休息
程なくしてニームに到着した。
ミクたちとはこれでお別れか、と思ったのだが、4人は陸に上がりたいと言う。
「え、上がれるのか?」
「ええ。私達は元々短い時間なら陸に上がれるし、水兵さんの力を借りれば、普通に陸に滞在できるのよ」
「そうなのか」
ここで初めて気づいたのだが、陸に上がってきた水守人達の体は、ほとんど人間と大差なかった。
何なら、服まで着ている。
これなら、水兵に近い種族だというのも納得だ。
「そうですよ。だからこそ…えいっ!」
アレイがミクに手をかざすと、ミクの体は淡い水色の球体に包まれた。
「私達水兵と水守人は、こうして定期的に交流したり、互いのエリアを訪れたりしているんです。水兵から見ても、水守人は色々と手助けをしてくれる存在ですから」
「どんな手助けをしてるんだ?」
これに関しては、青い髪をした男の水守人が答えてくれた。
「オレ達は、水兵さんの漁の手伝いをしたり、船とか港の改修を手伝ったりしてるんだ。
いくら水兵さんでも、ものを持って何回も水に出入りするのは疲れるからな」
なるほど、納得のいく話だ。
「そういう事。だから、彼らと私達は切っても切れない関係なの。
さあ、みんな。神殿に行くわよ」
キャルシィに連れられて、俺達は神殿へ向かう。
神殿の入口には、前と同じ二人がいた。
奴らは水守人達の姿を見て、目を見開いた。
「あら、久しぶり」
「お、ルラちゃんとミナウちゃんじゃんか。久しぶりだな」
この二人、そういう名前だったのか。
「クプト?久しぶりね。
…長、おかえりなさいませ。妹様がお待ちです」
「わかってる。リヒセロはどこにいるの?」
「玉座におられるかと」
「わかった。行くわよみんな」
そして玉座の間に到着した。
「…お姉様、おはようございます」
リヒセロは、姉よろしく玉座に座っていた。
「おはよう。早速だけど、いろんな人を連れてきたわ」
「例のお二人と…あら、これはカトーロの皆さん。おはようございます。お久しぶりです」
「カトーロ、ってなんだ?」
「彼らの書き名…要は、名字のようなものです。
水守人は基本的に家族だけで生活するので、グループ…つまり家族の名称には、それぞれ固有の書き名を使うんです」
「へえ。とすると…」
水守人達の方を見る。
「あんたらはカトーロの一族、って訳か?」
「そうだ。オレは長男のクプト。で、こっちが弟のジカロだ」
「私はカノウって言うの。この子は妹のミクよ」
「へえ…親はいないのか?」
「ああ。父さんも母さんも、復活の儀の時に死んじまってな。25年間、ずっとオレとカノウで妹達を支えてきたんだ」
家族を支えて生きる男達…って訳か。
逞しく美しい話だな、全く。
「それでお姉様、その…お母様は…」
「ええ…でも、仕方ないのよ…」
いや、見てたんかい。
「え、妹様は全部見てらしたんですか?」
「はい…夢でお姉様に全て見せてもらいました。
ようやくお母様の顔を見られたと思ったのですが…」
リヒセロは、悲しげな顔をした。
「…そうか。それは…まあ…残念だったな」
「いいのです。昔から、母は既に死んだものと思えと、お姉様に言われておりましたから」
するとキャルシィは、少しだけ明るい顔になった。
「そうよリヒセロ…見たでしょ?母さんは、もう私達の母ではなくなっていた。どの道私達の母は、とうの昔に死んでいたのよ。だから、気にする事はないわ」
「…はい、お姉様」
リヒセロはそうは言ったが、やはりその表情は晴れなかった。
「それよりリヒセロ、頼んでた仕事は終わった?」
「はい、バッチリと」
「あら、ずいぶんと早いわね」
「当然です。お姉様の頼みですし、それに…あのようなものを見せられたら、急ぐものかと」
なるほど、一旦戻ってきた時にリヒセロがいなかったのは、別の所で仕事をさせていたからか。
「なあ、一体何をリヒセロにやらせてたんだ?」
「楓姫の根城を調べてもらってたのよ。結局どこにいるのか謎だったからね」
「!本当か!」
「楓姫は、一体どこにいるんですか!?」
「そこはリヒセロに聞いてくれる?」
「わかりました。リヒセロさん、楓姫の居場所はどこなんですか?」
「マトルアの西に、魂の魔法館と呼ばれる建物があるのですが、そこが奴の拠点であるようです」
「え、マトルアの西?」
「マトルアから、どのくらいの距離なんだ?」
「5キロ程ですね。殺伐とした荒野の中に、一軒だけある建物のようですので、判別は容易かと」
「5キロ…だったら、すぐに行けますね。龍神さん、今日はまずもう寝て、明日乗り込みましょう」
そう言えば、昨日は全く寝ていないんだった。
「そうだな。よし、食べるものは食べて後は寝よう」
「そうね。てか、言われてみればすごい眠くなってきたわ…」
キャルシィはあくびをした。
それを見て、ラニイもあくびをした。
「ふふっ…お姉様。しかし、かくいう私も少々寝不足なので、今日は少しばかり昼寝をさせていただきたいですね。
水守人の皆さんは、ご自由に町を見回って頂いて結構です。夕方には、一旦神殿に戻ってきて下さい」
「はいよ!よしお前ら、行くぞ!」
「あっ、待ってよ兄さん!」
水守人達は、はしゃぎながら外へ消えていった。
「いい家族だな」
「そうね。さあ、食事にしましょう。長、すぐにお作りします」
「いえ、まずは寝ましょう。食事はその後でもいいわ」
「…わかりました。では、おやすみなさい」
「ええ、おやすみ。…夜じゃないけどね」
「ふふっ。では、お先に失礼しますね」
「あ、待って下さいラニイ!」
「…妹様?何でしょう?」
「ティーサさんが、あなたを心配していましたよ。
寝る前に、彼女に一言かけてあげて下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
ラニイはそう言って、自分の部屋に戻っていった。
「さて、俺達も寝るか」
「そうですね。あ、私達は前と同じ部屋を使っていいんですよね?」
「ええ。しっかり休んでちょうだい」
そして、前と同じ部屋のベッドに潜った。
アレイはさっきまであんなに元気だったが、ベッドに入るとあっという間に寝てしまった。
俺は…相変わらず寝付きが悪かったが、それでも普段と比べれば圧倒的に早く寝付けた。
体が寝たがっていたのだろうか。
そして、夜が明けた…!
世界観・水神殿
水兵の町に存在する巨大な施設。外見が神殿のようであることからその名がついているが、祭祀施設ではなく町の水兵の長の住居として使われている。
その大きさもさながら、町を見渡せる所に築かれている事が多く、丘陵や台地にポツンと存在しているためとても目立つ。
内部は非常に広大でたくさんの部屋があり、長の客人はここに呼ばれる。
その性質上、実質的には水兵長の城であるとも言える。




