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勝利

デススイマーが手を握ると、そのイカのようなものは体を閉じ、手を振るうと、きりもみ回転しながら突っ込んできた。

やむを得ず、刀を抜いて捌く。


一目でわかった…あれはシヤリイカと呼ばれる、一部の海人のアンデッドが操る化け物だ。

しかし、なぜだろうか?俺は海人に関する知識は殆ど無いのだが。


…もしかしたら、アレイの力を受けたからかもしれない。

水兵の力を受けると、同時に水兵の知識も分け与えられるという話を聞いたことがある。

感覚が麻痺してしまっていたが、本当は水兵を仲間として連れ回せてるってのはなかなかすごいことなのだ。


白水兵は…まあ、殺人者の仲間だし、貴重な仲間なのには違いない。

それに、白水兵は水兵と違って昇格がある。

経験を積んでいけば、いずれは殺人鬼や無双者になれるのだ。


殺人鬼と無双者は共に殺人者系の上位種族で、殺人鬼が殺しを極めた殺人者であるならば、無双者は戦いを極めた殺人者。

殺人鬼は元の数は多いが、迫害され減りやすい。

無双者は元の数は少ないが、減りにくい。


イカを全て捌いたところで、マリルが攻める。

「[ライオンブレイク]!」


闘気を爪にまとわせ、攻撃した。


マリルは、まだまだ若く先の長い殺人者。

何を目指しているのかはわからないが、頑張ればきっと上位種族になれるだろう。

そうなれば、集落でも一目おかれるに違いない。

アリクを守ってやる事も、出来るようになる。


さて、いまのマリルの一撃で、デススイマーには決定打にはならないまでも、結構なダメージを与えられただろう。

それは、奴の様子を見ればわかる。


「や、やるじゃない…?」

少しふらつきながらも、どうにか立っている。

この調子なら、あともう少し攻めれば倒せるだろう。


しかし、この時残りの二人がこちらに突っ込んできた。

ダンピールがジャンプしてマリルに斬りかかり、腐人が俺に殴りかかってくる。


俺の扱う武器では重厚な打撃武器とは相性が悪いので、宙返りで躱して武器を空振りさせ、僅かな隙が生まれたところを攻める。


「[ハングドマン・ナイフ]!」

これは短剣を投げる技だが、空中にいる間に投げないとまともな威力にならない。

なので、このタイミングで使うのがいいのだ。


「ぐぁっ…!」

わずかに怯んだその隙に、弓を射つ。

「[三点撃ち]!」

これで腐人はオーケーだ。


うめき声が聞こえて振り向くと、マリルがダンピールに腹を貫かれていた。


「[エアースラッシュ]!」

アレイが腕を斬りつけると、ダンピールはマチェットをマリルから抜き、マリルを蹴り飛ばしてアレイに斬りかかった。


アレイはマチェットで攻撃を受けとめ、相手の足を踏みつけて怯ませて切り返しを狙う。


「へへ…小娘のくせに、やるじゃんか…」


さらにアレイは斬り合いをしながら、右手で氷を撃ちだして相手の足元を凍らせる。

そして向こうが滑って転んだ所に、マチェットを振り下ろした。




「[ネクロスウェーブ]!」

突如、横から紫の波が襲ってきた。

マリルは避けたが、俺は食らってしまった。


「うっ…!」

波が去った後、足が痛み、怠さと吐き気が襲ってきた。

これは弱体系の毒の効果だ。

あの波、弱体毒の効果もあったのか…。


デススイマーは、アンデッドと言えど海人なので、奴らの固有術である海術を扱うこともできる。

その中には波を呼び寄せる術もある…とは聞いたことがあるが、毒を持ってるとは聞いたことがない。


まあ、アンデッドには毒とか酸を吐く奴もいるし、そんな不思議な事でもないが。


「龍神さん!」

アレイは技を見て効果がわかったらしく、すぐに解毒魔法をかけてくれた。


「助かった」


「弱体毒はなかなか辛いですからね…。っ!」

アレイは、デススイマーを睨みつけた。


「なあに?そんな怖い顔しなくてもいいでしょ?

これはあくまでも試合なんだから」


「そうね、今やってる『これは』試合ね。

でも、私が言いたいのはそもそもの話。

あんた、デススイマーでしょ?それも、水兵の!」


「ええ。それが何か?」


「…はあ。忘れたのかしら?

堕ちた水兵は、どんな手を使ってでも殺すのが私達の掟。どんな理由があろうと、水兵…いや、海人が不死者になる事は許されない。

それを犯した奴に、優しい顔なんかできるわけないでしょ!」


「…そういえばそんなのあったっけ。

それで?それを律儀に守ってるわけ?健気なもんね」


「種族の掟を守るのは当然でしょう。…私は、生きた水兵として、あんたを許さない!

