二人目の皇魔女
翌日、キャルシィさんたちに一言言ってからマトルアに向かった。
理由は2つ、楓姫を倒した事の報告と、以前の謝礼を受け取るためだ。
マトルアに来ると、街道に人々が集まっていた。
どうも、パレードか何かをやっているらしい。
覗いてみると、複数台の馬車が城に向けて走っていく所だった。
その馬車には、何か見覚えがあった。
「あれは…」
「知ってるのか?」
「ええ、あれは確かメドルアの貴族用の馬車…
誰か、位の高い人がマトルアを訪れているみたいですね」
「そうか。じゃ、城に潜り込もう」
潜り込む、って言い方はちょっと嫌だけど、このままでは城に入れないので、裏に回った。
門番は、私達を見ると簡単に通してくれた。
「あなた方は!…お入り下さい。ロザミ様がお待ちです」
城に入り、ロザミのいる玉座へ向かうと、そこに丁度客人もいた。
それは黄色いリボンをつけた黒い帽子と黒いスカートに身を包んだ、白い目の魔女だった。
髪型はお下げ髪で、髪の色は左が白、右が黄色できれいに半々になっている。
背丈は、私より少し高いくらい。
「…おや、あなた達は」
ロザミは、私達に声をかけてきた。
「ロザミさん、謁見されている所失礼しました。後ほど出直します」
「いえ、その必要はありません」
「いいのですか?」
「ええ、寧ろ好都合です。ちょうど、彼女にあなた方の話をしていた所ですので」
「彼女…?」
ここで、客人の魔女が口を開いた。
「ロザミ、ひょっとして…」
「ええ、彼らが今しがた話した者たちです」
魔女は私を見つめた。
「そうか…君が再生者、星羅こころの妹なんだな」
「はい」
「じゃあ、殺人鬼と組んで、再生者を倒すために旅をしてるってのは本当なのか?」
「はい」
すると彼女は、おお、そうか…と言って、急に笑顔になった。
「そうかそうか!お前達が噂の二人組か!」
「…えっ?」
「お前達の話は我が国にも伝わっているぜ。水兵と殺人鬼が一緒にいるなんてことがあるのかと思ってたが、見ちまったからには信じない訳にいかんなあ!」
我が国…って。
もしかして、この人は別の国の皇魔女だろうか?
「落ち着きなさい。まずは自身を彼らに紹介するものですよ」
「はっ、そうだったな。
私は皇魔女スレフ・ジニマスだ。魔導王国メドルアの王と、九大皇魔女の電属性を担当している」
やっぱり、そうだったんだ。
「そうでしたか。私はアレイ・スターリィと申します。レークの水兵です」
「スターリィ…か。なるほど、確かに名字にスターの銘が入っているな。して、その男は?」
「ああ、彼は…」
と、彼の方を見て気づいた。
彼は、何やら動きがおかしくなっていた。
目の焦点が合わず、2秒と同じ所を見ていない。
手足をちょこちょこと動かし、落ち着きがない。
「龍神さん?」
「あっ、俺か!俺は冥月龍神、殺人鬼だ。
スレフ…だよな、あんたの話は聞いてるよ!」
「冥月龍神…か。確かに聞いたことあるな。
ん?ということはお前、吸血鬼狩りか?」
「あ、ああ。なんでそんなこと聞く?」
「吸血鬼狩りはうちの国にも結構いるからな。かくいう私も、昔は吸血鬼狩りだったんだぜ?」
「そ、そうなのか?」
「ああ。皇魔女になってからは辞退したがな。にしても、見た感じお前大分年季が入ってるが…何年くらい生きてる?」
「大体1500年…だな」
「そうか…私からすればまだまだ若造だな」
すると、ロザミが口出しした。
「あら、それなら私も半人前だと言うのですか?」
「ん?あーいや、違うよ。お前は私達と同等の存在だからな、年齢は関係ないぜ」
「…はあ。スレフ、あなたいつまでそういう差別意識を持っているつもりです。
一国の皇魔女が差別的では、国が長くありませんよ」
「うっ…そんなつもりはないんだけどな。
でも、そうだな…謝るよ」
スレフさんはそう言って頭を下げる。
この人は、一体何年生きているのだろうか。
「い、いやあ、気にしなくていい。
てか、随分とまあ…個性的なお姿しておられるな」
すると、スレフさんは嬉しそうに笑った。
「嬉しいこと言ってくれるな!そうだ、私は全てにおいて、他の誰とも被らない事をモットーにしている!
姿も、魔法も他の奴らとは違う!勿論、国の者達とも違うぜ!」
「そ、そうだろうな…。ちなみにあんた、武器は何なんだ?まさか…弾幕とかか?」
「お、よくわかったな!
