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町めぐり

やたらすっきりと目が覚めた。

時刻を見ると既に6時。

昨日寝たのは10時頃だったから、8時間ばかり寝たことになる。


どうも、アレイと旅を始めてから睡眠時間のサイクルが狂ってしまっている。

今までは12時か1時頃に寝て、4時か5時に起きるのが普通だったのだが…。


まあ無理にそんな時間に起きても何もないし、なぜか寝すぎてもそんなに日中の活動に影響はないのでいいとするか。


そもそも大前提として、今俺は一人ではないのだ。

あまり身勝手な事は出来ない。


肝心のアレイは既に起きていた。

アレイも夢にキャルシィが出てきたらしいが、俺とは違う夢を見せられたらしい。

しかもそれによれば、エイミはまだ生きているとのこと。

流石は死霊騎士、しぶといな…。




8時過ぎにロザミが用意してくれた宿を出て町に繰り出したが、昨日の事など始めからなかったかのように賑やかだった。

「平和なもんだな」


「昨日みんなが奮戦したおかげで、国内には被害が全く出なかったんです。

この平和は、私達が守ったものなんですよ」


「そうだな」

ベクス達はロザミが城で保護してくれるらしいので、まあ一安心といった所だ。

ニームに行くのはすぐに出来るので、ちょっと街中を観光することにした。


当たり前ではあるが、街中を歩いてる奴はみんなもれなく術士か魔法使いだ。

人間もいるが、そのほとんどから魔力を感じる。

「この国には、修道士系はいないのか?」


「いるにはいたと思います。ただ、教会や学院にしかいませんが…」


教会や学院、ねえ。

どちらも修道士というか、司祭がいる所だ。

確か、修道士系の種族は修道士→僧侶→司祭の順で昇格していくはず。


修道士は基本的に修道院や管轄区域から出られないが、僧侶になると自分だけの意志で外部へ出る事が許され、司祭になると教会の管理者になったり、魔法学院や別の修道院に講師として行けたりする。


