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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
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36.光魔法のいちばん単純で強力な使い方

 大鹿と大猪が怯えて森の奥へ逃げて行く。ラメドが叫ぶ。


「おまえが考えなしにぶっぱなすから!」

「ちっぃぃ! 待て、こらぁ!」

「その前にあたしたちの相手してね」


 ひゅうぅん!


 風魔法でギメルを吹き飛ばす。普通の人間なら助からない高さまで持ち上げて落とす。あえて力魔法を使わなかったのは、まだ一味がいるからだろうか。


「なんだこりゃ。ただの風魔法じゃないだろ?」


 くるくると回って、きれいに着地する。


「おー!、すばらしい!」


 敵味方関係なく、拍手が起きる。


「あ、いやどうも」


 ギメルは照れている。


「じゃ、ないだろ! 早く獣どもを追え!」

「は、はい」


 今度はラメドが命令している。この二人の関係はよくわからない。ギメルが鹿と猪の消えた方へ駆けて行く。まだ敵がいるはずだから、この場からいなくなるのは助かる。


「どうやって持ち上げられたい?」


 ウタがラメドにえぐい脅し方をする。


「どんなんでも嫌だよ。ベト!、ダレト! お嬢ちゃんを連れて出て来な!」


 靄などないのに靄が晴れるように人影が現れた。幻術だろうか。


 二人の名前を呼んだのに出て来たのは、毛むくじゃらの大男一人だった。――ただ頭が二つあった。そう思って肉付きや骨格を推し量ると、二人の男が混じり合ったようにも見える。


 その異形の者が花束のように娘を抱いている。娘は眠っている。


「レシュ! 大丈夫か?!」


 ザインが叫びながら駆け寄る。その三歩手前の枯草が、向かって右側の頭から放たれた赤いレーザーで焼かれる。


 シュシュシュッ!


「うわっち! くそっ!」


 思わず後ずさりする。


『左側の頭の眼で方向や距離を測定し、右側ので光を放ってるんだ』


 リンがウタに語り掛ける。


『左? 右? どっちがどっちだっけ』


 左右がわからないのか。小さい子どもにはよくあることだ。十三歳だけど。


『わかるように教えて』

『えっと、赤い光が来る方が右!』


 左の眼がこっちを向いた。リンもウタも跳躍して逃げる。大きな木の枝から見下ろす。


 ヴシュシュシュ! 


 木が次々と焼き倒されていく。かなり強いエネルギーだ。


「ベト、こっちだよ! この木の上だ!」


 ザインを振り切ったのか、ラメドが走って足元に来る。


 ベト(たぶん)がこっちを向いて、その照準に合わせてダレト(たぶん)がこちらを向こうとした時だった。


 パアァッ!


 光魔法のいちばん単純で強力な使い方をウタは知っていた。目くらまし。光を発しているというよりヒトの視覚神経に直接信号を送り込んでいるので、目をつぶっても魔法は通る。


 対象を絞り込んでいない無差別な魔法だからベトやラメドだけでなく、リンやザインもしばらくは視界が白く輝いて何も見えない。ベトとダレトは「視る」と「射る」に特化しているだけにこの魔法は有効だ。それを瞬時に見極めたウタは単に様々な魔法を使いこなせるだけではない。


『いやいやいや。リンさんが光魔法だって思ったでしょ。その通りやっただけ』

『マジか! そんなに素早く伝わってたとは』


 半信半疑だが、自分が判断の面でウタの助けになっているとはうれしい。いい役割分担ができそうだ。


「もう一回まぶしい思いをしたくなければその子を放しなさい!」


 べトとダレトは素直に目覚めたレシュという娘を下ろす。ザイン親子が駆け寄り抱き合う。


「お父さん!」

「レシュ! 大丈夫だったか?」


 もらい泣きしていた吊るし飾りのツバサが胸元から重々しい声で告げる。


「そういうのは安全な所でやるだぎゃ、獣どもが帰って来るだぎゃ」

「ツバサさん、そっちはお願い。足止めしといてくれればいいから」


 ツバサをギメルに向かって投げる。


「扱いが雑だぎゃ」


 ツバサは文句を言いながら楽しげだ。


 地面に落ちる前に巨大化する。小さくて綺麗な吊るし飾りがあっという間に巨大化するのは、美しくはないが見事だ。


「ずいぶん展開が早くなりましたね」

「コツさえ掴めばこんなものだぎゃ」


 突進してくる猪の角を掴んで押し留めながら言う。鹿の前脚を払って転がす。


「あまりいぢめないでね」

「相撲みたいなものだぎゃ。こいつらも楽しんでるだぎゃ」


 巨大な動物と相撲を取っているツバサが伝説の力持ちのように見えてくる。ギメルはその周りでうろうろするだけだ。こいつ自体が魔法を持っているわけではないのだろう。


 うずくまっていたベトとダレトが立ち上がる。長い腕を横に振り回すハンマーパンチでなぎ倒しに来る。パンチが伸びて来るからスウェイバックではかえって危ない。旋回面の上下に逃げながら攻撃するのがいいだろう。


 リンは潜り込んでボディに紫炎を纏ったブローを叩き込む。自らのパンチにカグから学んだ補助魔法を使うことができるようになっていた。膝が落ちる。


「ぐはあぁ。ぐえぇ」


 腹へのパンチは堪えるようだ。双頭のこいつは化け物でもなんでもない。同じ人間だ。


 ウタは頭が下がったところへ上空から雷魔法を落とす。


 ピシャーン!

 ドーン!


 これだけの電撃を食らうと視神経はしばらく復旧しないはずだ。


『とどめの魔法を放ってくれる?』

『必要なの? なんかかわいそう』

『わかるけど、もし神事が始まったら……』

『どんな神事かわかった?』

『わかんない。でも、たぶん』

『たぶん蝶?』

『もお! 考えないようにしてたのに! またフラグ立てるんだから!』


 周りが薄暗くなった。雲が太陽を覆った時のように大きな蝶が悠々と飛来したのだった。猪鹿蝶の完成。花札ならかなり有利になるところだが、子ども二人にそんなことを言ってはいけない。


「おめえら、もうおでと相撲取らないのだぎゃ?」


 鹿も猪も前脚立ちして、蝶を歓迎しているようだ。



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