表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする  作者: 豆もち。
モブ王子、悪役令嬢に出会う
1/15

トリステア王国の末っ子王子


   




 とある日、王妃主催の大きな茶会が開かれた。

 しかし、和やかな席と言うわけにはいかなかった。

何故なら、主役は12歳になった第1王子カルロ・トリステアだったからだ。

特別に子供同伴を許可すると銘打ったそれは、まさしく王子の婚約者を選ぶ為に催されたものであった。







 早朝から忙しなく使用人達が駆け回り、準備は着々と進んでいく。



「アベルト、どこだ、アベルト!」



 今日の主役であり、出席者の名前を最終チェックしていたはずのカルロは、末の王子を探し王宮内を練り歩いていた。

 すると、渡通路の柱の陰から幼い子供がパッと出て来る。



「兄様っ! どうしたの?」



 柔らかなプラチナブロンドの髪に、澄んだセレストブルーの瞳が特徴的な少年は、カルロが探していたアベルト本人だった。



「どうしたじゃない。今日の茶会に出席する様に母上に言われただろう?

支度をしていないのはお前だけだぞ」

「え~、どうしても出なきゃダメ?

だってロラン兄様達も出ないんでしょ」



 駆け寄り、ぷくっと頬を膨らませて文句を言うアベルトに、カルロは苦笑いしながら、優しく頭を撫でた。



「彼等は関係ないからね、仕方ないよ。

ほら母上達が待ってる。着替えに行こう」

「この格好じゃダメ?」

「んー、似合ってるが母上がアベルト用に作ったんだ」

「え~またぁ?!

この間の兄様の誕生日会で仕立てたばっかりじゃん!」

「着てやってくれ。母上はお前を着飾るのが大好きなんだ」

「ぶぅ。僕は人形じゃないのにっ」

「アベルトが可愛くて仕方ないんだよ。分かるだろう?」



 ムスッと不満気な顔をしながらも小さく頷くと、カルロに連れられ、王妃と侍女が待つ部屋へ急いだ。





◇◆◇◆◇◆◇◆



 正午から始まる茶会の会場に、次々と招待された貴族がやって来た。

 婚約者候補の令嬢はもちろん、王子に顔を覚えてもらうべく、10歳前後の令息も出席した。



「王妃様、カルロ殿下、アベルト殿下。この度はお呼び頂き、誠にありがとう存じます。

こちら、娘のレティアと息子のハルソフにございます」

「お初にお目にかかります、レティア・ヴォストラにございます」

「ご無沙汰しております、王妃様、カルロ殿下。

……初めまして、アベルト殿下。ハルソフと申します」



 挨拶をする為に出席者が列をなす中、始めに声をかけたのは、招待客の中で最も位の高いヴォストラ公爵夫人とその子供だった。



「まあ、ヴォストラ夫人、来てくれて嬉しいわ。

とても可愛らしいお嬢さんね」

「ええ。私が言うのもお恥ずかしいですが、良く出来た娘で、きっと将来は良き妻になりますわ」

「…あら夫人ったら、うふふ」

「ふふ。ではご挨拶はこの辺で失礼させて頂きます。また後ほど」

「ええ、楽しんでいって下さいな」



 しっかりと、後方に並ぶライバル達にまで聞こえる用に牽制し、夫人は満足そうに用意された席へ向かった。

その後も次々に同じ様な挨拶を貴族達と交わし、ついに茶会が始まった。



 王宮の庭に用意されたテーブルは、5つに分かれており、王妃と高位貴族の夫人達、その他の夫人達。令息も同じ様に分かれ、1番大きなテーブルにはカルロ、アベルト、そして令嬢達が座った。

 もはや微塵も隠す気が無い、あからさまな席順にカルロとアベルトは、何とも言えない表情を浮かべている。



「カルロ様は来月、王立アカデミー初等部に入学されますのよね?」

「ああ。ヴォストラ嬢もだろう」

「はいっ! 同じクラスになれるとよいのですが」

「さっき公爵夫人が褒めていたから、とても優秀なんだろうね。きっと同じクラスになるんじゃないかな」

「いやですわっ、お母様が先ほど言ったのは大袈裟ですのよ?

