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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
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39.真夜中を待つ

 この世界は他の世界への進出あるいは侵略なんて考えもしていない。それどころか他の世界の存在すら知らない。魔法の研究は一部の寺社において細々と行われているが、それもあくまで自分の内面を磨き、鍛えるためのもので、現実世界を知るためという動機は希薄で、ましてや変革しようという発想がない。


 神獣を操り、ウタとリンの魔法を使えなくしたラメドの背後にはもっと大きな何かがいるのだろう。


 ツンと目と鼻を突く刺激臭がする。瘴気と思えたものは化学物質のようだ。


「みんな止まるだぎゃ。ここの空気を吸ってはならないだぎゃ」


 袖を巻いて口につけたりするが、くらくらしてくる。目の前に異様な姿をした巫女装束の者が十人余り並んでいる。全員が眼まで覆ったガスマスクをしている。


「烏天狗の類か!」


 ザインが叫ぶ。確かにそう見える。


「体格から女性(にょしょう)のようだが、各々ゆめゆめ油断するな!」


 コフの見立ても正しい。不尽神社の巫女が出張って来たと考えるのが順当のようだ。


 シューコー、シューコー、シューコー。


 一人でも不気味な排気音が十人以上だから、何とも言えない。


「ここは一時退散するしかないだぎゃ」


 空気を吸わないよう注意しながらツバサはみんなに言う。


「待ってください」


 巫女の一人がくぐもった声で言う。


「待ってたら死ぬだぎゃ」

「大丈夫です。風が吹いてきました」


 巫女たちは次々とマスクを外した。


「わたしたちは有毒な瘴気で脅されて、悪事に荷担させられていたんです」

「おまえたちを脅してたのは誰だぎゃ?」


 ツバサは警戒を解かずに問い詰めた。


「……わかりません」

「わからないということはないだぎゃ」

「それがあるんです。すべての命令はラメドという人から伝えられるので」

「じゃあ、ラメドが主犯だぎゃ、中心人物だぎゃ」


 そこにヒュウガが割って入った。


「まあまあ、ツバサさん。もう少し巫女さんの話を聞きましょう。あなたが言いたいのはラメドも操られているということですか?」

「はい、そのとおりです。ラメドたちはいろいろ悪いことをしていますが、自分たちで考えてやっているわけではないんです」

「だとすると張本人は?」

「それはわからないんです」


 コフがため息をついて言う。


「なら、ラメドをやっつけるか、締め上げるかしかないんじゃないか?」

「それは駄目です。今はラメドにまとまってるものが散らばってしまう危険性があります」


 指揮命令系統であり、攻撃の最前線であるラメドを下手に潰すとかえって厄介なことになるというのはわからないではない。


「だったらどうしたらいいんだぎゃ」

「真夜中にラメドが(ぬし)と交信するはずです。その時を狙うのです」


 ツバサはそういう念の入ったやり方が不得手だ。正直言ってうまくやれる自信がない。


「リンがいればよかったんだぎゃ」

「んなこたわかってるよ! あんたしかいないから頼ってるんだよ!」


 ヒュウガがめずらしく荒々しい言葉でキレる。アミねえさんもキッコ先輩も意外な一面を見た気がする。リンのことでつらいのはよくわかるから肩を抱いて慰める。


「まだ時間があります。お食事を準備しますので、こちらの方へ」


 そう言われると空腹を覚える。本殿の横の大きな建物に案内される。旅館の食事ほどではないが、神社とは思えないような二の膳まで出て来る。無口な食事が終わる少し前に宮司が姿を見せる。


「そのままで聞いてください。しばらく前からあやしい者どもが境内に巣くっております。それを退治することができないだけでなく、皆様方に多大の迷惑を掛けていることは無念の極みです。どうかお助けください。お願いします」


 不尽神社の宮司と言えば近郷近在で名士の一人だ。その人が旅の踊り子などに頭を下げるなど通常では考えられない。その率直な姿には心を動かされざるを得なかった。促されてコフが答える。


「わたしらにとって不尽神社は心の拠り所、掛け替えのない宝です。それを守るために立ち上がるのは生まれ育った者たちとしては当然のことです。しかし、その護り手をまだ年端も行かない子どもたちが担ってくれ、その意志を……」


 コフはそこで感極まって泣き崩れてしまった。


「情けないところを……すみません」

「気にすることはないんだぎゃ。悪い奴らと戦い、やっつけるほど楽しいことはないんだぎゃ。それが魔法とか舞踏とかの醍醐味だぎゃ」

「おっ! ツバサ、いいこと言った!」


 キッコ先輩が冷やかし半分で褒めるとヒュウガが続く。


「そうそうそのとおり! 湿っぽいのなしでやっちゃいましょう」


 三人の踊り子は踊ろうとし、楽器を演奏しようとしたが、どうしても身体がいうことを聞かなかった。重い心が引き留めていたのだった。


 真夜中になった。本殿と例の滝のちょうど中間地点に一行はいた。そこに不吉な気配が漂っていたからだ。


「ここで本当にいいのかよ」

「しぃっ! なんか変だよ」


 何も聞こえないと『さあー』とか『じぃー』といったいわゆる耳鳴が聞こえることがある。しかし、屋外では深夜であってもいろいろな音が聞こえるので、そういうことがないのが通常だ。だのに耳鳴が聞こえてしまう。


 この周辺の空間自体が何らかの作用を施されているのだろうか。いよいよお出でなすったってところだろう。


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