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彼の物語り

キャルシィ達の方に耳を傾けると、向こうは向こうで何か盛り上がっていた。

まあ、何の話題かはおおよそ見当がつく。


会話が一段落すると、キャルシィを乗せてる水守人がこちらに話しかけてきた。

「なあ、あんた!」


「ん?俺か?」


「ああ。たった今キャルシィ殿から聞いたんだが、あんた、陸の異人の中ではかなりの異端者だって本当か?」


やっぱり、俺の話題だったか。

「ああそうさ、俺は世間からかけ離れた存在だ」


「へーえ。じゃ、やっぱり人間とか他の種族を殺して回ってるのか?あんたは殺人鬼の端くれなんだろ?」


「まあ、そうだな」


「なんでそんなことやってるんだ?」


「一種の趣味…ってのもあるが、一番は生きるためだな」


「生きるため…ってことは何だ、殺した奴を食ってるのか?」


「いんや。俺は人食いはしない主義なんでね」


「…?どういうことだ?」

陸の者のような文化がないこいつらには、考えつかない事なのかもしれんな。

説明が面倒なので、一言で決める。

「要するにだな、俺は殺した奴の持ち物を奪って生計を立ててるんだよ」


「へ、へぇ…それで生活できてるのか?」


「大体週に三、四人、多くて2日3日に二人もやれば十分生活できる。ま、毎回場所を変えなきゃないから、そこは大変だけどな」


その場にいる全員が凍りついた。

まあそりゃそうよな。


「あ、一応言っとくと、ここにいるみんなを殺すつもりは微塵もないからな?」


「ならよかった…」


「ま、それはわかるよ。けど、そもそもなんでそんな生き方をしてるんだ?陸の者って、働くもんだろ?水兵さんだって働いてる訳だし」


こいつ…

まあ確かにそうなのだが、それが叶わないからこうしているのだと察して欲しいものだ。

「確かに普通はそうだな。だがな…言っただろ?俺は世間からかけ離れた存在なんだ」


「と、言うと?」

ラニイが食いついてきた。


「ラニイ…まあ、そうだな。いいだろう、俺がどうして殺人鬼になって、今まで生きているのか話そう」


「ずいぶん物々しい言い方ね。

ま、聞かせてもらおうじゃない?」


「陸の異人から話を聞けるのは嬉しいけど…何だかすごく怖いわ…」


「よ、よーし聞いてやろうじゃないか!

い、言っとくけどオレはどんな話聞いても、ビビったりしねーからな!」


「レジェンドの昔話が聞けるなんて、またとない機会だわ。どんなのでも聞くから、話してちょうだい」


揃いも揃って、ずいぶん期待してくれるな。

いつぶりだろうか、間近でこんなに多くの奴に向けて話すのは。


「期待されても困るな。今からする話はそんな大した話じゃないんでね」


「そういう奴に限って、大した話をするもんだよ。

ほら、早く話してくれよ」


「ふっ…わかったよ。まず、アレイとラニイはわかってるだろうし、ミクも気づいたようだが…俺は、元々こんなんだった訳じゃない」


「え、殺人鬼って殺人者の上の種族でしょ?

始めから殺人者だった人がなるんだと思ってたわ」


「私もそう思ってた。違うんだね…」


「始めからの殺人者なんていないんだよ。殺人者は基本的に子供を作れないんだからな」


「え!?じゃ、どうやって増えてるの?」


「まさか、吸血鬼みたいに他の奴を変えてるのか…?」


「んなわけあるか。殺人者になる奴は基本転移か転生だよ。…っと、まあとにかく俺は、元は普通の人間だったんだ。で、こことは違う人間の世界…白い世界(ブラン)に住んでたんだ」


