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モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする  作者: 豆もち。
モブ王子、悪役令嬢に出会う
12/15

必殺、アベルトのおねだり



◇◆◇◆◇◆◇◆



 んー、気になる。

 兄様もあんまり話してくれないし。

 ヴォストラ嬢が城に来る予定も全然ないらしい。

 早く発表しちゃえば良いのにと思う一方、やっぱり彼女を見定めてからでないと危険だとも思う。



「もっとお話してみたいなぁ」

「あら、どなたと? 」

「あ、お母様。もうお仕事は終わったんですか? 」

「とりあえずはね。しばらくしたら、また戻らなくてはならないのだけど」

「そうですか。お疲れ様です」



 にこにこと優しく微笑むお母様に後ろから声をかけられた。

 そっか、まだお仕事あるんだ。

 充電してもらおっと。

 すっと両手を広げて、ドレスが皺にならない程度に抱きつくと、お母様はぎゅっと抱きしめてくれた。



「あらあら、甘えん坊さんですね。ふふ」

「えへへ。お母様、嬉しいんですが、そんなにぎゅっとしたら、皺になりませんか? 」



 もう既に手遅れな気がしないでもないけど。



「そんな事気にしなくて良いのよ?

それにこのドレスは皺になりにくい加工が施されているの。

だからいつでも甘えなさい」

「すごいですね!

抱きつき放題です! 」

「まあっ! まあ、まあ、まあ!

うふふ。なんて可愛いのかしら、私のアベルト」



 いつでもって事は、他のドレスも同じ加工がされてるのかな。

もしかして僕の為?

 とりあえず、このドレスの日は遠慮なく撫でてもらおぅ。

 兄様とお父様は、ちょっと力が強過ぎて苦しいんだよね~。お母様が1番!



「それで、誰とお話したいの? 」

「ヴォストラ嬢! 」

「あらどうして? カルロが何か言ったの? 」

「ううん。でも兄様のお嫁さんになるんですよね? だからお姉様が出来るなぁって」

「ああ、そうね (確かに王女達はアベルトを避けているから、姉とは思えないでしょうね。けれど、彼女は良い姉になれるかしら?

もしアベルトを邪険にしたら…) 」



 歯切れが悪くなっちゃった。

お母様はあまり気乗りしないのかな。

 兄様の婚約者だし、やっぱり僕が近付き過ぎるのは、良くないから。



「…お母様? 」

「え、ああ、でもあまり迷惑をかけてはいけませんよ?

あと、何か言われたり、嫌な気持ちになったら直ぐにお母様に言うのですよ」

「? はい」

「では、今度お茶でもしましょうか。

私とカルロと彼女とアベルトで」

「本当ですか? 楽しみです! 」



 本当は2人で話せたら良いんだけどな。

きっと兄様とお母様が居たら、ボロを出さないだろうし。

 あーあ、僕も兄様とアカデミーに通えたら良いのにっ。



「ねぇ、お母様。

僕、兄様と一緒にアカデミーに行きたいです」

「・・・」

「お母様? 」

「っあらごめんなさい。

驚いてしまったわ。カルロが居なくて寂しいのね。私がもっと側に居られたら良いのですけど」



 もちろん兄様と遊ぶ時間がなくなって寂しいのは本当だけど、アカデミーに行きたい理由はヴォストラ嬢に対する興味からだ。

 んん、お母様勘違いしちゃてるな。

ーーま、いっか。

 暗い顔のお母様と侍女達には悪いけど、そのままにさせてもらおう。



「そんな事ないです。お母様はこうやって、僕の様子を見に来て撫で撫でしてくれます!

でも、兄様とはいつも一緒だったから。それにヴォストラ嬢も居るんですよね。

2人だけずるいです! 」

「困ったわ。叶えてあげたいのだけれど、アカデミーは学ぶ場所なの。

だから年齢に沿って授業内容が変わるのよ。

1歳差だったら、場合によっては飛び級も可能かも知れないけど、4つは離れ過ぎだわ」



 むぅ、そんなの分かってるよぉ。

 飛び級ってやつをすれば、一緒に学べるの?



「飛び級って何ですか? 」

「それはね、普通はカルロの様に12歳からアカデミーに入学するのが決まりなの。

ただ例外があって、試験を受けて12歳の子と同じ様に勉強しても問題ないと判断されたら、12歳未満でも入学が許可されるのよ」



 僕もその試験に合格すれば、兄様達と一緒に居られるって事?!



「お母様っ!

僕、飛び級します! 」

「うふふ、そんなにカルロが好きなのね。

でもそれはとっても難しい事よ。

それに、もう始まってしまったから、受けるとしても来年になるわ」



 ええ~っ。

そうだ! お父様に言おう!

ついでに試験も優しくしてくれないかな?



「ああ、もうこんな時間。

アベルト、夕食の時にまた会いましょう」

「はい、お母様。お仕事頑張って下さい! 」



 お母様達は、そのままお仕事に戻って行った。

 お父様、今時間あるかな?

ーー行ってみるだけなら。良いよね。





 お父様の執務室に行くと、ドアの前の騎士達が僕に声をかけてくれた。



「アベルト殿下、いかがされましたか。

お1人で動かれては危険です!

護衛はどうされたのですか? 」

「皆んなが頑張ってくれてるから、お城は安全だよ! だから1人でも大丈夫 (一応、お父様がつけた影が守ってくれてるし) 」

「殿下っ!! なんとお優しい!

