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流されて

ルイリ、という名前には聞き覚えがあった。

「ルイリ…って、川の?」


「そそ。あの川の中流に、僕の仲間の集落があるんだ」


「そういうことね。じゃ、泳いで行きましょう?」

ミジーの近くには、シゾ川という川がある。

そしてシゾ川を下って行けば、ルイリ川に出る。


「そうだね。よし、行こう!」

彼は走り出したのだけど…

その速さは、私には追いつけないものだった。

何なら、龍神さんより速いかもしれない。


「ま…待って…!」


「おいおい、遅いぞー?」


「し、仕方ないでしょ…!私達は、走るのはあまり得意じゃないの…」

水兵は海人だ。

泳ぐのは得意だけど、陸を走るのは未だに苦手だ。


「そっか…水兵は海人だもんな。ごめんね」


「いいのよ…その代わり、泳ぎでは負けないんだからね!」

すると彼は、にたりと笑った。

「言ってくれるな?よーし、その喧嘩買ってやるよ」


「いいわよ?水兵と白水兵、どっちが泳ぎが上手いか決めましょう!」


「望むところだ!」

龍神さんがため息をついているけど、気にしない。

真正の水兵と白水兵の、純粋な能力を比べる。

これこそ、異種族間の真剣勝負だ。


さて、シゾ川に到着した。

龍神さんに私が力を与えると、マリルは怪訝な顔をして、

「なんだ、僕じゃダメだってのか!?」

とふてくされた。


「さあね。私とあなたのどっちが正しいか、試してみればわかるんじゃない?」


「ちっ…!バカにしやがって!」


「バカにしてなんかないわ。さ、早く泳ぎましょう」

そして、私は龍神さんを連れて川に飛び込んだ。



川は水がきれいで、そして流れが早くて…


「…おい、ちょっと待て!」

龍神さんが焦る理由もわかる。

これは、明らかにおかしい。水の流れが早すぎる。


「なんだ…!?これはまずい、上がろう!」

マリルが上がろうとした瞬間、急に流れが早くなった。


(私でも抗えないなんて…この水流、何かおかしい)

