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モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする  作者: 豆もち。
モブ王子、悪役令嬢に出会う
13/15

ウワサの天才王子




◇◆◇◆◇◆◇◆




 朝からアカデミー内は騒がしかった。

 授業開始には、あと1時間弱あるにも関わらず、生徒達は口々に今王都を騒がせている“ウワサ”について話している。


 もちろん、それはレティアとて例外ではなかった。



「ごきげんよう、レティア様。

お早いですわね」

「ええ、だって今日からでしょう?」

「あら。やはりレティア様もご興味がおありで?

私、まだ信じられませんの!

ですから居てもたっても居られず、つい早く来てしまいましたわっ」

「私もよ (あの天使が同学年だなんて。クラスは流石に別かしら。けど、このクラスには殿下が居るから警護はしやすいわよね)」






 その頃、学長室は微妙な緊張感が漂っていた。



「ご入学おめでとうございます、アベルト殿下」

「ありがとうございます! 学長」

「(この小さな王子があの試験を……試験にも立ち会ったというのに、未だ信じられん)

クラスは王太子殿下と同じですので、ご安心を」

「嬉しいですっ」



 カリマンは自身を奮い立たせる。

 自室のはずのそこは、もはや王城の一室と化していた。

 わずか8歳で編入……ではなく、入学を果たした第5王子。

入学後、たった1ヶ月で教師の信頼を得た王太子殿下。

何故か第5王子の付き添いで来てしまった、王妃殿下。

極め付けに生徒達の憧れ、近衛騎士団副団長アレックス卿とその団員数名。

 居心地が悪い所の話ではない。

 カリマンは静かに、最近常備する様になった胃薬に手を伸ばした。



「(しまった。薬を飲もうにも、私だけカップに口をつける訳にはいかん!)」



 堪らず胃を押さえながら、必死に意識を保っていると、最も恐れる人物が口を開いた。



「学長。試験に合格したとは言え、アベルトは8つです。身体的なハンデも大きい事でしょう。

そこをどうお考えか、教えて下さる?」

「最善は尽くしますが、なにぶん初めての事で、我々も模索している最中です」

「あら、模索している間に何か起こったら、どうなさるおつもり?」

「お、仰る通りでございますっ!

早急にプランを!」



 王妃が口元を扇子で隠しているせいか、感情が読めず、むしろ目力の強さに萎縮しきりの彼は、隠す事も忘れて、滝汗をかいている。

 その様子を、王妃は好ましく思えない。

「学長がこれで、本当にアベルトは守られるのか」と、王妃の心配は増すばかりだった。



「お母様、大丈夫ですよ。兄様が居ますから」

「そうですよ、母上。あまり学長を困らせては可哀想です」

「おや、カルロ。アベルトはまだ幼いのですよ。心配ではないのですか」

「あまり制限をかけると、かえって苦労するかもしれません。

クラスも同じなのですから、私が守ります」

「(兄様っ!)」

「(さすが殿下っ、助かった) 王太子殿下の仰る通りです、王妃殿下。

ですからどうか、今日の所は……ごほんっ。

どうか私共にお任せ下さい」

「そう。何かあれば、分かっていますね」

「ヒィッ、お任せを!」



 12歳の子供に救われる形で終わった手続き諸々の時間を、カリマンは何度も悪夢として見る事になるのだが、それはまた別のお話。






◇◆◇◆◇◆◇◆




 ドキドキするなぁ~。

 今日から兄様と一緒にアカデミー生活を送れるんだね!

兄様と同じクラスって事は、ヴォストラ嬢も同じクラスでしょ。

 あー。ほんっと楽しみ。



「アベルト。私は先に教室に入るから、お前は先生と入るんだぞ」

「はい、兄様」

「よしよし、偉いぞ」



 兄様、せっかくアイリーンが整えてくれたのに、もじゃもじゃになっちゃうよぉ。

 えっ直さずに行っちゃうの。ええ~。



「先生っ。僕の髪大丈夫ですか?」

「大変可愛らしいですよ」

「先生?」

「おっと思わず。

少し失礼しますね。ーーはい、綺麗になりましたよ」

「ありがとうございます!」



 自分では確認出来ないけど、先生が上手く整えてくれた事を祈ろう。





ーーガラガラ



「皆さん、おはようございます。

さて、ご存知だと思いますが紹介しますね。

ーーーーアベルト殿下、お入り下さい」

「はい。

皆さん、おはようございます!