「白い世界…って、人間界のことでしたっけ」


「そうだ。異人が存在せず、人間だけが存在する世界…そこに、俺は住んでいた。

それで、俺はその中の日本って国の寒い地域に生まれたんだが…まあ、なんだ。他の奴らとはちょっと違った特性を持っててな」


「なに?どんな特性を持ってたの?」


「人間界には、見た目は普通の人間でも、生まれつき普通の人間に出来る事が出来なかったり、物事に集中出来なかったりするって奴がいるんだ。で、俺もその一人だった。

周りの子供が友達をホイホイ作るようになっても、友達を作る事が出来なかった。

それどころか、同年代の子供が集まる中で苛められた。

しかも、家に帰れば親父に虐待された。狭くて暗い部屋に監禁されたり、鈍器で頭を殴られたりな。何回自分の体から流れる血を見たかわかんないくらいだぜ」


「ひどい…自分の子供にそんな事する人がいるなんて…」


「案外よくいるもんだぜ。海人には縁のない話かもしれんがな。

で、そんな日々がしばらく続いた。

12歳になったある時、俺は唐突に、誰かを殺したい気持ちが芽生えたんだ」


「まさかそれで…?」


「いや、まだだ。この時点では、殺しはしなかった。

その後はいじめられることもなくなって、親父からの虐待も止まって…しばらくは穏やかに暮らせたんだ」


「よかったわね…」


「ところが、だ。俺には二人弟がいたんだが、親父の矛先は今度はそっちに向いてな。

毎日のように、理不尽に殴られ蹴られの暴力を受ける弟の姿を見るのはキツいものだった」


「それは…確かに辛そうだな…」


「で、そんな事が続いた結果、とうとう俺はおかしくなっちまった。

いや、いつどこで狂ったのか、正確にはわからん。気づいてなかっただけで、既に狂ってたのかも知れんな―。

そして、18歳のとき、大きく変わる時がきた」


「変わる時…?」


「どう変わったのかしら」


「なに、簡単な事だ。就職したのさ」


「あら、それは結構大きな変化じゃない?社会に出て、自分の力で生きるようになったんだから」


「ああ、そうだ。…普通はそうなるよな」


「えっ…?」


「今言った通り、俺は二重の意味で普通の奴とは違った。本物の欠陥人間だし、何より人を殺したい気持ちがある訳で。

だから、ずっと親に言ってたんだ。俺なんか社会に出られる訳がない、そんな事しても誰も得しない…ってな。けど、奴らはなぜか妙に強情で、半ば無理やり就職させられたんだ。

で、とりあえず働くようにはなったんだが、案の定色々と問題が出てきた。

俺の場合、普段の生活はまあ問題なかった。ただ、人との付き合いがとにかく苦手だった。なんというか…相手の気持ちを考えるとか、その場にふさわしい言葉遣いをするとか、過去の失敗から学ぶとか、って事が出来なかったんだ。

それに俺は、社会のルールとかマナーとかいうものを守る気がまったく無かったし、どんな状況でも自分が悪いとは思わないタチだった。…まあそんな奴が社会に出てまともにやっていける訳もなく、2年もしないうちに仕事を辞めちまった」


「それで…?」


「親に言ったんだよ。こうなる事はわかってたはずだ、俺なんかを社会に出したらろくな事にならないってずっと言ってただろ、ってな。

そしたら、まあ、もう内容なんて覚えてないが…どうでも、何だかよくわかんない屁理屈をぬかされて…結局口喧嘩の末、家族を皆殺しにしちまった訳よ」


「…」


「なんで、弟も殺したんだ?」


「さあな。あの時はわからなかった。というか、今でもそれはわからんよ。

そんで、返り血で染まった両の手を見て思ったんだ。

俺がやりたい事、やるべき事はこれだったんだ、ってな。

その後は適当にあちこちまわりつつ、殺しをやった。

細かく殺り方とか場所、時間を変えたりなんなりしてな。結構楽しかったよ」


「そんな事して、許されるの…?」


「まあ社会的には許されんだろうな。だが、そんな事はどうでもよかった。世に生まれてしまった以上は、何らかの形で世に貢献せねばならない。しかし、俺は社会の歯車になる事はできなかった。だからもう一つの道、社会の脅威となって生きる事を選んだ。ただ、それだけだ」


