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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第1章 転生栽判は大騒ぎ?!
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3.チート天才は後世いろいろ使われる没原稿を書く

 便護士会館の小さな会議室でツバサ便護士と被告が向かい合っている。因みに被告の"魂"を護り、便宜を図るから便護士である。


「事実関係に争いはないんだがら次の審理で結審だぎゃ」

「その時にあなたは辞めるんですか?」

「何を言っとるだぎゃ。結審して判決だけなのに辞めさせてくれるわけないだぎゃ」

「――それがわかっててなぜ辞任を申し出たんですか?」

「今日結審して次回判決にしたかっただぎゃ?」


 そうか、ツバサ便護士はぼくが栽判で意志を表明しやすいよう考えてくれたんだと被告は思った。


「ありがとうございます」

「何を言ってるのか、おめえの言うことはわからねえだぎゃ、たぶん判決はあんまりいいもんじゃねえだぎゃ。おめえの言うように"適材適所"的なものだろうぎゃ。ケンちゃんもあまり尖った判決を出すと辺境に飛ばされたり、きつい仕事に回されたりするんだぎゃ」

「そんなことあるんですか? 栽判官の独立性とか」

「へん! ……ともかく上級審が勝負だ。控訴趣意書を判決後二週間以内に提出することになっとるだぎゃ。ふつうの被告なら頭を整理しとけって言うところだぎゃ、おめえには必要ないだぎゃ」


 ここで物語のテンポを少し上げよう。次の審理は特にやり取りもなく、結審して次回判決。

 この"永遠の神の沃野"には日月というものはないから何日後に判決とかはない。


 ケンちゃん栽判長の下した判決は、

『被告をN世界において、上級戦士とする。その"天分"は前世の七十%、"天職"は神の護り手。(よっ)(くだん)の如し』といったものだった。

 "天分"は文字通り生まれつきの"才能"で、恵まれた者にしか使われない用語。他方、"天職"は誰にでもあるが、そのとおりの職業に就けるかどうかは本人の努力や運や環境次第。神の護り手といっても神々が必要としなければ無意味で、当面は上級戦士ということ。


「これってどうなんですか?」

「N世界だとダントツ、いや前後百年間に一人か二人の傑物ってところだぎゃ。これでもケンちゃん頑張ってくれただぎゃ。だがなぁ、七十%でこれだから、おめえ苦労しただぎゃ?」

「まあ、それなりに。でも、"才能"への税金みたいなものかと思ってました。……さて、控訴審ですね。趣意書案を書いてみました。読んでもらえますか?」

「ええが、変てこな数式なぞ使ってないだぎゃ?――あ? なんだこれ辞書くらい分厚いじゃねえだぎゃ」

「数式使わずに言葉だけなんでちょっと長くなりました。それは概要です。三千(ページ)あります。本体は七万頁です」

「ふざけんなだぎゃ! A4五枚にまとめろだぎゃ!」


 こうして没になった原稿はいろいろな世界で聖典の一部となったり、哲学を始めとした諸学の原典に流用された。そうしたものに数式が含まれていないのはこのような経緯があるのである。


 ツバサ便護士はあえて説明しなかったが、控訴審で口頭弁論が開かれるのは稀である。大抵は『原審の証拠その他を鑑みるに原判決を覆すだけの理由は被告側に於いて尽くされていないものと思料される』といった木で鼻を括ったような判決文が送られて終わりである。もちろん真の理由は、忙しくていちいち構ってられるか!なのであるが。


 しかし、被告は飛びっきりの特別であるから、口頭弁論は開かれるに違いないとツバサ便護士は睨んでいた。そのせいで視線の先の鳩が二、三羽可哀そうなことになった。

 高等栽判所から呼び出しがあった。栽判長は高栽のエースだ。


「最重要事件ってことだぎゃ。誰が決めてんのかは知らねえだぎゃ、大事な事件には凄腕を担当させるんだぎゃ」

「ぼくが言ってるのはごく素朴なことだと思うんですがねえ」

「しょうがねえだぎゃ。教えといてやるだぎゃ。――なぜ同じ上訴なのに控訴と上告って言葉が使い分けられてると思うだぎゃ?」

「えっと、上告が特別で、最上審の太審院に訴えるものだから?」

「正解だぎゃ。だが、まだ足りないだぎゃ。太審院の本当の任務は一つ又は複数の世界への反乱、破壊、何より天帝に対する反逆を栽判することだぎゃ。だから、そこへの上訴は――わかるだぎゃ?」

「多世界規模の治安維持装置の一つへの訴えってことですか。しかも死者の"魂"を栽判するのは本務ではない」

「そこまでは言わねえが、おめえとおめえの"魂"の行方はありとあらゆる世界に関わる大問題ってことだぎゃ。知っといて損はねえと思ったぎゃ」

「高栽の凄腕さんは当然、ぼくという問題に対する太審院の意を受けている。明示的にか暗黙にかはともかく」

「そういうこっただぎゃ」


 高栽の栽判長は極めてユニークな姿をしていた。電波塔を法廷に入るくらいに小さくしたというのが近いだろう。顔のパーツは真ん中くらいにくしゃっとまとまっている。高栽で最も広い法廷の天井は掃除のために高い足場が必要なくらいの高さがあるのだが、頭のてっぺんのアンテナのような部分はすれすれだ。


「で、ものは相談だが、これくらいで手を打ってくれないかワー?」


 凄腕だが、タワーで語尾にワーを付けるという奇癖の持ち主で、今はそんなことよりいきなり落し所を、しかも飲み屋の領収書の裏に書いて寄越して来たことの方が驚かされる。もちろん使法制度上有り得ないことで、太審院に見つかったら懲戒処分は免れないはずだ。この電波系は何を考えてる?


 ツバサ便護士が書記官から受け取り、被告とおでこをくっつけるようにして見る。



 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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