アベルト・トリステアです。宜しくお願いします」



「まあっ、お可愛らしい」

「大丈夫なのか?」

「本当に一緒にお勉強なさるのかしら」

「いくらなんでも、幼いのでは」

「お近づきになった方が良いのか?」

「そりゃそうだろ」

「陛下の愛情は天井知らずですわ」

「カルロ殿下が見た事のない、優しい顔を向けてるぞ」

「見て、あの笑顔。なんて綺麗なお顔なの」

「まるで王女様だわ」



 うんうん。皆んな驚いてる。

 ごめんね、勉強の邪魔はしない様に頑張るから。

 ぐるっと教室を見渡せば、ちらほらと見た事のある令息、令嬢も居る。



「あっ、兄様……と、ヴォストラ嬢!」


 

 窓側の列の1つに、兄様とヴォストラ嬢が並んで座っている。

 でも何でだろう。

3人席なのに2人で座ってるし、前後の机ガラッと空いてるし。

…もしかして2人って避けられてるの。

こんなに素敵なのに。兄様は無欠の完璧人間で、ヴォストラ嬢は何か面白そうだよ?

皆んな放っとくなんて、勿体ないのにぃ。

 僕、そこの席が良いな~と念を込めて手を振ると、兄様はデレデレの顔で振り返してくれた。

 何か最近、お父様に似てきたよね。

 ヴォストラ嬢はーーえ、何で鼻押さえてるの。口じゃなくて?

息も荒いし、具合が悪いのかな。



「ぐっ!(天使の微笑みっっ! きゃわわ!

もーうっ、お姉さんをどうしたいの!? 持って帰りたい!悪魔なカルロ殿下から私が守るわ!! )」

「(さっき撫でた時に、髪がもっとふわふわしていたと思うんだが…自分で直したのかな?) ヴォストラ嬢、大丈夫か。息苦しそうだが」

「んぐ、だ、大丈夫ですわ。

失礼致しました。

はうっ、こっちに来る!」

「(本当に大丈夫か、彼女は)」



 先生は僕の意図を汲んで、兄様の隣にどうぞと笑ってくれた。

やったね。

 ヴォストラ嬢は、突っ伏す程具合が悪いのかな。お医者さん呼ぶ?






◇◆◇◆◇◆◇◆



 かわいい、カワイイ、可愛い!!

 天使が天使で天使過ぎて、息が辛い。

し・か・も! この席何?

 窓際からカルロ殿下、天使、私。

 心臓と血液が保つかしら。

何故か私の方を心配そうに、チラチラ見てくるし。

 むはぁっ! 私を殺す気か! そうなのか!



 そして、教師陣や私達の心配をよそに、アベルト殿下は驚く程順応していた。

授業も完璧にとは言わないまでも、普通についてきているし、周りと遜色なく大人しく机に向かっている。

 この子、本当に8歳なの?

まさか私みたいに前世の記憶があるんじゃないでしょうね。



 午前の授業を終え、いつもの様に、取り巻き達に強制連行で食堂へ連れて行かれるかと思いきや、まさかの先客。



「ヴォストラ嬢。一緒に食べよう?」

「えっ、私とですか?」

「うん。もしかして先約があった?」

「あ、いえ……(今日に限って何で遠慮するんだよ、取り巻きぃ!)」

「良かった! どんなメニューがあるのかなぁ。僕楽しみだなー」



 天使の笑顔には勝てん。

 心情的に、今絶対ドナドナが流れてるわ。BGMとして。




ーーザワッ



 嗚呼、噂されてる。

 ヒソヒソ声があっちこっちで。

 そりゃね。普段から取り巻き数名引き連れて、食事してるから目立ってるわよ。

対して今日は、たったの3人。 

だと言うのに視線は10倍。勘弁してちょうだい。



「アベルト、何が食べたい?」

「うーん、これかこれで迷ってる」

「じゃあ私がこっちを頼むから、半分こしようか」

「ありがと、兄様っ」



 美しき兄弟愛。ねえ、これ私が一緒に居る必要ある?

 てかあれ、私すごく睨まれてない?



「あの子……」

「ヴォストラ嬢は決まった?」

「えっ。あ、ええ」



 子爵家の子よね。クラスは違うけど、何度かお茶会で顔を合わせた事があるわ。

 だけど、彼女にレティアは関わってないはずよ。なのにどうして、私を?

知らないうちに恨みでも買ってたのかしら。

……いやあり得る。

 自分(レティア)の根性の悪さを舐めてはダメよ。

対策するべき? けど彼女には何の力もないだろうし。う~ん。




「良かったの? 兄様の前で上の空だなんて」

「っ?! アベルト殿下?」



 びっくりした! あれ、カルロ殿下どこ行った?



「兄様は、先生に呼ばれて席を外したよ」

「あ、そうでしたの」

「挨拶したのに無視だったね」

「え゛」



 嘘でしょ、何やってんの私!

終わった。しかもココ食堂。衆人環視もいいところよっ!

 ごめんなさい、お父様。次の晩餐会はお気をつけ下さい。娘の不甲斐ない噂で嫌な思いをするかもしれません。



「大丈夫だよ。そんなに気にしてなかったし、周りには聞こえてないから」

「本当ですか!」

「うん」

「良かった~」

「でも驚いたな。ヴォストラ嬢でも失敗する事があるんだね! 王太子の挨拶を無視するだなんてっ」

「へっ!?」



 おかしいぞ? 天使がーーーーあれっ??





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