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乗船

気づくと、私は屋内でベッドに寝かされていた。



古ぼけた木の板が張られた天井が見える。

身を起こすと、古びた建物?の中にあるベッドに寝かされていた事がわかった。


と、入口のドアが開き、誰かが入ってきた。


それは、女の海人だった。

格好はまったく別の物だけど、本能的に同じ系統の同じ種族だとわかった。


「起きたのね。傷はない?」


「え、ええ…」


「ならよかった。立てる?」


「たぶん…」

恐る恐る足を下ろすと、普通に立つ事が出来た。

「…大丈夫そうだね。じゃ、こっちに来て」


女に連れられ、部屋を出る。

そこは、船の甲板だった。


甲板では、男女問わず様々な種族の海人が働いていた。

海姫、水兵、魚人、海騎士、水守人…

まるで、海人の博物館だ。


それらは声を掛け合いながら、時折怒号を響かせながら、船内から物を運び出したり、望遠鏡を覗いたりしていた。


「さあ、こっちへ」


この人はおそらく水兵だけど、制服も着ていないし帽子も被っていないので、どこの所属かわからない。

いや、それ以上に、何か…

何か、言葉にならない違和感を感じる。

この違和感は…何だろう?



船内へ降り、連れていかれる途中で声をかけられた。


「おっ?なんだ、新入りかぁ?」


声の主は、タラのような顔をした魚人だった。


「あー、この子はね…とりあえず現時点ではお客さんだよ」


「へーえ。てこたぁなんだ、今から船長に会いに行くのか?」


「ええ。あとこの子、見ての通り私の同族だから、手出さないでよね」


「へいへい…ったく、久しぶりにかわいい子が来たのによぅ…」


今の言い方だと、まるで私をこの船の一員にしたいというような感じだったけど…

私はこの船のメンバーになるつもりはない。



それからもちょくちょく、乗組員を見かけた。

魚人や水守人が大半だったけど、中には水兵や海騎士もいた。

私に声をかけてきたのは、ほとんどが異種族だったけれど。


そして、ようやく目的の部屋についた。

「ここが船長室だよ。一人でいける?」


「ええ…」


「わかった。じゃあね」


水兵と別れ、ドアを引く。


幽霊船の船長…

一体どんな人なんだろう。

海人系種族をたくさん乗せてるってことは…




「…来たか」


部屋の奥には、立派なテーブルと椅子。

テーブルには様々な書類や本が散らばっており、椅子にはかなり大柄な異人が座っていた。


「おいで」

言われるがまま、近づいていく。

驚いた事に、船長は水兵だった―

それも、恐らく私よりずっと上の立場の。


「…」


「そんな緊張しなくても大丈夫。

私達はあなたに危害を加えるつもりはないから」


「本当に…?」


「ええ。私もそうだけど、この船にはあなたの同族が何人もいる。別にあなたを取って食ったりはしない。だから、安心して?」


「…」

どうしよう。

悪い人には見えないけど…

どうも、信用していいかの判断をしかねる。

そこで、1つ質問をした。


「なら、1つ聞かせてほしいんだけど…

この船に乗ってる人達は、何なの?」


「彼らは私の部下。クセ強い奴ばっかりだけど、悪い奴はいない。私の命には忠実な連中だから、あなたに手を出したりはしないはずよ」


「そう…」

この人からも、何か言葉にならない違和感を感じる。

見た目は完全に水兵だけど…なんか、なんか違うような…


「それで、あなたはどこから来たの?この海域では見かけない服装だけど」


「私は…レークから…」


「ふーん…」

船長は、私の顔を見つめて考え込んだ。

そして、

「よし!OK!」

と喜びの声をあげた。


「OKって…?」


「あなたはこの船に乗るべくして乗った子。

なら、拒む理由はない!」


「え、それってどういう…」


「あら、まだわからないの?」

船長は、にんまりと笑って言った。


「『ディープ・ライン号』へようこそ、レークの若き水兵よ!」 








いつの間にか夜になっていた。


