仲間
城を出て少し歩いた所で、二人の男性の通行人の会話を漏れ聞いた。
「え、その話本当か?」
「本当だよ。最近、どっかの町が白水兵に乗っ取られたんだとよ」
「白水兵…って、あの異人の?」
「そうそう。あれが、どっかの町を乗っ取っちまったらしい」
「へぇ…じゃ、元々そこに住んでた人達はどうなったんだ?」
「そこまでは知らねえけど…なんでも、その町の中には異形がうじゃうじゃいて、人間も異人も一人もいないらしい。ただ、そこの異形どもを束ねてるのが、町にたった一人だけいる白水兵、ってことらしいぞ」
「ふーん…てか、白水兵って水兵さんと何が違うんだろうな。俺は水兵さん好きなんだけどな」
「そう言えばそうだな。おれ、一応白水兵見たことあるけど…正直、水兵さんとの違いよくわかんないな」
水兵と白水兵って、そんなに似てるかしら?と思った。
確かに一見似てはいるけど、白水兵には男性もいるし、何より服に帯もリボンもついていない。
そもそも、水兵は私の同族だけど、白水兵はどちらかというと龍神さんの同族で、文化も起源も全然違う種族だ。
でも、普段水兵や白水兵を見かけない人からすると難しいのかもしれない。
私も、例えば魔騎士と魔戦士を一緒に並べられたら、区別がつかないだろう。
魔騎士と魔戦士はまったくの別種族だけど、私には違いがよくわからない。
ふと思う。
この世界には、なぜ様々な種族の異人がいるのだろうか。
いや、異人だけではない。異形も動植物もだ。
なぜ、複数の種類がいるのだろうか。
私達は普段全くそれを気にしていないけど、言われてみれば奇妙に感じられる。
この世の全ての生物は、元をたどれば一つのウイルスのようなものであったと聞いたことがある。
ならば、なぜそれは進化を遂げたのだろう。
そして、どのような終焉を迎えたのだろう。
なんか難しい事だけど、考えるとちょっとわくわくする。
探求者系の異人の気持ちが少しだけわかった気がする。
さらに歩くと、またさっきの白水兵に会った。
「お、戻って来たか。用は済んだのかい?」
「済んだよ。そっちは何か進展はあったか?」
「ああ。通りすがりの奴が話してたのを聞いたんだけど、最近どっかに異形の町が出来て、そこの主が白水兵らしい。
だから、その異形の町を探そうと思ってるんだ」
それを聞いて、ちょっと変に思った。
「え、それってもしかして、二人組の男の人?」
「うん。なんで?」
「いや、私達もその人達から話を聞いたから…」
その直後、龍神さんが城の方へ走り出した。
「待って下さい!」
彼は、先程の二人を見つけると、
「お前ら何者だ?」
と問いただした。
「は?何だよあんた。俺達は…」
ここで、男達はん?という顔をして、
「…そうか。それじゃあ黙ってる訳にはいかないな」
と言い、本来の姿を現した。
それは、紫色の不思議な模様が描かれた仮面を被った異人だった。
「お、お前らは…」
「おれ達は道化師だよ。実はな、あんたらにいい噺をしたくて、あちこち歩いてたんだ」
「どういう事だ?」
「さっき通行人のふりして喋ったのがネタだ。とある町で、銀髪長身の水兵から聞いた話なんだけどな…あんたらに話して欲しいって言われてな」
なんか、既視感を感じる言い方なのは気の所為だろうか。
「その水兵ってのは何者なんだ?」
「さあな、そこまでは知らない。
じゃ、おれ達はこれでずらかるんでね」
そう言って、二人は消えた…服だけを残して。
「…なんだこれ。マジックに失敗したか?」
「いや、立派なトリックだ。奴らは必ず、今みたいに痕跡を残してバニシュするんだ」
トリックとは道化師の使う術の事で、他の異人の術とは違って独特の華やかさや滑稽さがある。
