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異形の者

マリルの攻撃は、ラトナさんが瞬時に張った結界に防がれた。

そして、素早く反撃もしてきた。

「[エーテルダッシュ]」

青白いエネルギー弾を複数打ち出し、一斉に飛ばしてきた。


「危ない!」

マリルを押し倒し、被弾を防いだ。

これの威力は、ここにいる人の中では私が一番よく知っている。

まともに喰らえば、龍神さんでも危ないかもしれない。


「エーテル…もしかして、霊騎士の血筋か?」

さすが、龍神さんは経験がある殺人鬼だ。


「そう…私は霊騎士シザーラの末裔。と言っても、もう何百年も前に死んだ霊騎士だけどね。

その血を引いてる私は、霊騎士の力である霊力とエーテルを扱う事ができるのよ」


「水兵が霊騎士の血を引くなんて、そんな事あるのか…。僕らじゃ考えられない事だな」

白水兵は水兵と違い、白水兵としか子供を成さない。

故に、他種族との混血は生まれない。

これは白水兵…というより殺人者の種族としての強みである一方、弱みでもある。


「あら、白水兵は他種族と交わらないの?」


「ああそうさ…僕らは殺人者だ。他の種族とは交わらない主義なんだよ!爪技 [ドラゴンルーク]!」

マリルは爪を突き出してラトナさんに飛びかかる。


「殺人者…?なら、排除しないとね。

この町に、殺人者はいてはいけないからね!

棍技 [ブラストリーク]!」

ラトナさんは、マリルの攻撃を防ぎつつ棍で魔力の弾を飛ばす。

マリルが素早く短剣を取り出し、弾を全てかき消していたのには驚いた。


「それはあんたもだろ!てか、僕らよりよっぽどあんたの方が危険だと思うけどな!

刃技 [スナイパーエッジ]!」

短剣を素早く振るい、斬撃を2発放つ。

ラトナさんは斬撃を棍で受けとめ、そして跳ね除けた。


「殺人者と理性のある異形を天秤にかけたら、どっちが危ないのかは一目瞭然だと思うけど?」


ここで、龍神さんが口を出しつつ技を繰り出す。

「[メドールスラッシュ]!…理性があるのは今のうちだけだ。そのうちそれすらも失って、そこらの異形と同じ怪物になる!

…いや、下手したらもう失ってるのかもな」


「人聞きが悪いわね。私は我を忘れたりしないわ。現に、今もこうして正常な思考を持ち続けてるじゃない」


「正常…か。本気で思ってるなら、あんたはもう手遅れだな!」


「手遅れ…ねえ」

ラトナさんはため息をつき、彼を睨みつけた。


「…私を、そこらの異形と一緒にするんじゃないわよ!!」

棍を振りかぶり、全力で龍神さんに殴りかかった。


「刃技 [ガルウィング・ロウ]」

彼は、それを躱してカウンターを見舞った。


「っ…!」

彼が手に持っていたのは、刃が鎌のように曲がった金縁の短剣。

…あれは確か、カランビットと呼ばれる短剣。

普通の短剣より殺傷力があり、なかなか珍しい武器だけど、扱うには技量が必要だと言う。


ラトナさんは、今ので右手の甲に切り傷を受けていた。

「カランビット…しかも、ドマス社製の…。

あなた、相当裏社会で顔が効いてるんじゃない?」


今ので、彼の武器を細かく見ていたのか。

やはり、ラトナさんはよく見ている。

「どうだろうな。それはあんたが俺に勝てたら教えてやるよ」


「ああそう。ま、どうでもいいんだけどね。

どうせ殺して、尚佗様に捧げるものだもの。

本当は生者のほうがいいんだけど、殺人者はちょっと私の手には負えないから、締めちゃうわね」


そして、ラトナさんは右手を大きく、ゆっくりと回す。


「…まずい!お二人とも、すぐに結界を!」


「わかった!」

二人が結界を張るのを見て、ラトナさんは妖艶な声を出した。

「ふふっ…健気ね。その強さも然り、あんた達が殺人者でさえなかったら、私の付き人にしてあげたいところだわ」


彼らを付き人に…?

いや、そんな事ができる訳がない。

仮に彼らが殺人者でなかったとして、付き人にしたとしても、闇討ちされて終わるだろう。

この人達は、恐らく種族に関係なく、相当に精神力が強い。


私は、祈るような気持ちで叫んだ。

「ラトナさん!戻ってきて下さい!

あなたは尚佗の下僕でも、異形でもない!

私の教官で…大切な上官です!

だから…やめて下さい!」


「アレイ…あなたはこの体の魅力を知らないだけよ。

私は、霹靂の帝こと尚佗様の忠実な部下。

そして、この町の制圧計画の首謀者。

あなたは優秀な部下だったけど、今はもう違う。

でも、あなたは幸運よ。まだチャンスがある」


「えっ…?まさか…!」


「あなたも私と同じ存在になるのよ。そうすればみんな喜ぶし、また部下と上官の関係になれるわ。さあ、おいで」

ラトナさんは両手を広げる。

しかし、私の答えは一つだ。


「…いいえ!私は異形にもアンデッドにもならない!