「イカれてんな…」


「だと思うよ。でもな、俺にとっては皆さんの今の生活と同じ、何気ない日々だった。

人を殺すなんて許されないとか、頭がおかしいとか言う奴がよくいるが、俺に言わせりゃあ綺麗事を抜かすなって感じだ。努力しなきゃ生きていけない、それはわかってる。でも、自分なりに頑張って努力して、それでもなぜだか大して実らず、結局ろくに理由もわからないままにどん底に落とされる奴は沢山いるんだ。その気持ちがお前らにわかってたまるか、ってな。

そもそもこの世は、世に貢献する奴だけで成り立ってる訳じゃない。俺のような奴がいればこそ、世が成り立ってるのも事実な訳だ」


「えぇ…」


「皆さんに俺の気持ちを理解してくれとは言わない。けどな、相手には相手の立場、事情がある事は忘れないでいただきたいもんだ。

さて、そんな日々を送っていたある時、俺は目を覚ましたらノワールに来ていた。そして、『無情者』って言う殺人者になって、今までと変わらない生活を送って、大体50年後に殺人鬼になりましたとさ。

…とまあ、こういう訳だ」


「すごい生涯を送ってきたのね…」


「そうだろう?でも、それはみんなも同じはずだ。

…あんたらは偉いよ。どんなに辛いこと、嫌なことがあっても、道を踏み外さず、一応地道に生きてるんだからな。

俺は後悔はしない派だが、一つだけ後悔してることがある。それは、普通にみんなと同じように生活してみたかった、って事だ」


「…」


「殺人鬼は、みんな最初から頭がおかしかったと思ってる奴がいるが、それは間違いだ。むしろほとんどの殺人鬼は、元々普通に生きたいと思ってた普通の人間だったんだよ」


「そういう事だったのね…どうりで、あなたに人間的な温かみがあるはずだわ」


「やっぱり、龍神さんは純粋な悪人なんかじゃなかったんですね。過去を覗く勇気はなかったですが、なんとなくそんな気はしていました」


「そうだな。…っと、そろそろ町が見えてきたな」


「あら、本当。みんな、そろそろ急ぎましょう。

よく考えたら、リヒセロが待ってるわ」




・冥月龍神

人間界出身。年齢は24歳。

武器には刀と弓を使っているが、ブーメランや短剣も扱う事が出来る。

「電操」の異能を持ち、術の適正属性は電と闇。種族は殺人鬼。

冷淡で、何かにつけ嘲笑ぶろうとするが、基本的には大人しく優しい性格。

人とのコミュニケーションを苦手とし、限られた事にのみ強い興味とこだわりを持つASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)という生まれつきの特性を持っている。

その特性から来る独特な振る舞い故に友達ができず、周囲から孤立し、幼少期からいじめにあっていた他、父親から日常的に虐待を受けるなど、非常に不安定な環境で育った。

その結果、小学生にして殺人衝動に目覚める。

高校卒業後就職したが、衝動性と独自の興味を持つ一方仕事に情熱がなく専念できなかったこと、対人関係や社会生活で酷く苦労したことなどから生きづらさと自己無価値感を感じ、20歳で退職。家族と口論になった挙げ句、家族を全員殺害してしまう。

それ以降は仕事を全くせずに路上生活を営みつつ、人を殺してはその持ち物を盗んで生活するようになる。

そして数年後、ノワール界に転移。殺人者の一種である「無情者」となり、約50年後に殺人鬼に昇格した。

以降、約1500年もの間、全く働かずに強盗殺人や強盗を行って生きている。

その所業故、『狂った名刀手』『電光の殺人鬼』などと呼ばれており、社会に大きな影響を与える危険な殺人鬼として指名手配されている。

その心は人としてはとうの昔に死んでいると言う者もあれば、まだ辛うじて生きていると言う者もある。

本名(人間だった時の名前)は「望月龍神」。

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