この二人と一緒に、あんた達を倒す!」


と、ここで残りの二人が起き上がってきた。


「水兵…か。しかも生きてる…。こりゃ、なかなか悪くねえな…」


「スタイルはあんまよくねーけど、まあ仕方ないな。

ペトより楽しめるかもしれねえし、やってやるか」

どうやら、この二人はデススイマーと仲良しこよしやってるようだ。

そして、アレイの事も狙っているらしい。


だが、露骨に欲望をむき出しにしたのは奴らの最大の失敗だと言えよう。


アレイは弓を高々と掲げ、まばゆい光を放つ。

そして、奴らの目が眩んでいる隙に技を放つ。

「弓技 [拡散氷矢]!」


さらに、続けてマチェットを振るう。

「剣技 [水平斬り]!」


そして、奴らが倒れたのを確認すると、俺にこう言ってきた。

「龍神さん。あの男達の動きを止めておいて下さい」


返事をし、術で二人の動きを止める。

「月術 [スタンライト]」

月光を浴びせ、動きを止める術。

あまり長くは持たないが、アレイがことを済ませるには十分な時間だろう。


アレイは、デススイマーに近づいてゆく。


「っ…!あ、あんた…!」


「何も言う事なんてない。堕ちた水兵よ、今、その罪を贖いなさい」

アレイはそう言って、デススイマーの顔を真っ二つに叩き割った。


同時に、二人にかけた術が解けた。

奴らは一斉にアレイに向かってきたが、アレイはそれをジャンプで避け、空中で海術を使う。

「海術・陸流し」


再び大波が押し寄せたが、それはアンデッド二人にだけ牙を剥いた。


そして波が去った時、アンデッド達は物言わぬ屍と化していた。



「勝負ありー!!な、なんと…あのガダーロが…負けてしまったー…っ!

ということで…今回の優勝は…チーム…生者だーっ!!」


観客席からわっと歓声が沸き起こると同時に、疑問や不満の声も上がる。

しかし、これで俺達の優勝が確定した。




その後、俺達は派手な壇上に登らされ、あれやこれやとインタビューを受けた。

俺はどれも適当に答えたが、種族は?という質問にだけは答えなかった。

アレイとマリルはともかく、俺は安易に種族を公表してはいかんのだ。


さて、優勝の景品は薄気味悪い化け物の顔が掘られた大量のメダルと10万テルンだった。

メダルはここのカジノで使えるものらしいが、正直いらない。

カジノは好きだが…異形の町のカジノなんて、絶対ろくなもんじゃない。


まあ、金に関しては普通にありがたい。

10万テルンなんて、異形狩りで稼ぐのはなかなか大変な金額だ。

普通に働けば、これを上回る額を稼げるんだろうが…あいにく、俺に働くという選択肢はない。

 

殺人者は、基本的に働かない。

何者にも縛られず、ただ気の向くまま、自由に生きる事ができる永遠の無職(エターナルノージョブ)

一切働かずとも、誰にも何も言われない選ばれた種族なのだ。


とはいえ、元は普通に働いてたのに、何かの理由でこうならざるを得なかった奴が多いのも事実だ。

例えば俺は、人間関係を構築したり、維持したりするのがろくに出来ない。

しかも、社会の常識とかマナーとかいうものを守れない。

たまに相手の話の文脈を読めず、何を言いたいのかが汲み取れない事があるし、なぜだか他人に出来る事ができない。

その正体はわからないが、どんなに努力しても、他人との間に埋まらない溝がある。

…だから、働くのをやめた。


正直、その意味ではアレイが羨ましいと思ってたりもする。

しつこいようだが、俺とて好きでこんなになった訳ではない。

俺だって、本当は…。




っと、物思いにふけってる間に話が進んでいた。

景品はまだあり、それはこの町の創始者のお気に入りの娘とお楽しみ出来るというものらしい。


これだ、これがメインターゲットなんだった。


スタッフが鍵を開けた扉をくぐり、マリルを先頭にして突き進む。


そして、その先のホールのような広い部屋に入ると…


「来たわね?さあ、そんな所で立ってないで、こっちにいらっしゃい」


それは、どこかで聞いたことがあるような声だった。



世界観・毒

その名の通り、相手に悪影響を及ぼす属性。

この世界の毒には、相手が何もせずとも徐々に体力を奪う、または傷を負いやすくさせる負傷毒、体調や気分に異常をきたし、魔力を下げる弱体毒、神経を麻痺させて体を動かなくさせる麻痺毒、傷を負った際の止血を妨害する出血毒の4種類がある。


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