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一触即発…?

2人は睨み合い、そして…




と思ったのだけど、

「おっ!やっぱそうだわ、新しくタトゥー入れたな!」


「…へへぇ、気づいたか。どうよ、この侍のタトゥー!カッコいいだろ?」


「おう!いやー、やっぱ男はカッコよくてなんぼだよなあ!」


「あたぼーよ!カッコつけねぇ男は男じゃねえ、ってな!」


なんか、和やかな雰囲気になった。

いや、いいんだけど、なんか拍子抜けと言うか…


「あ、そうだ。アレイがビビっただろうから謝っとけ」


「謝っとけ…んだな…。娘さん、怖がらせて、ごめんね。僕がザーロン・リトスタ…このクランの、組長だ」


「は、はい…」

優しい口調にも驚いたけど、僕という一人称を使うのも意外だった。

こういう人は、口調も荒々しいイメージがあったから。


「…ん?どうした?」


「え?」


「心に、隙が出来たな?何か、肩の荷が、下りたか?」


「いえ、ただ、その…意外な喋り方をなさったものですから…」


「意外な喋り方、あ、そういうこと。あのね、僕らはみんな、こんなもんだよ」


「そう…なのですか?」


「なのですか…?そうさ。僕らは、あくまでも殺人者…として示しをつけるために、荒い言葉を使ってるだけ…だから」


「そういう事だ」

龍神さんもそう言ってくれて、なんか安心した。

ところで、さっきから言葉を変に区切ったり、私や龍神さんの言った事を繰り返してるのはなんなんだろう。


「あの…失礼ながら、組長さんがこう…お優しいって事は、組の皆さんもこんな感じなんですか?」


「…そりゃもう、ね。うちの組員は、みんないい奴ばっかだよ。ま、クセは強いけど」


「それはそうだな。あのなアレイ、殺人者ってのは、基本的には元々善良な人間だった奴らなんだぜ」


「えっ…?」


「意外だろ?でも、そうなんだよ。僕だって、昔はヒラの人間…だったんだ。

けどな、僕は他の人間とは、違った。それで結局、こうなったってわけだ」


「違った、って何が…?」

すると、彼は少し真剣な顔をした。


「違ったって何が…僕はな。まあ、簡単に言えば、龍神と似たようなもん、さ。自閉症…っていう障害を、持って生まれたんだ」


そういうことか。

水兵にもよく似たものがあり、そういう特性を持った人が産まれることがあるから、イメージはつく。

ひょっとして、私が彼と会話していて感じている違和感は、それが原因だろうか?

「それで、僕は人と、コミュニケーションを取るのがどうにも苦手…だった。話はできる。けど、人の言葉を聞いても、意味がわからなかったりしたんだ。それでどんなに頑張っても、何をやっても、うまくいかなかった。友達も、ろくに出来ないまま大人になって、ろくな仕事にも就けなくて、結局、自殺しちまった。そんで、反社会人に転生して、こうしてこの町で生きてる…ってわけだ」

どうしよう、言いたい事がわかるようでわからない。

とりあえず、持って生まれた特性が原因で子供の頃から苦労を重ねてきて、それに耐えきれなくなって自殺して、転生した…ってことでいいのかしら?



そう強引に納得し、話を続けた。

「…。今はどうなんですか?」


「今はどう…今は、マシにはなったよ。でも、まだできない事もある。そういう時は、組員に助けて、もらってる」


「やってくれるんですか?」


「ああ。だから、言っただろ?みんな、いい奴なんだって」


そう言えば、龍神さんは子供の頃から苦労してきたんだった。

この人も、きっとそうだったのだろう。


殺人者、という種族には少なからずネガティブなイメージがあったけど、それは今、私の中で完全に崩壊した。

彼らの正体は、元来の特性から周囲との間に摩擦が生まれ、どんなに苦しんでも誰にも助けてもらえなかった、可哀想な人間なんだ。

それ故に人の世を…社会を憎み、恨み、歯向かっている。

でも、その裏には悲惨な過去と傷ついた心がある。


私も、一歩間違えていれば彼らのようになっていたのかもしれない。

そう考えると、もう差別意識など持てなかった。



「また、心がほぐれたな…。なんだ、僕らに…抱いてた偏見が崩れた、って感じか?」


「失礼ながら…でも、なんで私の心を?」


「私の心を?…僕は、[情読]の異能を、持っててな。相手が、どんな感情を抱いてて、心がどうなってるのか、がわかるんだ。何を考えてるのか…は、わからないけどね」


「そういうことでしたか」


恐らくは、読心系の異能の一種か。

相手の心の中を読む[読心]の異能は、ずいぶん前に廃れてしまった。けど、今でもその系譜は残っていると聞く。

ここにも、その証人がいたようだ。


「んで?花摩流とやり合おうとしてるって聞いたんだが、本当か?」


「花摩流と…?あー、その件はな…」

彼は、お茶を一飲みしてから言った。


「…嘘だよ!」


「え、嘘…?」


「ああ。なんか、そういう噂が立ってるらしい。けど、僕らはそんなつもりは全くない!ま、向こうがどうかは、知らないけど」


「ただの噂か。なら危ないな」


…え?事実でない噂とわかったのに警戒するの?


