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殴り込み

「お待たせ」

朔矢さんは、今度はちゃんと飲み物を持ってきた。

私の前には紅茶、龍神さんの前には麦茶を置き、私達と向かい合った席に戻って喋りだした。


「で?あんた達は何しに来たのよ?」


「ザーロンの連中とやり合おうとしてる、って噂に関して話をしたくてな…」

すると、朔矢さんは彼の言葉を切って話を始めた。


「あー、その件?確かにそういう噂があるらしいけど、うちらはそんなつもりはないわよ。

ま、向こうが仕掛けてくるんなら別だけどね」


「そうか、なら大丈夫そうだな。

向こうも仕掛けてくるつもりはないって言ってたし」


「そう。なら安心ね」




2人が喋っている間、私は朔矢さんの過去を覗いていた。

どうやら、朔矢さんは16歳までは闘技場で剣闘奴をし、それ以降は飲食店や魚屋などでバイトをしていたみたいだ。


でも、作業中も無関係な事が次々に頭に浮かんできて集中する事が出来なかったり、人の話を最後まで聞けなかったりした。

また細かい所まで注意が回らず、さらに指示を受けたり話を聞いてもすぐに忘れてしまい、ミスや忘れ物、なくし物が極端に多かった。

そのため、どこで働いても怒られてばかりいた。


その上、言葉の教育は受けたけど、文字の読み書きがどうも上手く出来なかったらしい。

今でも、自分の名前すらまともに書けないし読めないようだ。


そういう事だったのか。

これでは、生きづらさを感じるわけだ。


龍神さんやさっきの組長もそうだけど、殺人者になる人はみんな辛い過去を背負っているように思われる。

けれど、同時に、周囲の環境が悪すぎた気もする。


これも過去を覗いてわかった事だけど、朔矢さんは踊りがとても好きで、一晩中踊りの練習をし続けた事が何度もあるらしい。

それ以外にも、有名なダンサーの一座が近所に来た時は仕事を忘れて見入ったり、食事も取らずに朝から夕方まで踊り続けたこともあるみたいだ。


これらの事から、私は一つの仮説を出した。

朔矢さんは、恐らく生まれつき自身の能力の使い方のバランスが悪いだけなんだ。

話してみてわかったけど、朔矢さんの人格に問題があるようには思えない。

つまり、朔矢さんは悪い人ではないのだ。


朔矢さんの性質(というか、特性?)は、見方を変えれば長所にもなると思う。

まず、朔矢さんは不注意さが目立つようだけど、これは言い換えれば色んな事に興味が湧く、ということでもある。

その分色々な経験ができて、発想力や想像力が豊かになり、新しいアイデアを閃く事も容易だろう。


そして、朔矢さんは同時に衝動的でもあるようだ。

これは自分の気持ちを抑えられない、我慢する、待つ、という事が出来ないという事でもあるけど、同時に行動力があり、自分の意思を貫けるという事でもある。

これは、素晴らしい長所だ。

私には、きっと真似できない。


それに、何もかも忘れて好きなことに熱中し追求できる、っていうのも大きな強みだと思う。


この人は、たまたま生まれつき能力に偏りがあって、それの短所ばかりが目立つ環境に置かれ続けてしまっただけ。

きっと、本当は龍神さんと同じように優れた能力があり、また人としても良い人なのだろう。



「アレイ?」


「…あっ!はい!」


「上の空になってたわよ?何か考え事してたの?」


「いえ…その…朔矢さんの過去をちょっと…」


「そう」

正直、怒るかと思った。

でも、朔矢さんは怒ったりしなかった。


「あたしの過去を見て、どう感じた?」


「どう、って…その…とても辛い経験をされてきたんだなと…」


「そうよ…あたしは今まで辛いことばかりだった。

でも、今は違う。こうして、生きる場所を見つけられたんだから」


「…」

申し訳ないけど、朔矢さんには他に生きる道があったような気がしてならない。