ラトナさん、あなたが戻ってきてくれないなら、あなたの命を奪ってでもあなたを救います!」


「へえ。それは残念ね」

そして、いよいよ「その時」が来た。

円形の青白い光を作り出し、5個の波動を撃ち出してきた…


「奥義 [エーテルホール]!」


私達みんなで結界を張り、どうにか防ぐ事ができた。


「よ…よし、何とか…」


「ずいぶん疲れてるみたいね?」


「そんな事は…」

と、龍神さんがこんな事を言い出した。


「あんた、元々アレイの上官だったのか?」


「そうよ。私が彼女に弓を教えたの。

そして、私が彼女を水兵として教育した。

だから、彼女は私を信じてくれる」


「ほう…」

彼はひと息ついて、

「そのアレイの気持ちを踏みにじって、何も思わないのか?」

と、批判するように言った。


「踏みにじってなんかないわ、私は…」


「アレイが、なんで今のあんたの誘いに乗らなかったかわかるか?」


「そりゃ、この体の素晴らしさがわかってないからでしょう」


「いいや、違うね」

龍神さんは次第に意地の悪い顔つきになっていった。


「俺は他人の気持ちがわからないが、アレイがなんであんたの誘いを突っぱねたかは薄々わかる。

かつてアレイの指導者であったのに、アレイの気持ちがわからないなんて…そりゃ、アレイが大して強くなれない訳だ。

あんたは、結局ただ自惚れてるだけじゃないのか?」


私の無言の静止も気にせず、彼は続ける。

「俺が言えた義理じゃないが、他人の気持ちを理解できない奴は人に物を教える事なんてできない。

そして、自惚れてる奴は総じて弱い。

あんた、本当はアレイにコトを教えれる程強くないんじゃないか?」


「ちょ…龍神さん…!」

彼の言動に、肝が冷えた。

確かにその通りかもしれないけど、相手が悪すぎる。


「…へえ」

ラトナさんは、急に優しい声調になった。


「つまり、あなたは私を否定する訳ね…?」

…ああ、やってしまった。

ラトナさんはプライドが高くて、自分のやり方を否定されたり、自分より下だと思ってる人に正論を言われたりするとものすごく怒る。

だから、私もラトナさんを否定する事だけは避けていた。

なのに、なのに…。


「ならいい…本気でやってやるから!!」

ラトナさんの怒鳴り声は、いつ聞いてもドキッとする。

いつもはいい人なんだけど、怒るとかなり怖い。

だから、なるべく怒らせないようにしているのだけど…。

彼には、そんな概念がないのか。


怒涛の攻撃を受けながら、龍神さんはさらに煽る。

「やかましいな、まわりのことを考えろよ。

ほら、アレイが怯えてるぜ?あ、それとも、もうそれすらもわかんなくなっちまったか?」


「は…?あんた、どこまで私をバカにするつもり!?

いいわよ…許さないから!!」


「おぉ、おっそろしいなあ。悔しけりゃ、俺を殺ってみな?そしたら、あんたが強いって認めてやるよ」


「言われなくても、全力で殺しにかかってやる!!」

ラトナさんは戦闘スキルも高い。

それでさらに怒ったら、もう…



あれ?

ぼんやり思った。

ラトナさんの猛攻を、龍神さんは全て難なく流している。

いや、それは勿論龍神さんが凄いんだけど…

それより、ラトナさんの攻撃が、どこか単調になってきているように見える。


疲れたのかしら?

いや、ラトナさんはそこまでスタミナがない訳ではない。

とすると?



「そろそろか…」

龍神さんは小さな声でそう呟き、動きを一瞬止めた。


「ぃやぁっ!!」

そこに、ラトナさんが棍を打ち込む。


その刹那、龍神さんの体は黒い影になって消えた。


「…!?」

ラトナさんが驚き、体勢を崩したその瞬間、龍神さんがその背を切り裂いた。





ラトナ・ニュート

レークの水兵の一人。

[記憶]の異能を持つ他、霊騎士シザーラの血を引いており、かつての彼と同様にエーテルと霊力を扱う。

ユキの命で、アレイに弓の戦い方と水兵の生活を教えた張本人。

プライドが高く、怒ると恐ろしいが、基本的には優しく真面目な人物。

武器には弓と棍を扱う。

その戦闘技術はかなり高く、特に棍を用いた戦いぶりは現水兵長ユキに近いとまで言われるほど。


リヴィー

再生者尚佗によって生み出された異形の一種。元は人間や異人で、青い肌と艶めかしい体つきが特徴。

異性の人間や異人を誘惑し、リヴィー化させて数を増やす。

また、一部のアンデッドを操る事もできる。


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