ですが、殿下にそう仰って頂けるなんて…夢の様ですわ!」



 カルロ達のテーブルは、完全にレティアとカルロだけの会話になってしまっていた。

カルロが他の令嬢に話を振ったり、アベルトが助け舟を出しても、全てレティアに戻ってしまうのだ。

 令嬢達も公爵令嬢の彼女に萎縮してしまい、口を閉ざした。

しかし、1人の勇気ある令嬢が、流れを変える。

 自分の話や流行りのドレス、劇などの話題を話すレティアに対し、令嬢は領地の話や特産物、王都の街並みの素晴らしさを語った。

それは、教育を受けるカルロにとって興味深く、また共感しやすい話題だった。

 末席に座る令嬢達は、やはりこの2人の一騎討ちだとコソコソと話す。

 一方、主導権を持っていかれたレティアは余裕の表情だった。

伯爵令嬢の頭の良さは有名で、勝てないと分かっていたからだ。

 レティアはニヤリと口角を上げ、自分の取り巻きの令嬢に目配せした。

するとその令嬢は、伯爵令嬢に新たな話題で話しかけた。



「隣国といえば、ロマーノ帝国とアドリア王国の間で少し衝突があったと聞きましたわ。ソフィア様はご存知で?」

「ええ。たしかアドリア王国の第2王子が帝国の皇女に傷を負わせたとか。

許せませんわよね。どんな理由があったか知りませんが、女性に怪我をさせるなんて!」


 その応えに、レティアはにんまり笑い、嗜める様に会話に参加する。



「(クスッ、かかった) まあ、ソフィア様ったら。決めつけはよくありませんわ。

アドリア王国の王子は優しい方だと聞きますもの。きっとやむに止まれない理由があったんですわ」



ーーザワザワ


 一部の令嬢が引き攣った顔でザワつき始める。

 アベルトは心配そうな表情で兄の顔を窺い、カルロは眉を顰めた。


「そうであっても、女性に手を上げるなど。しかもご自身の立場を考えてらっしゃらないわ。

王族が他国の皇女を害すればどうなるか、考える事も出来ないなんて、愚かだと思います」

「そう、とても正義感の強い方ですのね、貴方って。でも時にはそれが、誰かを傷付ける事にもなりますわよ(例えば、今さっきまで楽しく話していた殿下とか、ね)」

「それはどういうーーーー…」



ーーカチャン

 


「失礼、お茶が冷めてしまった様だ。新しいものを用意させよう」



 マナー違反ではあるが、わざと乱暴にカップを置き、カルロは話を遮った。



「そうだ、兄様。昨日教えてくれた本、とっても面白かったよ。

皆さんにも紹介してあげたら?」

「ああそうだな」

「まあっ、どんなご本ですの?

レティアに教えて下さいまし、殿下」

「……あ、私も気になりますわ」



 アベルトの少々無理矢理な話題転換にカルロは乗った。

 彼は、にこやかに対応し続けたものの、先程までの楽しそうだった伯爵令嬢との会話が嘘の様に、形式上の対応に戻ってしまった。

そして、茶会が終わるまで彼女の方を向かなかった。









 王妃と2人の王子が退出した事で、招待客は帰り始める者や、知人と立ち話をする者で疎らになった。

 


 その中で、伯爵令嬢はカルロの突然変化した態度にショックを受けていた。

レティアは彼女に近付いて、「お馬鹿さんね」と、笑って見せた。



「えっ?」

「ソフィア様はカルロ殿下のご気分を害してしまったのよ」

「いったいどうして……」

「あら、決まってるじゃない?