「だな。こっちとしても、向こうとやり合う事自体は別に嫌じゃない。でも今は、そうも言ってられない。事情があるんでね」


「あの…事実ではない噂なら、なぜ気にされるのですか?」


「悪事千里を走る、ってやつさ。嫌な噂、ってのは、どこまでも広がる。そして、やがては、それを真に受ける奴が出てくる。

そうなると、最悪だ。そのうち、噂が現実になる」


「あっ…」

そういうことか。

確かに、それはある。


「なもんでね、僕もどうしようか…考えあぐねてたとこなんだよ。

けど、少なくとも、うちの組に、向こうと今すぐにドンパチやり合おうと思ってる奴は…いない。それだけは確実だ」


「そうか。じゃ、向こうにも確認を取ってこなきゃだな」


「確認を…そうしてもらえると、助かるよ。レークの水兵もいる事だし、いい機会だ」


「私…ですか?」

私は、自身を指さして言った。


「ああ。娘さん…なら、ヒットムアンダーを使う、って言えば、察してくれるよな?」


ヒットムアンダーとは、この大陸の地下に張り巡らされた地下道。

楽に各地の都市へ行ける反面、反社会的勢力や異形の温床になっている所もあることから、ノグレを中心としたいくつかの都市が警備隊を配置している。

そして、私の町レークも、12年前からこの警備隊に参加している。


「はい。わかります」


「ここから、奴らの事務所までは、あそこを通るのが近い。んだけど、あいにくレークの水兵が固めててね。でも、こっちにもレークの水兵がいれば、楽に通れるだろうさ」


「だな。よし、行こう」






町の地下へきた。

地下にも町があったけど、地上とはうってかわってごく普通の町だった。


「なんか…全然、普通の町ですね」


「当たり前だ。ジヌドって町はな、地上は飾りで地下が本物なんだ」


私は、彼の顔を見た。


「言ってなかったっけか?殺人者は、社会で生きたくても生きられなかった人間のなれの果て。

ここにいるのも紛れもなく殺人者だが、奴らは昔から普通に生活したいと願ってきた連中だ」


「では、地上の人達は…?」


「奴らは、この町を守ってるんだ」


「え…?」


「ジヌドの地下は、俺のような殺人者…もとい社会で生きられない奴の最後の砦の一つ。

他の所の連中に町を潰されないよう、嫌われ役を演じて町を守ってる。それが、上の奴らなんだよ」


そういう事だったのか。

水兵はそうでもないけど、人間や他の異人の社会では、はぐれ者に手を差し伸べてくれる人はまずいない。

それだけ、生きるのが大変なのだ。


一度社会からはぐれてしまえば、復帰はとても大変だ。

それはわかってはいたけど、訳あってはぐれざるを得なかった人達。

あるいは、必死に努力したけど社会に追いつけなかった人達。


そんな人達が最後に辿り着く境地が、殺人者。

そして、この町なのだろう。


殺人者の町は、一度発生すると決して消えないと言われている。

どこかの国の軍隊が潰そうとしても、まず間違いなく返り討ちに合うのだ。

外部の軍に襲われた時、殺人者の町の者達は異常に強い団結力を発揮する。

どんな状況になっても、絶対に諦めないのだ。


その異常なエネルギーの正体は一体何なのか、と長らく言われていたけど、それがわかった気がする。


「さあ、行くぞ。

ここは、君のような子がいるべき所じゃない」


彼の言葉には、言葉にならない重みがあった。

国·都市·施設紹介

・ジヌド

大陸南西に位置する、大陸で最も古くから存在する町の一つ。

殺人者系種族が人口の大半を占める「殺人者の町」であり、地上部は法や人権を気にする者が皆無の無法地帯と化している。

多くの反社會の事務所がある他、数々の悪名高い殺人鬼や無双者を生み出してきた町でもある。

周辺は中央王国ノグレの軍によって厳しい入場制限が設けられており、普通の異人や人間は入れない。

一方でその地下には、一般的な国の人々とさして変わらない穏やかな生活を送っている殺人者たちがいる。


ザーロン・リトスタ

反社會ザーロンの組長。年齢は22歳。種族は反社会人。

反社會の組長でありながら、性格はとても大人しい。

中等度のASD(高機能自閉症)を持っており、話し言葉を細かく区切ったり、相手の言ったことを繰り返したりすることがある。

[情読]の異能を持つ。

武器には剣とハンマーを扱う。属性の適性は闇。

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