました。

早くアルノへ行かないと…と焦って走っていたとき、空からそれが降りてきたんです」


「それが、吸血鬼だったと…」


「はい。無言で私の前に降り立ち、手を伸ばしてきました」


「捕まったの?」


「いいえ。捕まったら殺されると、本能的に理解しました。

後ろに下がってあの髪飾りを取り出したんです。そうしたら、霧のような姿の姉が現れて…吸血鬼の翼と顔を斬りつけ、追い払ってくれたんです」


「そう…」

朔矢さんは、真剣な口調で言った。

「よかったわね、捕まらなくて。もし捕まってたら、今頃あんたもそいつと一緒に、あたし達の獲物になってたわよ」


「えっ…?」


「言ってなかったかしら…あたしも吸血鬼狩りなの。

…あんた、本当に幸運ね。アビスの吸血鬼に襲われて助かる奴なんて、殆どいないわ。姉に感謝するのね」


「ええ…姉には、感謝しています」


龍神さんは黙っていたけど、その顔は真剣だった。




(国を襲う吸血鬼…か)

洞窟への道中、私は一人考え事をしていた。

吸血鬼が町や国を襲う事は珍しくない。

でも…なんだろう。

さっきの王の言葉に、変な違和感を感じた。


吸血鬼が、生者を襲って仲間を増やそうとしないなんて。

それは吸血鬼…というか、アンデッドとしてあまりに不自然な事のように感じられる。

しかも、襲った町の人々を皆殺しにする訳でもなく…


一瞬、本当に吸血鬼?と思ってしまった。

いや、吸血鬼には違いないんだろうけど…

なんだろう、何かが違うような気がする。


でも、既に実害が出ているなら、やるしかない。

それに、私は(一応)吸血鬼狩りなのだ。

相手がどんな怪物であれ、戦って打ち勝つ。

それが私達の役目なのだから。



雪に覆われた岩山を登ってゆく。

今更だけど、朔矢さん、あんな薄着で寒くないのだろうか。

…と、5分程で洞窟についた。

中を覗くと、コウモリの群れが飛び出してきた。

「きゃっ!」


「いかにもな雰囲気だな」


「…行きましょ。もうコウモリは出てこなさそうよ」





ゆっくりと、着実に奥へ進んでいく。

あたりは真っ暗なので、龍神さんが術でともした明かりを頼りに進む。


「意外と暖かいわね…」


「まあな。てか、お前そんな格好で寒くないのか?」


「大丈夫よ。あたしは寒いのは平気だから」


「氷属性でもないのにか…」


と、ここで洞窟は終わりになっていた。


「ありゃ、終わりか」

龍神さんがそう言った直後、彼に天井から何者かが襲いかかった。


それは、一対の翼と鋭い牙を持つ女だった。

「[ヘッドステッチ]!」

私が矢を放つと、女は容易く気絶した。


倒れた女をよく見ると、確かに吸血鬼のようだった。

でも…何だろう。何か違和感を感じる。


明らかに何かが違うという訳ではない。

何か…直感的?本能的?に、違和感を感じるのだ。


「こいつは…」

龍神さんが、口を開く。


「ええ、間違いなさそうね」

朔矢さんも、そう言った。

やはり、私の感じた違和感は本物だったようだ。


「正の吸血鬼…吸血鬼には違いないが、アンデッドではないな」


一瞬で理解した。

正の吸血鬼は、負の吸血鬼と同様に牙で他者の血を吸う存在。でもその正体は、突然変異を起こした魔人の一種。

つまりアンデッドではなく、他者を同族に変える力も持っていない。

また血を吸う理由も異なり、負の吸血鬼は血液そのものを養分とするのに対して、正の吸血鬼は血液に宿る魔力や霊力を養分としている。


「なんで、正の吸血鬼が…」

その時、奥から甲高い声が響いた。


「姉から離れろ!」


声の方を見ると、もう一人女が立っていた。

手に鞭を持ち、目を紫に光らせている。

「姉に…手を出すな!」


「…違う!俺達は君らの味方だ!」


「そう…!あたし達はあんた達に手を出すつもりはない。だから…それを下げて!」


朔矢さんと龍神さんの言葉、そして2人のその顔を見て、彼女は次第に表情を緩めていった。


「良く見れば…町では見たことのない顔ですね。

では、私達に手を出すつもりはないというのは本当なのですね?」


「ああ。俺達は吸血鬼狩り…あくまでも負の吸血鬼を狩る組織の者だ。だから、君らに手を出すつもりはない」


「安心しました。どうか奥へ来て下さい。私達の話を聞いて下さい…」


彼女の目には、どこか物悲しさがあった。

過去に何かあったのだろうか。


過去を見てみようかと思ったが、やめにした。

きっと、すぐにわかることであろうから。




世界観・正の吸血鬼

吸血鬼のうち、他者の血に含まれる魔力や霊力を糧とするもので、魔人の仲間に分類される。

突然変異で誕生した魔人の亜種で、負の吸血鬼とは根本的に異なる存在であり、種族上の関係も一切ない。

基本的には魔人と共に生活しているが、そもそもの数が少ない上、負の吸血鬼や一部の種族から迫害される事もあり、短命な傾向にあるため結果的に珍しい種族となっている。

外見に関しては、翼を持つもの、持たないもの、尻尾のような捕食器官を持つもの、牙を持たないものなどレパートリーが豊富。

なお負の吸血鬼と異なり、普通の食事をとる事でも十分生存可能。

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