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モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする  作者: 豆もち。
モブ王子、悪役令嬢に出会う
4/15

有馬 ことねの災難




 後味の悪い茶会から3日。

 アベルトは王妃の前でヴァイオリンを披露していた。



「本当に綺麗な音色ですこと。今の曲は初めてね、新しく覚えたの?」

「はい。先週からの課題曲なんです。とりあえずミスなく弾ける様になったので、先生に見てもらう前にお母様に聞いてもらおうと思って」

「ああ、嬉しいわ。とても上手よ。きっと先生もお褒めになるわ」

「ええ、本当に。さすがアベルト殿下ですわっ」



 一緒に聴いていた侍女やメイド達も、ほっこり顔で拍手し、賞賛の言葉を贈っている。



「ありがとうございます。ところで兄様は?」

「あの子は陛下の所よ。昨晩、婚約者が決まったの。今頃聞かされているんじゃないかしら」

「へえっ! どなたになったんですか?」

「ヴォストラ嬢よ。王子と同じ年頃で1番身分が高いのは、彼女だけだったから。まあ当然かしらね」

「…まさか、レティア・ヴォストラですか」

「そうよ、茶会で会ったでしょう?

貴方を不躾な目で見たハルソフの妹。でも安心なさい。次にそんな態度を取ってきたら、灸を据えてやるわ」



 愛する我が子を見て、にっこり微笑みながら、王妃はドスの効いた声で言い放った。



「お母様。ヴォストラ家は貴族派筆頭ですよ。あまり恐い事を言わないで下さい」

「まあ、何て優しい子なのかしら。アベルトがいればカルロも安心ね。

ねぇ、そうは思わない?」



 自慢げに問うと、筆頭侍女が深く頷いて同調した。



「仰る通りですわ。殿下はまだ8歳だというのに、とても聡明でいらっしゃいます。

必ず、王と成ったカルロ様を立派に支えられる事でしょう」

「ふふ、そうでしょう?

でもカルロが独り占めするのは勿体ないわ。

アベルト、兄の手助けもして欲しいけど、母を忘れてはいけませんよ。

嫌になったら、母と暮らしましょうね」

「アハハ、嬉しいですけど、お父様に叱られますよ。

それにみんな大袈裟です。僕より兄様の方が優秀ですから」

「貴方は本当に謙虚ね。母はもう少し傲慢なくらいが良いと思いますよ」



 親バカを体現したと言っても過言ではない母親に、アベルトは何とも言えない気持ちになった。



「(にしても、彼女が兄様の婚約者か。

しばらく様子を見て、やはり相応しくないと思ったら、兄様に傷がつく前に破談にさせよう)」








◇◆◇◆◇◆◇◆



 その日の朝、ヴォストラ家は歓喜に包まれていた。

 城から正式に皇子との婚約が内定したとの知らせが届いたからだ。

 喜んだ公爵は、娘を褒めてやろうと自ら知らせに部屋を訪れた。



「レティア、良くやった! カルロ殿下とお前の婚約が決まったぞ。これでお前は未来の王妃になるのだ! 」

「まあっ! 本当ですかお父様! 嬉しいですわっ、婚約者になれるなーーーー?

殿下と婚約???」

「レティア、どうした?」



 突然ぶつぶつと呟き出した娘に、公爵は困惑する。



「れてぃあ、レティア・ヴォストラ? 私がっ?!

そんなっ嘘よ、だって、だってレティアは、悪役令嬢じゃないー!!」

「レ、レティアっ」

「きゃー! お嬢様っっ」



 訳の分からない言葉を叫んだかと思うと、次の瞬間、彼女は倒れた。










 一夜明け、レティアは目を覚ました。



「ここは……」



 何、この豪華な部屋。ベッドもふかふか。

 私、気を失ってたの?



「うっ、頭痛い」



 痛んだ頭をさすったら、サラサラの髪に触れた。

えっ、私天然パーマのはず。しかもボブ。こんな長くない!

何コレ?! 手だって綺麗。食器洗いで荒れていたはずの指先は、ほっそりしていて、なめらかだ。

パーツモデルできるんじゃない? 私。



「ーーーーって違う! どこよココ」



 ベッドを降りて、とりあえず目に入った姿鏡の前に立つ。

ベッドが感覚よりちょっと高かったみたいで、少しよろけちゃった。

鏡に映ったのは腰まであるブリュネットの真っ直ぐ伸びた髪を持つ綺麗な子供。



「この子って、レティアにそっくり……」



 最近ハマって毎日プレイしていた『トリステア王国と精霊王の愛子』の悪役令嬢、レティア・ヴォストラを幼くした様な顔じゃない!

 夢を見てるの? だからって何で悪役(レティア)なのっ。



「お嬢様っいかがされましたか?!」



 さっきの叫び声に反応したのか、メイド服を着た女性が駆け込んで来た。



「あ、えっと、何でもない、の。

ね、ねぇ。私の名前呼んでみて」

「は、はぁ、レティアお嬢様。本当に大丈夫ですか?」

「やっぱりレティアなのっ」

「お嬢様?」

「ごめんなさい、頭が混乱して…とりあえず出てって。私は大丈夫だから」

「 (お嬢様が謝った?! 今朝倒れられた時に、まさか頭を? ) 」

 


 ずいぶんビックリした顔で出てったわね、彼女。言い方が失礼だったかしら。心配してくれたのに。

 珍しく続いてるメイドなんだから、大事にしないと……。

ーーえ? 何で私が()()()()()()()()の?

何っーー!? 急にレティアの記憶が流れ込んでくる!



「そうよ、そうだわっ。

私はレティア・ヴォストラ! 前世はビルの崩落事故に巻き込まれた、有馬 ことね!!」



 何て事なのっ。よりによってヒロインを暗殺しようとして、殺される悪役令嬢に転生するなんて!

ヒロインが良かった。レティアは天性の性悪女じゃない。

 終わった。

 今、レティアの記憶を追っただけで、既に数え切れない悪事を働いている。

もちろん、12歳だからゲームと違って小さな悪戯みたいな事ばっかりだけど、態度が悪すぎる。

傲慢でキレやすくて、救えないほど性格が悪い。

 まずレティア(おまえ)何やってんのよ!

 格下とは言え、伯爵家のお嬢さん罠に嵌めてるじゃん。

デマつかって、足止めとかないわ。てか絶対ヤバイよ。王子の気分悪くさせてどうする。ソフィアの印象下げても、そもそも話し始めたのは自分の取り巻きだろうが!

オツムが足りん!

……いや、違うわ。それよりソフィアに謝罪を。あと婚約の辞退。

 あれ、王子との婚約って断れるの?

 たしか、この婚約って王室と貴族派のバランスの為に組まれた縁談だよね。



「詰んだ。ゲームオーバーよ。早く強制リタイアさせて。セーブは一切しないから、リセット。リセットしてえぇーーーーーーっ!!」






◇◆◇◆◇◆◇◆



「あ、兄様。明日公爵邸に行くんでしょ?」

「ああ。知ってたのか」

「アイリーンに聞いた。ね、僕も行きたいな~」

「お前がか? 用がないだろ」

「兄様の付き添い。だって、将来家族になるかも知れないんでしょう?」

「仕方ないな、明日聞いてみよう。今日は遅いから寝なさい。

それとも久しぶりに一緒に寝るか?」

「や、さすがに大丈夫」

「…そうか、残念だ」





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