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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
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29.にぎやかなお弔い

 勝った。やっと。とうとう。リンが、サホが、カグが駆け寄って来る。みんな涙を浮かべている。


「ウタ! おめえはすげえだぎゃ。おでが見込んだだけのことはあるだぎゃ!」


 やだ。ツバサさんが泣きじゃくると恐ろしいじゃない。サホさんが怯えてるよ。


 ああ、眠い。今朝は早かったから。お日様があんな高いところに。さっきの日蝕は幻だったんだろうか。あったかい。ツバサさんの背中って広くてあったかいね。あれ首に掛かってる。じゃあ、誰?


 リンさんってこんなにおっきかったっけ? 成長したのかな。やだよ。あたしをおいて大きくなっちゃ。……


「寝ましたね」

「あれだけの活躍をしたんですから。――あねぇはすごすぎです。次々と新しい魔法を繰り出して。おれなんか一生かかっても足元にも及ばねえ」


 リンは『前世ではどんな天才もそう思ったんだよ』と心の中でつぶやく。薄桃色の花が街道沿いにいっぱい咲いている。目には入るが、綺麗だとかそういう感情は生まれない。相当消耗してるんだなと思う。


 太郎短(たろたん)組が見えて来た。ヒュウガ姉さんが走って来る。アミさん、キッコさん、組長さんもいる。


「リン、お疲れ。あんたいい顔してるじゃない。頑張ったんだね」

「ウタちゃんほどじゃないですよ。見せたかったな。いや、見なくてよかったか」


 サホが組長に何事かささやいている。事の顛末を伝えているのだろう。


「そうか。わかった。……みなさん! 早速だが、ネサクの弔いをやろうと思うので、参列してください。ついでと言っちゃあ、あれだが、黒狗の連中の弔いも兼ねさせてもらいたい」


 もちろんみんな頷く。ウタはまだ寝ているので、奥の部屋に運ばれる。


 祭壇の準備などを手伝おうという若い衆が続々とやって来る。今日からは太郎短組が再びこの町を仕切るという情報は、ウタたちが組に戻るより早く侠客たちに共有された。


 他人の上前をはねる商売をやっている者たちにとって情報の鮮度と精確性は死活問題だ。活きのいい魚や手の込んだ料理が次々と差し入れられる。


「さあさ、にぎやかにやっておくれ。ネサクのやつもしんみりとしたのは好きじゃない。アミさん、ヒュウガさん、キッコさん、お客さんを使いだてして申し訳ないが、踊っちゃあくれまいか。あいつがあの世から戻って来るくらいの派手なやつを」


 鳴り物も入って酒宴が始まった。酒樽も持ち込まれ、鏡開きまで行われ、葬式らしさはどこへやら。子どもたちには飴や揚げ菓子が振る舞われる。


「あたしも飴欲しい」


 起きて来たウタがそう言ってぼんやりした顔で、砂糖をまぶした芋の揚げ菓子をぽりぽり食べている。


「おめえ、今頃になって泣いたりして。菓子がしょっぱくならねえだぎゃ?」

「悲しいの。何が悲しいって、昨日同じように楽しい踊りを見てたネサクさんがもういないってこと。憎くても二度と顔を見れない人がいっぱいいるってこと」

「いっぱい死なせちゃっただぎゃ。まあ、気にするなだぎゃ。おめえのせいじゃないだぎゃ」

「たくさん殺したのはリンさんだけどさ」

「その言い方は傷つくなあ。役割分担です」

「リンは自分がなぜ嫌われるかわかってないだぎゃ」

「ますますひどーい」


 ウタは二人がいたわってくれているのを感じる。まるで柔らかい布団にくるまっているようだ。


「そうだ。温泉行かなくちゃ。アミねえさん、行こうよ」

「あ、うん。ウタちゃん――」


 踊りの手を止めて、振り返ったアミねえさんはそこにウタにしてウタではないものを見た。組長はもっとあからさまだった。


「うおっ! なんとまあ、恐ろしい。クゾウのやつはあのかわいいウタちゃんをここまで変えたのか」

「なんですか、それ。人をまるで化け物みたいに」


 周りの全員が『並みの化け物より緊張強いられるよ。ずっと寝てて欲しかった』と思っていた。


 慌ただしく出発の準備を整える。湯治場に陽が暮れるまでに着くためには急がなくてならない。


「本当にありがとうございました。ずっとここにいていただいて、よろしかったんですよ」


 サホが名残惜しげに言う。頬が傾きかけた陽に照らされて赤らんで見える。


「お嬢さん、それリンのあにぃにだけ言ってません?」

「サホさんは年下に目覚めたみたいだねえ。でも、リンは渡さないよ」


 ヒュウガがリンの頭を抱えて豊満な胸に押しつける。


「みんなが見てるのにやめてくださいよ。あ、当然ですが、見てなくてもやめてくださいよ!」

「年下好きだなんて、そんな。ただリンくんがカッコイイなって。傷ついて苦しそうな表情もいいなって、うふふ」

「特殊な性癖が付与されてんな。清楚系にこれはヤバいぞ、リン」


 キッコ先輩がからかう。


「サホさんは大丈夫ですよ。変なこと言わないでください」

「違うって。サホを変な態様に変えたおまえの態度が変だって」

「それ、ぼくのことほとんど変態だって言ってるでしょ。しかも二回半」


 そんな他愛もない話をしながら街道の地蔵のところまで組の人たちは見送ってくれた。地獄に堕ちた子どもを救済するとも、閻魔大王の化身とも伝えられる、簡素な地蔵に手を合わせる。亡くなった人たちの成仏を、残された人たちの幸せを、自分たちの旅の無事を。


「みなさんのお蔭で組もなんとか立ち行きそうです。後はサホの婿探しですが……またお帰りの節はぜひお立ち寄りください」

「うんうん、王都(みやこ)まで勝ち抜いてくださいよ」


 カグはどこかピンボケで、リンがいなくてもどうにもならなかったかもしれない。


 振り返り、振り返りしながら手を振って別れを惜しむ。昨日会ったばかりの人たちが濃密な時間を共に過ごして、忘れられない年来の知己のようになっているた。



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