私は、彼らが話を聞いたという水兵の正体が気になるけど。
「なあ、あんた達もあいつらが言ってた町を探すんだろ?」
「そのつもりでいるが…」
「じゃ、僕も同行していいかな?このまま一人で探すよりは、仲間がいたほうがいいからさ」
「それは、まあ…」
ちょっととまどう。
何だろう、白水兵を信用していいのかな…という気持ちがある。
これは、まだ私の中に殺人者を信用出来ないという感情があるからかもしれない。
「ありがとう。僕はマリル・モアスっていうんだ」
「私はアレイ・スターリィ」
「俺は…言うまでもないか。吸血鬼狩りの最高権威…と言えばわかるよな?」
「ああ。それに、アリクがよくあんたの事を話してたからな」
「アリクが?」
「うん…アリクは、あんたの事なかなか気に入ってたみたいだよ」
「そりゃ光栄だな」
まあ、当然かもしれない。
白水兵は同じ殺人者系の種族を大事にするし、そもそも殺人者は、基本的に同族としか仲良くできない。
それに…彼のような人なら、好きになる人がいてもなんら不思議はない。
本来、私は殺人者のことなんて知らない。
以前、取り込んだ男の記憶が役に立った。
―私はかつて、無実の罪で島流しにされたことがある。
仲間がいたから何とかなったが、本当に辛かった。
あれ以降、私は冤罪や謀略は絶対に許さないと心に決めている。
「あと、あんた達だから言うけど、僕…アリクの事が好きなんだ」
少々意外な告白だった。
「あら、そうなの?」
「うん。僕は、アリクと同い年でね…彼女は、昔から僕を弟のように扱ってくれた。僕は、本当にどうしようもない奴だ。でも、彼女は他の誰よりも僕を世話してくれた」
「あいつは面倒見いいとこあるしな」
これにも驚いた。
「え、そうなんですか?」
「ああ。まあキレるとなかなかだけどな」
だとは思う。
殺人者は基本的に感情が乏しいけど、一度怒るとその場にいる者がみな殺されてしまうといわれるほど暴れる者が多いのだ。
もっとも、彼らがどうかは知らないけど。
「…まあ、確かにヒステリックな所はあるね。
でも、それでも僕は彼女が好きなんだ。
もし、彼女を見つけて帰れたら…」
「ストップ!それ以上言うとフラグになるからやめろ」
「あっ…ごめん。とにかく、僕が彼女を探しているのにはそういう理由もあるんだ。それじゃ、これから宜しくたのむよ」
「そうね」
かくして、私達の旅に同行する仲間が一人増えた。
彼の同行は一時的なものかもしれないけど、戦力的に余裕ができたのは確かだ。
次の再生者を倒すまで、消耗はなるべく避けたい。
しかし、異変や事件を放っておくわけにはいかない。
その意味でも、仲間が増える意義は大きい。
そして、彼はさっそくこんなことを言い出した。
「探す、なんて言ったけどさ…まずは、ルイリの集落に行こうぜ」
異人・道化師
その名の通り、滑稽な道化を演じて人々を楽しませる事を生きがいとする種族。
各地を旅して回る放浪異人で、人々がいる所に現れては、俗に言う「ピエロ」のように派手かつ奇抜なデザインの仮面と衣服に身を包み、様々な芸を披露する。
芸や口が達者なだけでなく術や武器の実力も確かなもので、どこか滑稽だが洗練された戦術を見せる。
常に仮面を被っていることからマスカーの仲間と思われがちだが、「芸者」という種族に近縁のグループで、マスカーとは別系統の種族。
マリル・モアス
リスウェの白水兵の一人。年齢はアリクと同じ。
[共鳴]の異能を持ち、殺人者にしては感情が豊か。
武器には爪と短剣を扱い、術の適正は光。
アリクに好意を寄せているらしい。




