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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第1章 転生栽判は大騒ぎ?!
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7.チート天才に最終判決が……その前に星座の栽判官にいろいろ訊かれる

「その辺でいいから、被告側の意見を聴きましょう」


 太審院院長の重低音の声がどこからともなく響く。ドラゴン? いや違う。九頭龍である。川を氾濫させたり、日本武尊(やまとたけるのみこと)に討ち果たされたりといろんな伝説があるが、このゆるキャラ院長は九つもある頭がゆらんゆらんするのに難儀しながら言った。


「被告はどっかの世界の片隅でひっそり、のんびり暮らしたいだけなんだぎゃ。だけども、それがかえって人様の迷惑になるっちうゅんだったら、それ相応の役目を果たすつもりなんだぎゃ。そこんとこ私利私欲はねえってことをわかってもらいたいだぎゃ」

「被告、他にありますか?」

「ありません」


 言いたいことはツバサ便護士も被告本人も山ほどあるが、重要な案件であればあるほど何か言って得になることがないのはどこの世界でも変わらない。


「では、質疑応答に入ります。質問のある栽判官は挙手をしてください」


 綺麗な羽の孔雀の副院長が言う。羽が綺麗な孔雀は雄やろが!というツッコミはあると思うが、何度も言うようにこの世界の住人は基本ゆるキャラなんで、その辺は融通無碍である。彼女が司会役である。


「はい」

「水瓶座さん、どうぞ」

「転生先の世界について、希望はありますか?」

「それほどいろいろな世界を知っているわけではないので、お任せしたいのですが、ぼくの希望が叶えられやすいところがいいです」

「わかりました」


 ひっそり、のんびりは繰り返さない方がいいと思って抽象的に言う。水瓶座もにこにこしてそれ以上訊かない。


「いいか?」

「獅子座さん、どうぞ」

「前世ではいろんな研究をしたみたいだけど、一等自慢したいのは?」

「うーん、それは難しいです。後の人たちの評価に任せたいと思いますし。……いや、核兵器の開発は後になっていろいろ批判されてますけど、ぼくはぼくで言いたいこともあるし。うーん」

「いいよ。わかった」


 尊大で知られる獅子座も彼の飾らない性格に好感を抱いたようだ。


「はい」

「双子座さん、どうぞ」

「『BLが嫌いな女子はいない』という名言があるけどぉ、どう思ぅ?」

「女子ってことはBLを観察又は鑑賞するのが好きだということですね。それは様々なアプローチが出来そうな興味深い問題なので宿題にさせてください」

「きゃ! うれしいですぅ。よろしくお願いしますぅ。あとアンケートに答えてもらっていいですかぁ?」

「こほん、ここは法廷であって宣伝活動の場ではないので」


「はい」

「牡羊座さん、どうぞ」

「さっきの誰やらの質問からもわかるように女性系の神とその眷属には大きな問題があると思わんかね?」

「わたしが神とその眷属に対して何事かを言うのは計り知れないほど不遜なことだと思料します。また女性系の概念すらまだ理解できていません」

 彼の丁寧な、聞きようによってはけんもほろろな答えを聞いて、牡羊座は黙って座った。


 もう質問はないのだろうか。このまま終わってくれればまずまずだ。祈るような気持ちでツバサ便護士は十五人の栽判官を睨みつける。前にも言及したようにツバサの見た目はめちゃめちゃ怖い。栽判官の多くは下を向いてしまった。おしっこちびるやん。そんな感慨を催した者も少なくなかった。


「まだいいか?」

「いいですよ。蛇遣座さん」


 彼は龍をも操れると噂される横笛を握って、フードから少しだけ目を見せて語り始める。


「おれはこのチートな天才を院長室辺りで相談されているような常識的な案で片づけるのは、なんか気に食わないんだ。別に酷い目に遭わせろとか、とんでもない試練を与えろって言うわけじゃない。しかしだ、おれたちの長い長い寿命の中でも再び巡り会えるかどうかわかんねえような"才能"には、何か、おれたちからの心ばかりの贈り物があってもいいんじゃないか?」

「おっしゃってることはよくわかります。しかし、これ以上、彼の価値を高めるようなことは――」


 思わず声を挙げてしまったリン賢察官を首席賢察官が制した。


「それはそうかもしれない。いい具体案が浮かばないんだ」


 蛇遣座もそう言って座った。


「では、いいですか? 別室で協議に入りましょう。今日、結審で構いませんか?」


 院長が地響きをさせながら訊くとさすがに威厳がある。


「然るべく」とリン賢察官。

「異議ありません」とツバサ便護士。

「では、これにて結審でし。次回は判決でし」


 九つの首が代わる代わるしゃべっているのだが、順番を待っていた七つ目がお茶目なようだ。


 判決の日がやって来た。


「ここまで長かっただぎゃ。同時にあっという間だぎゃ」

「本当にお世話になりました。判決が下されると直ちに執行なんですよね?」

「そうだぎゃ。お別れだぎゃ」


 リン賢察官が被告人控室に顔を見せる。


「どうですか? 睡眠は十分取れてますか?」

「ええ、ここんところはぐっすり眠れてます」

「そうですよね。判決のこと、転生してからのこと、そんなのを思い悩んでも仕方ないですからね」

「リン賢察官にも本当にお世話になって、一緒にプロフィールを書いたのが懐かしいです」

「わたしの職歴の中でもいちばん輝かしい事案なのは間違いないです。……ちょっと早いですが、もうお会いできないと思うので、お元気で!」


 闘技場じゃなくて大法廷に入る。空が眩しいけれど、黒い雲が多い。頻りに雷が空を切り裂くように走る。遅れて大地が鳴動する。――九頭竜の太審院院長の降臨だ。


 副院長が最初に口を開く。今日の副院長の羽は一段と綺麗だと被告は思う。ここでの生活がもうすぐ終わろうとしているせいで感傷的になっているのかなと。


「では、院長、判決をお願いします」

「主文、被告はZ世界で初級踊り子にする。その"才能"は前世の〇.五%に折り畳まれ、緊急時には九十四%まで展開可能。天職はなし。なお、被告から取り上げた"才能"の六%はZ世界の大規模復興工事と難民救済に使われることとする」


 ツバサ便護士もリン賢察官も、傍聴席にいた一審のケンちゃん栽判長も二審のタワー栽判長も、法廷全員が、

「ああー、そんな!」とか、

「踊り子って女?」とか、

「天職なしって?」とか、

「公共事業に使っていいのかよ!」といったどよめきが起こった。


「あー、静粛に。特例だけど、補足します。この判決は意外だと思う人が多いかもしれないけど、被告のためを思ってのものだからそこんとこよろしく。また、これには我々からの贈り物が含まれています。被告には『記憶の滲み出し』がある可能性があるので言いました。以上」


 記憶の滲み出しとは強い才能などの副産物として、前世の記憶が表れてくることを言う。前世の記憶が現世の記憶を覆うわけではないのでこのように呼ぶ。それが徐々に表れるか、突然なのか、全部なのか一部なのかなどはその人によるようで、全く滲み出しがない場合もある。


「被告何かありますか?」


 視野がぼやけて来る。転生が始まっているのだろう。


「あの、踊り子としての名前を付けてもらえませんか? かわいいのを」

「ウタでどうだ? 歌いながら踊るのだろう?」

「ありがと……」


 言い終わらないうちにヴンッ!という鈍い音と共に被告はウタとなって、地獄と噂されるZ世界に転生した。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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