貴方が殿下のご友人を否定したからよ。ただの伯爵家の娘が、他国の王子を非難するなんてね。

私だったら、恐ろしくて出来ませんわ」

「ご友人ーー?」

「クスクス。ええ、そうよ。あまり知られていないけどね。

ご存知だった? 皇女様はね、アドリア王国の民を顔が気に入らなかった、という理由だけで殺してしまったの。

まあ、帝国で皇族は神の子孫だと考えられているから、皇女様も悪気はなかったんでしょう」

「嘘っ、そんな理由があったなんて。

私、なんて事をっ!!」



 顔面蒼白になり、ガタガタと震える令嬢にレティアとその取り巻き達は、愉快そうに笑った。

しかし、令嬢はそこで気付く。

レティアの取り巻きの中に、件の話題を自分に振った者が居るではないか。



「まさか……わざと?」

「あら、何がですの。

それにしても不便ですわねぇ。隣国に情報網がないだなんて。

でも、今朝はこの話題で持ち切りでしたのに。おかしいですわ」

「レティア様、仕方ありませんわ。ソフィア様は田舎からお越しになったんですもの。時差がありますのよ」

「そうでした。遠くから来られて大変でしたでしょ?

今日は王都の観光でもされるのかしら。宜しければ、馴染みの店をご紹介しましょうか」

「まあっ、さすがレティア様です!

なんてお優しいのかしらっ。ーーでも、公爵家の馴染みの店なんて大丈夫でしょうか。

レティア様にご迷惑がかからなければ良いのですけど」

「いやだわ、ソフィア様に失礼よ。彼女だって一応は伯爵家の生まれなんだから」



 令嬢は、ぎゅっと唇を噛みしめて、涙を堪えた。

 自国の王子を傷つけてしまった事。家を馬鹿にされた事。

そして、はじめから標的にされていたであろう事。その全てが悔しかった。



「お気遣い、ありがとうございます。

ですが今日はこのまま宿で休みます。実は昨晩到着するはずが、道中で足止めにあってしまって……。

今朝着いたばかりなんです」

「まあ、それはお疲れでしたわね。

()()()()()()()()()()()道が封鎖されていたのでしょう? 検問で」

「何故知って…?!」

「あら、お可哀想に。きっと昨晩到着されてたら、宿でアドリア国とロマーノ帝国のお話を知れたでしょうにっ。

ねぇ? レティア様」

「クスクス、あまり言ったら可哀想よ。

彼女だって悪気はなかったんだから。お聞きになったでしょ? とても正義感に溢れるお方なのよ」

「あなたがっ! あなたが手を回したのねっ!!」



 キッと真正面からレティアを睨み付けて言う彼女は、やはり強い心の持ち主なのだろう。

普通の令嬢であれば、公爵家に恐れをなして固まってしまうはずだ。

さらに彼女は、まだ13歳。いや、だからこそレティアに目を付けられたのだ。


「なんて失礼な方なの!? レティア様に向かって!」

「落ち着きなさい、貴方達。

お疲れなのよ、許して差し上げて。

そろそろ私達も帰りましょう。

ーーーーあ、そうそう。帰りもお気をつけになって。今度こそ、盗賊に出会わないと良いわね」


「あっ、ああ゛ーーーっ!!!!」



 突然、膝から崩れた令嬢に、周囲の人々は「なんだ、なんだ」と、不思議そうにしている。

娘の光景が視界に入った伯爵夫人は慌てて駆け寄り、その身体を支えたのだった。





「アベルト、何を見てるんだ?

気になる子でもいたのか?」

「ん~、いや、何でもないよ。兄様。ほら、母様が待ってるよ。行かなきゃっ。


ーーーーうわぁ。女の子って、性格悪っ。

アレは兄様には相応しくないな」

「お~い、アベルトも早く来い」

「うん、今行くよ!」






 こうして、アベルト・トリステアは最悪の形でレティア・ヴォストラに出会った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