最も、修道士が僧侶になるには最低でも50年、僧侶が司祭になるには200年の修道が必要だと言われており、人間の感覚では昇格にえらく時間がかかるのだが。


「それ、修道士というか司祭じゃないか?」


「まあ、そうですね…」


そんな会話をしていると、何だかちょっとした人混みが見えてきた。

「なんだ?」


背伸びして見てみると、人混みの先にいたのはピエロ?みたいなやつだった。

「旅の道化師ですね。道化師は、旅先の都市や道で芸をして、道行く人々を楽しませる事を仕事や生きがいとしている種族です。

この辺では、割とよく見かける放浪異人ですよ」


「へえ…」

よく見ると、その道化師は玉乗りをしながら7本の短剣でお手玉をしている。

…なんか、昔やってたRPGシリーズ(つまるところロ○サガ)に出てきた大ボスを思い出した。 


あれ、ムズゲーだったけど面白かったな。

まあ、今時の若い奴に○マサガなんて言ってもわからん奴の方が多いだろうが。




少し歩くと、気になるものを見つけた。

∞(ウロボロス)のような刺繍が入った白いとんがり帽子を被り、白いスカートを身に着けた娘。

それは先に緑の玉がついた杖を持ち、町ゆく人々を眺めながら街角に佇んでいる。

身長はアレイと同程度。

種族は…魔法使いだろうか。


「なんだありゃ?」


転送魔女(バニシュマース)ですね。お客さんを行きたい場所に魔法で飛ばす仕事をしている人達です」


「へえ…どこにでも行けるのか?」


「基本的にはそうです。特定の人の所に行く、なんて事はできませんけどね。

遠くの目的地でも一瞬で移動出来る上、他の乗り物を使うより安い事が多いので、この大陸では昔からよく使われている移動手段です」


「どのくらいかかるんだ?」


「確か、2500テルンだったと思います」

なるほど。なら、遠くへ行きたい時は船や馬車に乗るより断然安い。

バニシュの魔法を使えればタダで移動出来るのだが、あれはなかなか難しい魔法なので使える奴はそんないない。


「ずっと立ってなきゃないので、そこは大変ですが、基本的には楽でいい仕事ですよ」


「やったことあるのか?」


「はい、昔レークでやってました。飛ばし魔法の技術さえあれば出来ますし、結構稼げるので人気商売なんですよ」


飛ばし魔法はものを遠くに飛ばす魔法だが、そこまで難しい魔法ではない。

「じゃ、ニームに行く時はあれで行ってみようか」


「いいかもしれませんね。

私もしばらく飛ばされてませんし」


今まで全く考えてなかったが、今回の旅はかなり長丁場だ。

当然、出費はなかなか重いものになってくる。

まあ2500くらいならそこらで異形狩りをやれば余裕で貯まる額なのでそこまで痛手でもない。


異形がなぜ金を持ってるのかは…気にしないでおこう。

ド○クエ他のRPGでモンスターを倒して所持金が増えるのはなんで?と言ってるようなものだ。



さらにしばらく歩くと、なんと…

「おはようございます」


ロザミが普通にベンチに座っていた。

こんな朝っぱらから、普通に町中にいていいのだろうか。


「あ、ロザミさん。おはようございます」


「おは…って、なんであんたが…」


「いてはいけませんか?」


「いや、そうじゃないが…

国の統率者が普通に町中にいるって…」


「マトルアではごく普通のことですよ。

城に篭っていても、良いことがありませんからね」


日頃から国民の前に顔を出し、自身が活動している事を国民に感じさせているのは感心だ。

彼女が純粋に国と国民の事を考えている事がよくわかる。

「そうですね。

てか、ロザミさんそれは…」


ロザミはフィドルを持参していた。


「おわかりですよね?」


「え、ええ…」


「わが国の領地と民を守ってくれた事への感謝と、これから長く辛い冒険に出る旅人への激励。

その二つの意味を込めて、あなた方を詩に詠う事をお許し下さい…」

そして、ロザミは詠い出す。


「復活の儀より数十年の後。

闇と絶望に満たされた東ジークの地。

マトルアの国に現れたは二人の若人。

若人は如何なる敵にも怯まず、恐れず挑み、再生者と死霊騎士を退けた。

かの若人達、我らが希望なり。

かの勇者達、我らが恩人なり。

そして若人、止まらずして旅を続く。

おお、若人達は次いずこへ…」




フィドルを置き、ロザミは頭を下げた。

「…此度は、本当にありがとうございました。

次はニームへ行かれるそうですね。用件が済みましたら、ぜひ城へいらして下さい。

十分な恩賞を用意させて頂きますので」


「わかりました、ありがとうございます」


「わかった。必ず戻ってくる」

正直恩賞なんかいらないが、主君からのご厚意を無駄にするのはジークの地のマナーに反する行為。

ここはありがたく頂くとしよう。

ニームでの用が済んでからだが。




ニームに行く途中、昨日気になった事についてアレイに聞いた。

「昨日、太陽術を使った時に殺人鬼がどうの、って言ってたよな。

結局、あれはどういうことなんだ?」


「ああ、あれですか…」

アレイは、急に暗い顔をした。


「あれはそのままの意味です。わざわざ検察に化けて私に冤罪をかけ、牢獄送りにしようとしてきた者に、私なりのやり方で報復しただけです」


「え…」

思わず言葉を失った。

冤罪の報復で相手をまるまる取り込むって…

下手な殺人者よりエグい事してるぞこの子。


「あら、龍神さんならこのくらい普通に流してくれると思ったんですが」


「いや、別に平気だぞ?

別に酷いとかは思わないが…取り込むって…。

それで、そいつの能力とかも全部取り込んだんだろ?」


「はい。太陽術を使えるようになったのは、そういう訳です」


「…そうか。

因みにだが、一体どうやったんだ?」


「普通に術を使いました。私、凍らせたものは操れるので、彼の体を凍らせて私の体と溶け合わせました。

奴の体や力は勿論、記憶まで完全に私のものです」


「…」

今、初めてアレイが恐ろしいと感じた。


体が芯から震えるような、ぞくぞくした感覚。

ノワールに来て以降、ほとんど感じる事がなく忘れていたが、これが恐怖というやつだっけか。

人に恐怖を与える存在の俺が、逆に恐怖を感じるとは。


「どうかしました?」

まあ、誰でも恐ろしい面があるものだ。

俺は怒る事はほとんどない…というか感情が乏しいのはよく自覚しているが、今こうして穏やかに話しているアレイも、ひとたび怒れば相応に恐ろしいのだろう。

現に、彼女の逆鱗に触れて犠牲となった同族が既にいるわけだからな。


「あ、いや、何でもない…」

思考や出で立ちは違えど、同族の犠牲者。

せめて、しめやかに手を合わせておこう。



「そうだ、取り込んだ記憶の中にあった事なんですが…

幽霊船ってご存知ですか?」


「幽霊船って…船乗りの亡霊が乗ってるっていうあれか?」


「ええ。実は、キリセの海を彷徨う幽霊船が存在するそうなんです。そして、どうもその幽霊船が楓姫を倒すカギになるらしくて…」


「!じゃ、すぐに探そう!」


「待ってください。キリセの海は広いですから、闇雲に探しても疲れるだけです。

まずはニームで情報を集めましょう」


「わかった。じゃあすぐに行こう!

もうここに用はないよな?」


「は、はい…」


「じゃ、善は急げだ!行くぞ行くぞ!」


半ば強引にアレイを引っ張り、さっきの転送魔女(バニシュマース)の所へ向かう。







異人・修道士

光の属性を専攻した術士が昇格する種族。

正教と呼ばれる組織に所属し、修道院という施設内で戒律と呼ばれる掟に従って生活する「修道」を行っている。

戒律の内容は組織によって異なるが、多くは不殺生・貞潔・清貧・主への服従を掲げている。

神と呼ばれる存在を崇め、世の人々を救う事が自分達の役目であり、厳しい戒律に縛られた生活はそれが出来る高貴な存在となるために必要なものであると信じている。

女性の場合は修道女とも呼ばれる。

上位種族は僧侶で、さらに上位の種族に司祭が存在する。


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