しかし危険に変わりはありません。次からは必ず、誰かと一緒に行動して下さい。

私が居る時は、私が」

「おい、俺達は陛下の騎士だぞ。無責任な事を言うな! アベルト殿下がお困りになるだろっ」



 はじめに話しかけてくれた騎士は、僕と目線が合う様に膝をついて話してくれている。

 彼が僕の方に来たから、ドアの両サイドを護っていたもう1人が、バランスを保つ為にサッとドアの中央に移動した。

そして、僕と話している騎士をすごい眼光で睨みつけている。

 ほわー、カッコいい!



「だって、アベルト殿下だぞ!

お可愛らしいじゃないか! 」

「バカか。自分の任務を忘れるな。

殿下、陛下にご用事ですか? 」

「うん。忙しそう? 」

「殿下がお話する時間なら、いくらでもとって下さいますよ。

ーー陛下、失礼します!

さっどうぞ中へ」



 打って変わって、柔らかい表情でドアを開け、部屋の中に入れてくれる。

 後で2人の名前聞こうっと。



「ありがとう! 」

「「いえいえ (笑顔が癒される) 」」



「お父様っ」

「おおアベルト!

お父様に会いに来てくれたのか! 」



 大きなドアから顔を出すと、お父様はバッと立ち上がって、駆け寄って来た。

 中を覗いた瞬間は、背の高い机の上で書類に向き合っていたのに、今はふかふかの長椅子に座っている。

 僕を膝に乗せて。



「お父様、僕8歳だよ」

「うん? そうだな」



 ダメだ。通じないや。



「お父様、お願いがあるんです」

「何だ。何でも言ってごらん」

「僕も兄様と一緒にアカデミーに通いたいです」

「そうかそうか。

ん? カルロと一緒にか? 」

「はい! 」

「一緒には難しいな。アカデミーには通えるが、アベルトが入学する頃にはカルロは高等部だ」



 何でもって言ったじゃん。

 あと、おひげが痛い。じょりじょりする。



「飛び級します! 」

「飛び級?! それは素晴らしい。

それなら1年ぐらいは一緒に通えるかも知れないな」

「違います。今からです! 」

「ん? お父様の聞き間違いかな?

もう今期は始まったから、早くて来年だぞ」

「お父様、僕試験受けたいです。近日中に」

「……そうか。学びに対する姿勢がとても素晴らしい! アベルトは天才かもしれないな。ハッハッハ」



 信じてないな。僕は本気なのにっ。



「お父様、お願い」

「アベルト? 」

「僕、試験受けます!

だから試験を受けられる様にして下さい。

必要な授業も別途用意して下さい」

「むむ。

んー、そうだな。よし、お父様が何とかしてやろう!(まあ、途中で飽きるだろう。飽きずとも、試験に落ちれば諦めもつく。やりたい様にさせてやるか) 」



 やったー!

 暗記には自信があるから、教えてさえもらえばイケる! 

 だって兄様が、僕の記憶力は兄姉の中で1番って言ってた。


 ヴォルフ兄様に、いくつか教材を借りようかな。憶えて損はないよね!





◇◆◇◆◇◆◇◆



 数日後、国王からの書簡を受け取ったアカデミーの学長カリマンは、震え上がっていた。



 「国王の末の王子に対する溺愛ぶりは有名な話だが、まさかここまでとは…。8歳児がアカデミーに入学など聞いた事がない。

本気で試験を受けさせる気だろうか」



 度を越した親バカと言えるが、王から直々の頼み事(めいれい)

「冗談ですよね? 」などと、聞いた日には首が飛ぶかもしれない。



「やるだけ…やるか。

問題は本来の飛び級入学試験より、少し易しめに。いや、8歳だ。だいぶ易しめに…いやまて。そもそも8歳児の知力が分からん。

問題文は普通で良いのか? 絵や図をたくさん入れた方が良いか? 」




 かくして、関わった大人達は、壮大な遊びに付き合わされたなと思いつつも、手は抜けないと真面目にやった結果。

 アカデミー史上初、8歳でしかも入学式よりたった1ヶ月遅れの新入生が誕生してしまった。




「ん? もう一度言ってくれるか、宰相」

「ですから、アカデミーから合格通知が届きました」

「いやいやいや、いくら私が頼んだとは言え、易し過ぎなんじゃないか?

まさかクイズとかじゃないだろうな」



 机に肘を立て、組んだ手に額を乗せて唸る国王に、宰相は答えた。



「私もそう思い確認しましたが、多少難易度は落ちているものの、学ぶ上では問題ないと判断致しました」

「正気か? 」

「陛下がいつも仰られているではありませんか。アベルト殿下は天才だと。

ここに証明されましたね。おめでとうございます」

「いやいや、君ね」

「正答率9割です」

「は? 」

「学長も驚かれてましたよ。

嫌がるかと思いきや、むしろ喜んでいました。天才が現れた、と」


「嘘だろう」




 第5王子アベルトのアカデミー入学の話は、瞬く間に国中に広まった。

 一部の貴族が「ならば私の息子も」と、意を唱えたが、アベルトが受けた試験を同様に受け、ことごとく落ちた事から、アカデミーに溢れた苦情は一気に静まった。

 


 そしてーーー…



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