そう思った直後、私達は流されてしまった。








「…!」

私は、右腕の痛みで目を覚ました。

見ると、右腕に木の枝が刺さっていた。


恐る恐る触ってみると、それだけで強い痛みが走った。

でも、このままというわけにもいかない。


意を決して、枝を引き抜いた。

「つっ…!!」

血が溢れ出し、激痛が走る。


抜いた枝をよく見ると、表面に複数のとげがあった。

それは、心なしか、私の血がついて妖しく光っているように見えた。


あたりを見ると、龍神さんが岸辺に流れ着いていた。


「龍神さん!」

彼の体を揺すると、彼はすぐに目を覚ました。

「…うう!」


「よかった…大丈夫ですか!?」


「ああ。アレイは…って、その傷は!?」


「あ、これは…枝が刺さってたんです。痛いですけど、大丈夫だと思います」


「いや…止血だけでもしたほうがいいぞ。こういう所で血を流すと、ろくでもない奴らが寄ってくる」


彼の言う通り、水中で血を流すと何かと危ない。

そこで、治癒魔法をかけて止血と痛み止めをした。

「マリルはどこだ?」


「わかりません。もっと下まで流されたのかも…」


「そうか…厄介な事になったな」


「あの水流、一体何だったんでしょう。私でも逆らえないなんて…」


「わからんが、誰かの仕込みだった事はほぼ確実だろうな」


「とすると…」


「この先何があるかわからん。気をつけていこう」


「はい。でもその前に…」

私は目を閉じ、能力を使う。


私達がここに流れ着いたのは1時間前。

私達は岸や枝に引っかかって止まったけど、マリルは意識を失ったまま、さらに下流へ流されたようだ。


泳ぐとまた流されるかもしれないので、陸路で川を下っていく。

どうやら、ここは結構深い森のようだ。

このあたりの植物はとげがあったり、やたら繁茂していたりする。

道なりに行ったほうがよさそうだ。


しばらく下っていくと、緑の異形が数体現れた。

「あれは…モリール、ですね」


「ああ。面倒な奴が出てきたもんだ」

モリールは落葉樹が異形に変化したもの。

元が木なのもあって硬く、物理は通りづらい。

属性では、植物由来なので火や電に弱く、氷や水に強い。


「龍神さん、電撃で倒せませんか?」


「やれなくはないが、ここでやったら大火事になる!」


「そうですか…それじゃ、仕方ないですね!」

マチェットを抜き、剣の技を使う。

「剣技 [分裂剣]!」

剣を構え、相手の周りを回転して連続攻撃する技で、使い手の腕によって威力が変動する。

私の場合は中の下程度の威力で、あまり強いとは言えない。

でも、すぐに続けて技を使うので問題はない。


「剣技 [グリーンカッター]!」

この技には植物特効があるので、硬いモリール相手でもどうにか削れる。

そして、この一撃で一体を倒す事ができた。



龍神さんはというと、

「[影抜刀・雷雲]」

電気を帯びた雲?をおこして電ダメージを与えつつ斬りつけて、異形を倒していた。


あの硬い肌の異形を一撃で叩き斬れるあたり、彼はかなり力が強いみたいだ。

しかも、彼はどちらかというと近接重視。遠距離重視で、非力な私のパートナーとしてはちょうどいい。


「片付いたな」


「はい。先を急ぎましょう」

異形たちはお金の他、緑色の石も落としていったので一応拾っておいた。


「この森には、他にも異形がいるかもしれない。マリルを見つけるまで撤退は避けたいからな、なるべく傷つかずにいこう」


これはつまり、攻撃を受けずに敵を倒せという事だろう。

私はあまり回避には自信がない…とくに近接攻撃は。

なるべく避けるようにはするけど、無理がある時は結界を張って乗り切ろう。


この森にどんなモノがいるのか、この森がどこまで広がっているのかがわからない以上、油断は出来ない。





結局、その後は異形が何度か現れたけど、マリルが見つからないまま、日が暮れてしまった。

「これ以上進むのは危ないな。今日は、ここで野宿しよう」


野宿なんて初めてだ。

緊張するし不安もあるけど、彼が一緒なら何とかなる気がする。


「焚き火をしたい…が、火はつけれないな」

ここで、私の出番だ。


「大丈夫ですよ。私がつけます」


「つけれるのか?」


「はい。まずは、薪を集めましょう」


二人で生木を折ったり、地面に落ちている枝を拾ったりして、十分な量の薪を集めた。

そしてそれを一箇所に集め、術を使う。

「太陽術 [フェーン]」


木材はそのままでは燃えが悪いと聞くので、こうして一度乾燥させるのだ。

そして、瞬間的に乾いた木材に、別の術を使う。

「太陽術 [ヒートシャイン]」


木材に太陽光を照射し、火をつける。

「おお…すげえ」


「太陽術士なら出来て普通の事ですよ。まあ私自身の力じゃないですが」


「そ、そうだったな、はは…」

彼は引き笑いをする。


けれど、これくらいはいいだろう。

誰でも、ちょっと怖い面があるものだ。



このあたりは、川にいる魚も森の異形も食べられないものばかりだ。

なので、持ち歩いている保存食を食べる。


龍神さんはドライフルーツとビーフジャーキー、私はスモークサーモンとイリル(複数種類の魚のすり身で作ったつみれに似た食べ物。水兵の間では昔から食べられている)を食べた。


食べ慣れたものでも、こうして未知の環境で食べるとまた違った味になる。

その由来は空腹によるものか、あるいは不安によるものか。


私達は今は二人しかいないので、見張りはせずに結界を張って寝る事にした。

明日は早朝に起きて探索を再開することになったので、しっかり寝たい。





夜中に異形が襲ってきた。

それも、モリールよりずっと強力な、大木の異形。

それは強引に結界を壊し、私達に襲いかかってきた。




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