ああそうだ、私は弾幕の使い手だ。弾幕を使う奴は今時滅多にいないから、大抵の奴相手に有利に立ち回れるんだぜ」
「ほ、ほう…」
弾幕とは、魔力を固形の弾に固めたり、単調な波動にして放つ攻撃手段で、この世界では最も古い魔法である「原始魔法」の一つ。
属性を乗せることも出来るし、そのまま放てば無属性の物理・魔法攻撃として使える。
ただ魔力の消耗が大きく、素の威力もそこまでないので、次第に使われなくなっていった。
現在ではごく一部の異人しか使わない、とても珍しい技だ。
「それでだな、ロザミ。今日お前を訪ねたのにはそれなりの訳があるんだ」
「何です?」
「…こないだの異形討伐作戦、私も参加させて欲しかったんだが」
「あなたは皇魔女ですよ。一国の主が安易に戦いに身を投じるべきではない。自分の立場を弁えなさい」
「ぐ、でも私はまだまだ活気ある魔女だぞ?研究は勿論、戦いだって…」
「何千年も生きているならわかるでしょう?あなたには役目があるのです。それは戦いではなく、国を統治すること。まずは、それを最優先に考えて下さい」
どうやら、この人は皇魔女にしては心が幼いようだ…良くも悪くも。
「…いや、そんな事はさておいて、本題に入ろう。
実はな、うちの国の近くにプラズモどもが巣を作りやがったみたいでな…度々国の近くを通る者が襲われて困ってるんだ。
それでな…一つ助けてくれないか?」
私はプラズモというのが何なのか気になり、尋ねた。
「プラズモ、ってなんですか?」
「プラズモは電気系の異形の一種だ。普段はそんな手こずる相手じゃないんだが、今度はちょっと事情が違ってな。なんか、電気の力がやけに強くて、私達でも手に負えないんだ。…そういう訳だから、ロザミ、お前のとこの軍を貸してくれないか?」
「それは結構ですが、そもそも巣の場所は突き止めてあるのですか?」
「ああもちろん。場所は私の部下に案内させる。だから、頼むよ」
「…いいでしょう」
「本当か!ありがとう!」
「いえいえ。軍は100あれば足りるとは思いますが、大事を取って150送りましょう」
「助かるよ。私も軍を送るから、頼むな」
そして、スレフさんは帰る…と思ったのだが。
「あ、そうだロザミ、この二人に例の術の話はしたか?」
「いえ、ですがこれから話そうと思っていた所です」
「そうか。そりゃ余計なお世話だったな」
私は、ロザミさんに聞いた。
「あの、例の術、というのは?」
「今からお話しますよ」
そして、彼女は一呼吸整えて喋り出した。
「お二人は、術極意というものをご存知ですか?」
「知らんな」
「聞いたことないです」
「そうですか。では、説明しますね。
現在、この大陸では私達が一員となって九大皇魔女という集まりを作っています。これには魔法の国同士の和睦を深め、互いの対立を避けるというのもありますが、一番の目的はアンデッドや異形の侵食を抑制することです。
そして、この集まりが生まれたのは約6000年前…生の始祖の時代。
生の始祖は、不死者や異形が生者の世界に食い入る事を防ぐため、9つの魔法の国の統治者に協力して大陸を守るよう願い出ました。その結果、生まれたのが九大皇魔女という訳です」
「はい」
「そして、生の始祖は9人の皇魔女それぞれに専門とする属性を割り振り、該当する属性の最強の術を伝授しました。
それこそが術極意。陰陽師に匹敵する威力を秘めた、並の異人のどんな奥義よりも強力な術です」
「ふむ…」
「そしてそれは当然ながら、本来は皇魔女にしか伝えられないもの。しかし…」
ロザミさんは、鋭い目で私達を見た。
「今のあなた達なら、習得する事が出来るでしょう」
世界観・皇魔女
魔法使い系の最上位種である魔女の中でも特に優れた才を持つ者が与えられる称号で、魔法都市や魔導王国の統治者を表す。
この大陸には9つの魔法都市・魔導王国が存在し、それらは各属性を宿す皇魔女によって治められている。
スレフ・ジニマス
マトルアの姉妹都市メドルアの皇魔女で、電の属性と「絆魂」の異能を持つ。
「オリジナル性」を重んじており、放つ魔法や衣服、口調、髪色まで他の誰とも被らないものにしようと日々努力している。
その甲斐あってか姿、口調ともに魔女の間でも他に類を見ないものとなっているが、どういうわけかその成りに妙な既視感を感じる者も少なくないという。




