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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第1章 転生栽判は大騒ぎ?!
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5.チート天才は深く考える

 意気消沈している被告と便護人のところに少し遠慮がちに近づいて来る者がいる。あの賢察官だ。何の用だ?という目を向ける便護人にあえて言う。


「あなたとしてはあの和解案にどういう不満があるんですか?」

「依頼人と独立したおでの意見などねえぎゃ」

「用心されるのは無理もありませんが、わたしはそれなり被告のことを知っているつもりですし、できる限り彼の意志を尊重した結果に持って行くのが多世界にとってもいいと思っているんですよ」

「使法取引だぎゃ? なら後出しじゃんけんさせてもらうだぎゃ」

「……いいでしょう。わたしが受任されているのは和解案の内容じゃありません。太審院でどう振る舞うおつもりかということです。太審院判決に従うのか、どこまでも自分の意志を貫くのか、そういう問題です」

「太審院に上告するか否か、上告して判決ということになるか否か、ましてやその判決の内容も見えないだぎゃに被告の意志がどうとか、おめえの委任者はずいぶんせっかちだぎゃ」

「事態は急を要するのです。下手をすると多世界全部が――」

「ぼくが最後まで判決に不服であれば"魂"の死すなわち"永遠の無"に落ちるしかなかったんですよね? それと多世界の運命が関係してるわけですか」


 突然、被告が口を開く。便護士も賢察官もそんな恐ろしいことを口にしないでくれと思っている。神とその眷属だって"永遠の無"は怖いんだ。超越的存在であればこそ自分の存在の根拠である多世界がどうにかなるなんて考えたくもない。


「おめえも若いのにてえへんなお使いをさせられたもんだぎゃ」

「全くです。そんなに真っ暗闇が怖いんだったら被告の言うとおりにしたらいいじゃないですかって言ってやりましたよ」

「あはは、やるじゃねえだぎゃ。おめえなんて名だぎゃ? きゃつらなんて答えただぎゃ?」

「リンです。『法とか建て前とかあるじゃん? そういうの前例にするの良くないしさ』って言いましたね」

「底抜けの阿呆だぎゃ。法も前例もないようにしてやろうだぎゃ? なあ?」


 出会った当初はあんなことを言っていたのに、ツバサ便護士は自分と一緒に"永遠の無"に落ちてもいいと思っているのがわかる。リン賢察官も……。前世では親切にしてくれた人はたくさんいたけれど、ここまで欲得抜きで考えてくれる人はいなかった。その理由はわからないが、わかる必要もない。自分が為すべきことが明らかになったからそれでいい。


「わかりました。最終的には太審院判決に従います。ただ太審院栽判官の前で思うところを申し述べたいと思います」


 その瞬間、便護士と賢察官の心は喜びで満たされた。今の被告の一言で救われたのだ! もう少し若ければ、彼らが女性系であれば、抱き合っていただろう。この世界は、この生はなんて美しいのだろう。


 見よ! どこまでも青い空の穹窿が安堵で打ち震えている。その周囲では天使の姿をしたゆるキャラが踊り狂っている。凪いでいた深い瑠璃色の海がむせび泣くように白く細かい波を立ててざわめき出した。……


 判決言い渡しの当日、さりげなく被告の意向に接して、この上なく上機嫌のタワー栽判長は少々噛み気味に判決文を読み上げた。


「主文、被告の上訴を退けるワー。ひ、被告は自らの"才能"を世界のために使おうとせず、え、えっと、じ、自分勝手じゃん。そういうのいけないと思いますワー! 以上!」


 ぐだぐだだが、別に問題はない。法廷にいる者すべてが筋書を知っている。予定調和が果たされたと。あの天上の音楽が告げてくれた。本当の終末はずっと先に延ばされたと。


「いよいよだぎゃ。リン、なんか情報ないだぎゃ?」

「太審院は安心しきってますよ。この世界では嘘は通用しませんからね。特に被告のような人が嘘を吐けば場に歪みが生じます」

「場? その場の空気が悪くなるって時の場だぎゃ?」

「いえ、重力場とかで言う場です」

「魔法力によるテンソル場ですか?」

「そのとおりです。よくわかりましたね」

「ごく最近になって未知の力を感じるようになったので、魔法力が働いて時空を歪めているのかなと」

「おだを置いてけ堀にしねえでくれだぎゃ。こいつはまだ転生もしてないのに魔法力を出してるって言うのだぎゃ?」

「そういうことになりますね」

「いいんだぎゃ?」

「いいも悪いも出ちゃってるものは仕方ないでしょ。ご本人は戸惑ってるようで、使おうとはしてないようですし」


 この会話でいくつかのことがわかる。ツバサ便護士は魔法力を持っていないし、感度もほとんどない。リン賢察官は程度はともかく魔法力にかなりの感度があり、したがって使うこともできるらしい。もっと素朴な話だが、リンは被告と太審院との連絡調整役のようなことをしている。


 被告は考えている。それがしばらく続く。え? 二人は息を呑む。やめてくれ。最後の審判ボタンがどこかの地下基地にあるという都市伝説がある。被告が深く考えるとそのボタンがぽちっと押される幻想に駆られる。――被告が思いついたように目を輝かす。


「お腹空きました。排骨担々麵(パーコータンタンメン)と春巻きが食べたいです!」


 二人は天界の住人に配布されているタブレットで早速、検索し始めた。


「おでは青椒肉絲丼(チンジャオロースどん)と餃子だぎゃ」

「わたしは酢豚定食と蒸し鶏です。賢察庁に領収書回せますから、遠慮なく食べましょう」


 三人は便護士会館を出て、談笑しながら広い公園を横切って行く。サクラ型の樹木の花が満開である。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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