異形の町
まず目についたのは、町の入り口に建てられた妙な像。
夕陽に照らされるそれは、石像のようだったが、何だか得体の知れない化け物を象ったものだった。
「なんか、気持ち悪い像ですね…」
「悪趣味だな…前来た時はこんなもんなかったぞ」
「来たことあるのか。その時はどんな町だったんだ、ここ」
「いや、普通の町だったよ。
水兵と人間の文化が混じってる、珍しい町だなと思って見てたんだが…」
そんな事を言いながら門をくぐる。
「おや、お客様ですか?いらっしゃいませ」
町で最初に出会ったのは、なんと異形だった―
それも、高位の人型異形。
「…!?」
3人が一斉に構えを取った。
「おやおや、野蛮な方々ですね。
この町では、戦闘は禁忌ですよ」
…どういう事だ。
言葉を喋る異形が普通に町中にいるのも驚きだが、異形が客人を歓迎するというのにも驚く。
マリルが、少し動揺しながら聞いた。
「なんだ、それじゃあお前は僕らを襲わないのか?」
「襲うだなんてとんでもない。あなた方は、外の町からやってきて下さった大切なお客様。
今や異形と不死者が互いに共存する楽園となったこの町で、戦闘など野蛮の極み。
当然ではありますが、わたくしのみならず、他の異形並びに不死者も一切あなた方に手出しはしませんよ。
ここはこの世の楽園、お客様には存分にお楽しみ頂かねば…」
奴は、そう言って礼をした。
「…なあ、僕、全然状況がわからないんだが」
「私も」
「俺もだ」
全くもって意味がわからん。
一瞬、幻惑にかけられている可能性も考えたが、それはなさそうな気がする。
…となると、一体なぜこんな状況になってるんだ?
それを確かめる方法はただ一つ。
「行こう、町の奥へ」
町中を一通り歩いてみたが、まあ驚いた。
異形はスライム系からバーサク系まで、アンデッドはゾンビからダンピールまでと、下位から上位までの連中が一通り揃っている。
しかも、それらはみんな店をやってたり、楽しくお喋りしながら歩いてたりする。
まさかと思って酒場を覗いてみたら、案の定異形とアンデッドのたまり場と化していた。
やつらはこちらを認識しても、襲ってこなかった。
正直、初めての経験だ。
「いらっしゃい!」
マスターは果たして…と思ったら、見事にエスケルになっていた。
骨だけのアンデッドであるエスケルが酒場を切り盛りしてるとは、これいかに?
「おー、異人のお客さんか。こりゃ、珍しいねえ」
「異人のお客、って…」
「不死者が出すお酒なんて、なんか飲みたくない…」
口々に怪しむ言葉を吐きながら、出された酒を飲んだ。
味は、まあ、悪くはないが…なんか複雑な気持ちだ。
「どうだい?うまいかあ?」
「あ、ああ…」
「そいつぁよかった。この体になってから、酒が飲めないもんでね」
そりゃ、そうだろうな。
酔わない奴に酒場をやる資格はねえ…って、どっかで聞いた事があるが。
「あ、あの…」
「ん?どうしたい、お嬢ちゃん?」
「この町に、人間や異人はいないんですか?」
「昔はいたさ。でもな、今じゃ誰もいないよ…少なくとも人間はな」
「人間"は"?」
マリルが食いついた。
「ああー、そうさ。異人も、この町でたった一人、あの子の他にはいねえな」
「その異人ってのは、誰なんだ?」
「この町が始まった時に外から来たっていう女の子さ。名前は忘れちまったが、まあえらくかわいくてよぉ。オレ含め、町の男達はみんなあの子に夢中さ。けどな、あの子はこの町を作った魔王さんのお気に入りでな、簡単には会わしてもらえねぇんだなあー、これが」
「…それって」
アレイと同じことを、俺も思っていた。
「たぶん、アリクの事だな」
マリルは、テーブルを叩いて身を乗り出し、店主を問い詰めた。
「その子はどこにいるんだ?知ってるなら教えてくれ!」
「詳しくは知らんが、中央の格闘場のどっかにいるらしい、って聞いたぜ。
大方、魔王さんのお近くに置かれてるんだろうけどな」
「何か、会う方法はないのか?」
「そりゃ…あれよ。格闘場で優勝すんのよ」
「格闘場で優勝する?」
「おう。この町で唯一、争いが許されるのが格闘場でな。あそこで開催される勝ち残り形式のトーナメントに選手として参加して、最後まで勝ち残れば、あの子に会えるってわけよ。んなもんでな、この町の男達はみんなこぞって強さを磨いてるのよ」
これは、もう答えは一つしかない。
「そのトーナメントには、誰でも参加できるのか?」
「ああ。けど気をつけな、生者は死ぬ事もザラにあるからな…」
「わかった。よし、行こう!」
マリルは席を立ち、店を出ていった。
「あ、おい!待てよ」
勘定を、と思ったが酒はタダだそうだ。
全く、大した店になったもんだ。
勢いそのままに町の中央まできた。
ここには、前は役所があったはずだが…今は、立派なコロシアムが立っている。
建物の外にも沢山の異形やアンデッドがいて、なんとも賑やかだ。
もっとも、かなり異常な空間だとも言えるが。
「ここでやるんでしょうね。
どこにいけば参加できるんでしょうか…」
「お、何だ?異人の客か?」
声をかけてきたのは、やたら立派に着飾ったゾンビ。
「まあそんな所だ。なんだ、試合を見にきたのか?」
「おうよ。ここでやる戦い、ヴァットはこの町で最高の娯楽だからな」
「ヴァット…っていうのか、ここでやるやつ」
普通のゾンビと普通に喋ってるっていうのがなんとも変な感じだ。
「あんたらは何だ?見る側か?それとも参加する側か?」
「俺たちは参加しようと思ってる。景品の娘に会ってみたいんでな」
「おー、そうか。やっぱそうだよな!あの娘はこの町で一番のカワイ子ちゃんだよなあ!」
感情がない筈のゾンビからそんな台詞が出てくるとは思わなかった。
「そうだな。で、どうすれば参加できるんだ?」
「普通に受付にいって、参加を希望すりゃ参加できるよ。まあせいぜい頑張りな」
普通に…というと、ここから見える入り口からいけば良いのか。
受付のスタッフ?は、女のリヴィーだった。
俺とマリルが参加したいと言うと喜んだが、アレイが参加したいと言うと何やら喚いた。
嫉妬だろうか?
さて、どうにか3人一緒に選手登録できた。
なんとも幸運なことに、ちょうどもうすぐ次の試合が始まる所だったようだ。
さらに、試合はちょうど3人一組で行うタイプらしい。
なんと好都合な事だろうか。
外から聞こえてくるファンファーレ。
それと共に待たされた部屋を出、門をくぐって戦場へ赴く。