元々親がダンサーなのだし、踊りが好きなのを活かしてダンサーになるという手もあっただろう。

それに過去を見た限り、発想力も行動力もあるみたいだし、道化師とかにもなれたと思う。

まあ、それは結果的には本人が決めることだけど。


「…ま、まだ若い子には難しい事かもね。

それよりさ、葉持廻(はじね)会の奴らを詰めに行ってくれない?」


また新しい名前が出てきた。

「葉持廻…か。確か、お前らのとこと対立してたよな?」


「ええ。ザーロンはあたし達の商売の邪魔をしてくるし、葉持廻はこの前出来たばっかりってのもあって、どうもあたし達と反りが合わないのよね」


反社會同士の戦いは死者が多数出る壮絶なものだと聞く。

反りが合わないだけで殺し合いになるとは…恐ろしい組織だ。


「それで、あそこの組長、最近になって盗難品の密売も始めたらしいのよ。

あたし達の物も盗んで売ってるみたいだからさ、あたしにかわって一発ヤキを入れてきてやってくれない?」


「…はあ、わかったよ。こっからそんな遠くもないし、行ってやる」


こうして、私達は3つ目の反社會の本部へ行くことになった。







それはキトマの外れの寂れた通りの一角に、ひっそりと佇む建物だった。

「おい!入るぞ!」

龍神さんが入り口の前で叫んだけど、返事はない。



「…留守、でしょうか」


「仕方ないな、ガッツリやろう」

私の混乱をよそに、彼はふーっと息を吸い込んだ。

そして…


「開けろやオラァ!!

開けねぇならこの扉ぶち破んぞ!!」


想像もしてなかったほど、恐ろしい声量と口調でどなった。

すると、数秒もしないうちに人が出てきた。


「な、なんだ!殴り込みか!?

今は誰も入らせねぇからな!」


「やかましいわ!どけ!でなきゃぶった斬るぞ!!」


「わ、わかった!わかったからそれしまえ!」


そして組員をどかし、彼は建物に入った。

「行くぞ」


「は、はい!」



内部はさほど広くなく、すぐに奥の部屋…組長の部屋へ行けた。

組長は女の殺人者で、龍神さんが刀を突きつけて問い詰めた。


「花摩流とザーロンの不仲の噂を流したのはお前だな?」


えっ?と思ったけど、その通りだったらしい。


「だからどうした…私はただ、奴らが潰し合ってくれればいいと思っただけよ」


「盗んだ品々はどうした?」


「ふん…とっくに売りさばいて、武器に変えたわ。

今頃は、奴らをうちの組員が襲ってる。

お前らが戻った所で、もう手遅れだろうよ…」


「…っ!」

龍神さんは、女の首に刀をより強く押し付けた。

女は痛がる訳でもなく、にんまりと笑って見せた。

「花摩流から盗ったものの中に、妙に高く売れた真っ赤な玉があった…。

あれに何の価値があるのか知らないけど、きっと奴らにとっては大事なものだったんでしょうよ…」


「赤い玉…?」

直感で、赤のスカイストーンだとわかった。

だから、私も女を問い詰めた。

「それはどこに売ったの!?」


「フルスの道具屋…あそこなら、何でも買ってくれる…」


龍神さんは、女の首を斬り落とした後、外へ飛び出していった。




急いで花摩流の本部に戻ると、朔矢さんの他数人の組員が葉持廻の組員とやりあっていた。

それは単なるケンカというレベルではなく、もはや殺し合いと言えるものだった。


これはなかなか収拾がつかなそうだ。

そう思った直後、葉持廻の組員全てに小さな雷が落ち、床に倒れた。


「これで静かになったな」

龍神さんの所業だったようだ。


そう言えば、龍神さんの異能って何なんだろう。

もしかして、電気を操る力だろうか?

だとしたら、電の術を使うまでもない気もする。


「ありがとね。まず、奥へ来て。話を聞くから」

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