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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
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41.科学技術の世界って何かとめんどくさい

 母船から蜂の巣から蜂が飛び出してくるように独り乗りの船がわらわら出て来た。やはり船も乗員も虹色に輝いている。ウタたちを取り囲み、警戒している。いつの世でも、どの国でも制圧しようとする者が採る陣形はどこか似ている。それは目立たぬように被制圧者の足元に狙いを定めている。


「やー、それ! どっこいしょ! やんとなっと! どした、どしたー!」


 ウタたちはそんな圧迫を気にすることもなく、踊っている。虹色人間の大群がじりじりと間合いを詰めて来る。一隻だけ複座式の船があって、部隊長のようだ。


「確保開始ー。左右から包み込むようにー。中央もねー」


 その無造作な指示と攻め方は魔法と踊りが何たるかを理解しようともしていないようだった。ついさっき味方が風魔法でやられたことも突風による被害とでも思っているのだろう。


 魔法は彼らの科学技術にとって、児戯に等しいものであり、踊りは彼らの合理的判断・行動にとって、無意味なものであったのだ。


 しかし、それはウタたちにとっても同じで、科学技術も武器も鈍重なだけだった。


「はい、熱いよぉ!」


 ボオォォ!


「うわっちっちー!」


 炎魔法は虹人間の周りだけを襲う。熱は封じ込められ、伝わらない。それが踊る意味であり、効果だった。


「お次、冷やっこいからね!」


 まるでナギサ酒場で料理を運ぶ時のように生き生きとしている。


 ビシャッ! カチーン!


「冷たい! 凍るぅ!」


 氷魔法も周囲の温度を全く変えない。踊りの合いの手を変えるだけのことだった。


 そんなの物理法則に反していると詰る者は、その問いを発した瞬間に恥じ入るだろう。魔法は元々物理法則に反しているんじゃないのか? 


 ウタが極端な温度差を伴う魔法を使う際には、仲間たちと踊ることによって周囲から遮断する効果を発していたから、踊りを補足的で防御的な魔法と見ることもできる。そうしたものすらほとんど要らない力魔法はやはり便利なのだった。


「いっくよー! せーの!」


 ぐしゃ。ぶちっ!


「つ、潰される!」


 母船から降りて来た船は次々とウタの魔法の餌食になってしまった。


「レ、レールガンを使うんだ!」


 もっとこなれた軍事技術はいくらでもあると思うが、部隊長は少年期からの病に罹っていたのかそう叫んでしまった。ワッカを積み重ねた大きな碍子を載せた船が揺れながら登場した。


 ヴイン、ヴー。


 強い電力をチャージしているようだ。


「こういうのには雷魔法でしょ」


 ビリッ! ビリリッ! ビリッー!

 ドッカーン! バリ、バリー!


 ローレンツ力だか何だかを発揮する前にくるくる回りながら落ちていった。


「あーあ。だからロマン兵器は駄目だって言ってるのに」

「わかったわよ! 核よ! 戦術核を使うしかないわよ!」

「あのぉ」

「何よ!」

「核は環境を汚すんで、原則使用禁止です」

「何言ってんのよ! 原則って言うんだから例外があるんでしょ?」

「あるにはありますが手続きが」

「手続きが何よ! あんたたちがやんなさいよ」

「どんなに急いでも二週間は掛かります」

「間に合わないじゃないの! 二週間も待ってたら全滅しちゃうわ!」

「正にその話で。戦力の半数が失われないと申請もできません」


 部隊長はがっくりと力を落とした。科学技術は組織によって運用される。そして、組織とはペーパーワークと稟議制からなる官僚機構に他ならない。部隊長の世界は物理的な紙による文書を実際の人間が判断するという段階ではないが、だからといって一世代前より決裁が早くなったという話も聞かない。


「くっそぉぉ! ふっざっけんじゃないわよぉぉ!」


 部隊長が何に対してそんなに怒ったのかは本人にもわからないかもしれない。


「うるさいだぎゃ! 人の上に立つ者が我を失ってはいけないだぎゃ」


 ぺしっ!


 素早く巨大化したツバサが踊りの輪から外れ、虫を叩いた時のように部隊長の船を叩き落とした。


 無茶を言う迷惑な人でも部隊長は部隊長、やられたとあっては復讐するのが部下の務めとばかりに闇雲に小銃弾や対戦車ロケット弾を撃ち込んで来る。


「いでえだぎゃ! 鬱陶しいだぎゃ!」

「ツバサさんをいぢめるなぁぁ!」


 ズンッ!


 数が減っていたとはいえ、まだまだ多くの船が宙に浮いていたのだが、ウタの魔法により乗員たちはいきなり重い鬱症状を呈した。押し込めていた黒い記憶が引きずり出され、心を苛む。


「や、やめてくれ! 悪かった! おれが悪かったぁ!」

「もう嫌だ! 死んだ方がましだ! 殺してくれ!」

「う……ううっ」


 かつてクゾウが発した闇魔法を更に強化したもので、声も挙げられず、身体も動かせなくなった者も少なくない。科学技術の恩恵を受け、組織に囲まれて生きている者ほど及ぼす効果は甚大かも知れない。


 踊り子たちは闇に捕われないために踊る。


「はぁぁん、この世は、ちょいと! 悩みも、涙も、ほどほどに! 今日も、明日も、あさっても! 生きて行くには、ご陽気に! ちょいとな! ……」


 人の脳に直接作用する魔法なだけに、それを妨げるための踊りにも熱が入る。ツバサも巨大化したまま踊りの輪に戻る。船の攻撃は止んでいるが、闇魔法の効果が薄い者を中心に再編成しているようだ。


 近づいて来る者がいる。ドシーン、ドシーン。大きい。夜空にほのかに赤くて細い光が浮かび上がる。ベトとダレトだ。雷魔法三連発で死んだんじゃなかったのか。みなが一斉にラメドを見る。


「あたしは知らないよ! ベトとダレトが生きてたなんて、知らないって、信じておくれ」


 その言葉に嘘はなさそうだが、それだけに始末が悪い。この強力なレーザー砲台を誰が操っているんだ?



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