冥き波に揺られる朽ちた船。それは時に不気味な唸りを上げる。


その中のある一室。

そこに、私は放り込まれていた。


「…」

今は船長に出された食事を食べている。

魚の丸焼き。とても美味しいとは言えないけど、仕方なく食べている。


「どう?町で食べるものとは、また違うでしょう?」


無言で頷く。

これなら、町で売られてるものの方がまだ美味しい。


「ごちそうさま…」

素っ気なく食べ終え、食器を持っていこうとしたけど止められた。


「後で誰かしらやってくれるから大丈夫。それより、1つ聞きたいことがある」


「何?」


「あなたは見た感じだいぶ若いようだけど…

復活の儀って知ってる?」


「ええ。あれがどうかしたの?」


「あれはね、私達の存在と密接な関わりがあるのよ」


「というと?」


「八大再生者の一人、苑途楓姫を知ってる?」


「ええ、もちろん。火を操る、かつて魔女だった再生者…」


「そう。奴はかつて、生の始祖率いる三聖女と、その協力者に倒されて封印された。

でも、奴は滅びてはいなかった…」


「…。」


「奴は、最期に三聖女とその協力者たる水兵の長に呪いをかけた。三聖女は自身で呪いを打ち払ったけれど、水兵の長は違った。

奴はキリセの海に沈んだ朽ちた船を蘇らせ、そこに水兵の長とその仲間達を縛り付けた…ニームの長の力の源でもある宝玉、潮の心と共にね。

そして、私達は永遠に船と共に海を彷徨う呪霊となった。

…私達は、呪われたのよ」




部屋から出ようと、ドアノブをガチャガチャ回した。

でも、どうやってもドアは開かなかった。


「何を恐れる必要があるの?」

じりじりと近づいてくる船長が、この世のものでないように感じられた。


「あ…あぁ…」


「私が怖い?なら、いいものを見せてあげる!」

長は死者の術でドアを開け、私をその向こうに引っ張った。


暗闇に覆われた甲板。

その中にかすかに映るのは、頬の肉が腐り落ちた水兵。

いや、それだけじゃない。

片腕がない海騎士、あばら骨が丸見えになった水守人、挙げ句には顎がない魚人もいた。


「見なさい!

これが、夜に浮かび上がる私達の真の姿!

呪われた、穢らわしく悍ましい海の異人!

生者ではない、でも死ぬ事は許されない!」


そう言えば、この船長の成りはよく見れば見覚えがある。

でも…、そんな…まさか…。


「あっ、そうそう。言ってなかったわねぇ…」

船長は、その身にかけた変身魔法を解く。


「私はかつて、ニームの水兵長だった者!

そして今は、この呪霊の船の船長!

そして…」

かつてのニームの長だったモノ。

それは悍ましい翼と醜い牙を持つ、哀れな姿を露わにした。


「私の名は、メグ・ファンド・レームド・メニーム。

でも、それは過去の名。今の私は、メグ・ヴァルト・ジーム…

この船の舵を握る一軍の呪霊にして、ランクディープの負の吸血鬼よ!」






世界観・吸血鬼

基本不死の身体と驚異的な再生力を持ち、八重歯のような牙で他者の血を吸う人型の存在の総称。

この世界では正の吸血鬼と負の吸血鬼の2種類が存在する。



世界観・負の吸血鬼

吸血鬼のうち、他者の血そのものを糧とするもので、アンデッドの仲間に分類される。

もともと位の高いアンデッドだが、さらにランクと呼ばれる階級があり、アビス、ディープ、ダーク、シャドーの順に階級が高く、強大な力を持つ。

階級が高いものの中には蝙蝠や鷹のような翼を有しているものもいる。

一部の呪霊や異人が変化することもある他、吸血した相手を同族に変える能力も持つ。

日光と聖水を苦手とする他、吸血鬼狩りに所属する者や銀武器、光属性の攻撃に弱い。


世界観・呪霊

呪いによって現世に縛り付けられた屍あるいは亡霊。

死んでも成仏する事を許されず、縛り付けられた場所を彷徨い続ける。

生前、特に強大な力を持っていたものはより上位のアンデッドである負の吸血鬼や怨霊に変化する事がある。

呪いをかけた者が呪いを解く(または死亡する)か、魂に干渉できる能力を持つ者や光属性の攻撃で倒されると消滅する。

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