44.ご飯がないならお団子を食べればいいじゃない
一行は念願の麻績寺市に着いたというのにふらふらで、歩くのもやっとだった。
「茶店を見つけるたびに団子を食べてちゃ路銀がなくなるのも当然だよ。計画性ってものがないんだから」
ヒュウガが怒りをぶつける。
「とりあえずこの木陰で休みましょう。――でも、ヒュウガさんだって食べてたじゃないですか。なんだっけ、饅頭じゃなくて」
キッコ先輩が言い返す。
「おやきです。あれは食事です」
「餡子が入ってるからおやつのような」
「わたしが好きなのはお漬物が入ったのですから、食事です」
得意げに鼻をひくひくさせる。アミねえさんが横合いから口を挟む。
「お米を搗いて棒にまとめたのなら食事って感じですが」
「五平餅ですね。あれも好きです。クルミ味噌が焦げたのがたまりません」
「もお! いい加減にしてください! 余計にお腹が空いちゃうじゃないですか!」
ふだんは冷静なリンが言葉を荒げる。お腹が空くと機嫌が悪くなるのはまだまだ子どもなのかもしれない。よせばいいのにウタが調子を合わせる。
「そうですよぉ。みんな落ち着いてください」
「両手に団子を持ってて、何が落ち着いてだぎゃ。半分はウタが食べたんだぎゃ」
「済んだことを言ってもしかたないですー。これからどうするかを考えるのが大事ですー」
「そのとおりです。……大げさに言えばこれは財政再建です」
リンが気を取り直して言う。
「古今東西、財政再建策には二つしかありません。入りを増やし、出を制する、これです」
「出を制するはウタを始め食べる量を減らすってことだろ? それはわかるが、入りを増やすってどうするんだ? 踊りでも見せて、おひねりを稼ぐか?」
キッコ先輩が日向に出て屈伸運動をしながら質問する。やる気満々のようだ。
「踊りは駄目です。理由はいくつかあります。道代表者決定戦への参加者が続々と集まって来ている中で踊りを見せるのは不利です」
なるほど、言われてみればそのとおりだ。
「それに代表者決定戦は単に優劣を競うものではありません。格の高い麻績寺の秘仏への奉納という面が強いです。日銭稼ぎをした者たちの踊りなど、仏様は嘉してくれないと考える審査員は少なくないでしょう」
「わかりました。では、どうしたらいいんでしょうか?」
アミねえさんが困惑した表情で尋ねる。
「踊り以外の大道芸はどうでしょうか? ぼくとツバサさんとウタちゃんで初級魔法を見せたり、ツバサさんが怪力を見せるんです」
「あんたたちはまだ子どもなんだよ! それを見世物にするなんて。そんなおあしでおまんまが食べれるかって」
ヒュウガが奥歯の神経に触れられたように叫ぶ。
「そのとおりだ。だいいち魔法を使うと何か波が増して寄せて来ている気がするって、リンが言ってたじゃないか」
キッコ先輩は言う。回復した後にリンはそう観察している。神獣らとの戦いの後も何回も困難に遭遇した。その敵はウタたちの戦いぶりを学習し、強化しているように思えたのだ。
「はい、魔法に感応して、こんなににぎやかなまちで襲われたら、予測もつかない事態になりかねません」
「リンの悪い癖だぎゃ。わかりきったことを回りくどく言うのは嫌味だぎゃ。おでが曲芸をするしかないだぎゃ」
それしかないよなぁ、でも顔が怖すぎるからお面でもかぶせるかな、そんなでかいのあるかななどと一同が考えているところに、鳥打帽にジャケットという時代考証を無視した男が近づいてきた。
「あの、ちょっと取材させていただいていいですか?」
「ダメダメ、事務所を通して」
「そんなつれないことを。古い付き合いじゃないですか」
「あ! なんか薄っすら記憶にある! 新闇記者さん?」
そうなのである。第二話において「いきなりボケかいっ! そんなんぼんやりやないやろ!」と栽判の傍聴席からキレ味の悪い突っ込みをした新闇記者である。なぜ「聞」でなく「闇」なのかは言わぬが花であり、あの時もやさしい筆者は触れなかったのである。
「そうだよ。わざわざこんな辺境世界まで出張して来たんだよ。総務の了承取るの大変だったんだよ」
「おでに断りもなく、ウタに接触していいと思ってるんだぎゃ?」
「ウタさんはもう被告じゃないんだから、便護士の了解は要らないん……ごめんなさい! 顔を近づけないで! 原稿は見せますから許してください!」
「今どき新闇なんて時代遅れの媒体でしょ。役所や大企業はあること、ないこと書かれたくないから紙のを定期購読してるけど」
リンは冷たく言い放つ。便護士は社会問題として取り上げて欲しいし、賢察庁は捜査がかく乱されるのでマスコミに身構えるといった構図がある。なお、この小説はいろいろ誤字が多いなと思われる向きがあろうが、栽判だの便護士だの賢察庁だのが予測変換で出て来るPCなどない。その理由もこのお話の最初の方にちゃんと書いてあるので、お読みいただきたい。
「新闇は永遠に不滅なんですぅ。傘下の球団と同じなんですぅ。紙の新闇は生ゴミを包むのにとってもいいんですぅ」
その子どもじみた反論にその場にいた全員が天啓を得たように理解した。
「わーったよ。生ゴミさん、取材させてあげるから、なんか食べさせて」
「生ゴミは中身です。何が食べたいの?」
「お団……」
「ご飯です! ちゃんとした! 馬刺しをおかずに!」
「そこは名物のお蕎麦だろ! 二八もいいし、十割も!」
「わたしは引き続きおやきでも」
「焼いたりんごをさくさくの皮で包んだものがいいですね」
「おでは飴なのにねちゃねちゃしたのがいいだぎゃ」
もうわあわあ言うております。




