燐火の魔女
最初にアレイが矢を放った。
楓姫はそれを手で止めた…
と思いきや、矢は空中で縦に増殖し、数本が首や頭に命中した。
それらのほとんどは、刺さって間もなく燃えて消えてしまった。
しかし、ダメージは入っているはずだ。
「…弓、ですか。矢を受けたのは久しぶりです」
楓姫は、杖をアレイに向けた。
「炎法 [フェニックスレート]」
杖の先端から炎が吹き出した。
「[フリーズウォール]!」
アレイは冷気の壁を張って防いだ。
だが、これはちょっと悪手だ。
「冷気…ですか。これは都合がいい」
あっさりと彼女の属性を悟られてしまう。
まあまったく勝ち目がない訳では無いが…
それでも、きつい戦いになるのは間違いない。
「早とちりしないで!私が操る氷は、どんな火でも溶かせないわ!」
「どうでしょうねえ。冷気が熱に弱いのは自然の摂理かと思いますが…あなたにそれを覆す事が出来ますか?」
「…やって見せる!そして、あなたを倒してみせる!」
「左様ですか。では、やってみなさい。炎法 [ヒートブレーク]」
「氷法 [アイスブロック]!」
熱波の波動を氷の塊で防ぐアレイ。
しかし、分が悪い事は誰の目にも明らかだ。
「まずいわ…!」
キャルシィが術を使おうとしたが、無数の鬼火にまとわりつかれて動きを封じられた。
「手出しは無用です。私の目的は…」
ここでリヒセロが風の刃を飛ばし、その腕を斬りつける。
楓姫は斬られた所を見、そしてリヒセロを睨みつけた。
リヒセロの周りを小さな炎が回りだし、リヒセロは炎の渦に閉じ込められた。
「っっ…!!!」
「…私の目的は、あくまでも星羅の妹。あなた方のお相手は、後からいくらでもして差し上げます」
そして、奴はアレイ…ではなく、こちらに手を伸ばしてきた。
「彼女の守り手はもう不要です。
これからは、私達が彼女を守るのですから」
手を避けつつ喋る。
「なに…?」
「私達は、彼女に危害を加えるつもりはない。同胞の妹を、傷つける訳にはいきませんからね」
「傷つけないなら、どうするつもりだ?」
奴は少し考えて、口を開いた。
「そうですね…彼女をここまで連れてきてくれた謝礼として、少しだけ教えてやりましょう。
要するに、彼女には姉と行動を共にしてもらうのですよ」
「そうして、どうするんだ?」
「この大陸の北の果て…世界の分け目に行ってもらうのです。そして、分けられた世界を、一つに繋げてもらうのですよ」
分けられた世界、というのが何かはわからない。
だが、俺はアレイを守るのが役目。
奴が何と言おうと、答えは一つだ。
「そうか。なら、やっぱりアレイは渡せないな」
「そうですか。まあ結構です。始めから素直に渡してくれるとは思っていませんでしたので」
そして、楓姫は右手に炎を浮かべる。
「星羅の妹のついでに、あなたの魂も頂いていきましょう。炎法 [カーズフレイム]」
手をかざして飛ばしてきた炎の先端には、怪しげに笑う人の顔のような模様があった。
「雷法 [エルクボルト]」
電撃を打ち出し、炎を一旦受け止めてかき消した。
「炎法 [ファイアーシンボル]」
奴は、炎をでかい盾の形に整えて浮かべた。
一体何をするつもりだ、と思ったが、すぐにそれは消えた。
一見無駄な行動のように見えるが、今のは恐らく補助系の術だろう。
推測でしかないが、盾の形だった事からすると守りの補助か。
ためしに一つ、技を入れてみる。
「[モータルヴォイド]」
魂を斬ってダメージを与える技。
再生者にも効果があるはずだが、奴はさしたる反応を見せなかった。
(やはり防御を固めたか…)
と、奴は杖に手をかけて言った。
「殺人者ならば、わかりますよね?
欲しくとも手に入らないものがあれば、どうするか」
「ああ…。どんな手を使ってでも手に入れる。それが例え、誰かを傷つける事であろうとも」
「そうですね。という訳で、私もそうして彼女の身柄をもらい受けます。杖技 [スペルデューク]」
また強化の技だ。しかも、今度は攻撃系の。
これは面倒になるかもしれない。なるべくさっさと切り上げよう。
「やってみな」
ビームゲートを撃つと、アレイが矢を射って援護してくれた。
矢は躱されたが、電撃は当たった。
奴は少し痺れながらも、すぐ体勢を立て直してこちらを見つめてくる。
…と思ったら、凄まじい速さで斬りかかってきた。
「[影居抜き]」
聞き覚えのある技名に驚いたので、とっさに攻撃を受け止めつつ、改めて奴の武器を見る。
一見普通の杖だが、これは俗に言う「仕込み杖」。
片刃の剣を、自然な柄の鞘と持ち手で偽装した武器。
つまり、杖というよりは刀に近い。
「[白刃斬り]」
さっきは杖の技を使っていたが、今は刀の技を使っている。
ということは、一つの武器で二種類の武器種の技を使えるのか。
「[斬り裂きクラウン]」
しかも、結構強い技ばかりだ。
やはり、それなりの手慣れであるのだろう。
しかし、そんな事は関係ない。
そして、あまり長く流し続けるのも時間の無駄なので、反撃に転じる。
「[水月斬り]」
蒼い月をイメージして斬る技。
名前に水と入っているが、水ではなく闇属性。
「炎法 [ファイアガード]」
ガードされるのは先刻ご承知だ。
素早く別の技を見舞う。
「[斬瓜破乱刀]」
高速で刀を振るい、火の壁をかき消しつつ攻撃する。
「…熱っ!」
そうだ、こいつは火をまとってるんだった。
「馬鹿ですねえ。先程見たはずなのに」
楓姫は嘲笑しつつ、炎を吹き出してきた。
受け流しの構えを取ったが、中途半端なものであったために途中で崩れてしまった。
「ぐあっ!」
胸と顎のあたりに炎を喰らう。
それは火傷どころか、余裕で焼き焦がされそうなほど熱いものだった。
「龍神さん!…[スターアロー]!」
アレイがカウンターで入れた技は、もちろん炎で焼き払われ…ず、見事楓姫の胸を撃ち抜いた。
奴も驚いたような顔をして、胸を押さえた。
「っ…」
「き…効いた…の…?」
弱々しい声を聞いて思い出したが、キャルシィとリヒセロが火に縛られているんだった。
あの二人を早いとこ助けてやらないと。
すっかり忘れていたが、この戦いは、キャルシィがいないと話にならないのだ。
「ふ…うふふふ…」
楓姫は、薄気味悪い笑いをし始めた。
「この力…!やはり、あなたは彼女の血を継ぐ者!
そして、いずれ私達の同胞となる者!」
奴は、変にニヤニヤしながらアレイに杖…もとい刀を向けた。
「あなたになら、私の実の力を見せる価値がありそうです!」
そして、その刀身に強烈な赤い炎が集まっていく。
「この刃の炎撃、受け止めてみなさい!奥義 [大火竜殺刀]!」




