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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
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27.ツバサの登場【加筆修正】

 ウタとクゾウが対峙した時、エウカシの声が聞こえた。


「親分! こんな幼女はあっしに任せてください!」

「何があっしよ。どうせお嬢ちゃんにいいようにやられたんでしょ」

「そうだ、そうだ。さっき炎魔法と氷魔法の組合せ攻撃(アンサンブル)で気絶したくせに」

「ウタちゃん、それ言っちゃ駄目だよ」

「ふーん、それは要注意ね。じゃあさ、エウカシ、あたいと二人で同時攻撃するわよ」

「承知しました」

「ほらぁ、こういうことになるから。ぼくはまだ十分じゃないし、どうしよう」


 ひとまず逃げることも考えたところに地響きを感じた。


「あれ? こんな時に地震?」

「海が近いし、ヤバくない?」


 そう思った時、なつかしい声が聞こえた。


「おーい! 大丈夫だぎゃ? おでが来れば万事解決だぎゃ」

「ツバサさんにしてはタイミングいいじゃないですか! ありがとうございます」

「ツバサさん?! わぁ! おっきい!」


 すべて展開したのか、ツバサは鎮守の森くらいの大きさになっている。


「おっきい方が歩幅が稼げるって思っただぎゃ。あの男は店を売り飛ばそうとしたから砂浜に埋めただぎゃ」

「やれやれ、正真正銘の化け物のお出ましね。見ちゃいけないわ。おしっこちびっちゃうわ」

「こいつはあっしに任せてくだせえ。見極めを使ってみたところ、強いことは強いですが、幼女ほどじゃありません」


 ウタちゃんほどじゃないってどういう比較だよとリンは思ったが、もちろん口には出さない。


「じゃあ、お願いね。巨体化の補助魔法を掛けてあげるから」

「ありがとうございます」


 クゾウとエウカシはそれぞれの感情を込めて視線を交わした。エウカシはツバサをわずかに超えるくらいまで巨大化した。


「大きさだけがすべてじゃないだぎゃ。知性だぎゃ、頭だぎゃ」


 ツバサはエウカシの頭部を掴んだまま跳び上がり、頭をぶつけていく。


 がこん!


「痛ってえ。頭の意味が違うんじゃねえか?」


 がごん! がぉん! ごん、ごん、ごん!


「余計なことを言ってるんじゃないだぎゃ。親分のためにおでを足止めしなきゃいけないんだぎゃ? ウタ! 今のうちだぎゃ」

「ツバサさん、ありがと。いろいろ邪魔が入ったけど、いくよ!」

「どうぞ。見せてもらおうかしら、あなたの力を」


 ウタはふっと笑う。クゾウは音もなく何かが忍び寄ると直感する。しかし、何だ? なぜ視界がぐんにゃりと曲がるの? 幻術? ……まさか、そんなはずは。


「これが風魔法と炎魔法の正しい組み合わせよ。――ボンッ! だったかな?」

「うわあぁぁ!」


 こいつ、さっき見たばかりのあたいの必殺技を真似てる、いえ、もっと技の精度を上げてる。音もしないし、神経破壊も強いし、何より火力がすごい。大きなすり鉢みたいな穴が開いてる。アジトの城も吹き飛んで、残骸がぶすぶす燃えてるじゃない。


 リンは戦いが始まる前にサホとカグを連れて逃げている。試しに見極めを発動してみたらウタの"才能"の展開割合は激しく上下しているが、一%を超えることはなさそうだった。『必要十分な分だけを出してるのか。それなら安心だけど』


「余計なこと言ってくれたから命拾いしたわ」


 身体の広い範囲にひどいやけどを負っちゃった。まずいわ。治癒魔法を掛け続けても命を繋げられるかどうかってところね。


「てへぺろ~。ま、いいや。さあ、どんどん技を見せてよ」


 技を見せたらすぐに真似られて強化したのを返されちゃうよね。一撃で葬るか、体力か魔法力が尽きるのを待つ持久戦かといったところかしら。どっちもこの女の子には通用しそうもないわね。惨めなこと。クゾウはそう思う。でも。


「でも、行くわよ! 悪は悪なりに全ての力と技を見せてあげる!」

「こっちから行くんだから!」


 女の子がいくつにも見える。白い光を発している。ああ、こんなのが見えちゃ終わりね。――


 燃え尽きていく城から離れた草原から様子を見ていたツバサはエウカシに語り掛けた。


「いいのだぎゃ? ウタは自分の力の加減の仕方がわかってないだぎゃ。親分を殺してしまうだぎゃ」

「ふん。別れの挨拶はさっき済ませた」

「じゃあ、さっさと済ませてやるだぎゃ」

「そうはいくか!」


 エウカシは巨大化したものの素早さはあまり変わらない。回し蹴りと後ろ蹴りを連続的に繰り出す。ツバサは足を掴まえようとするが、それを許さない。


「こういう地味なのは苦手だぎゃ。得意技で来いだぎゃ」

「さっき散々地味な頭突きしたくせに何を言ってるんだか」

「あれは派手だぎゃ。おでもふらふらだぎゃ」

「物理攻撃は掛けた方も衝撃を受けるからね。それが科学法則(あたりまえ)だし。その点、魔法攻撃は反動がないから」

「何を言ってるだぎゃ。そんなわけないだぎゃ。魔法攻撃は掛けた方の"魂"が衝撃を受けてるんだぎゃ」


 そんなバカな。"魂"? そんなものは僧侶(ぼうず)があれしろ、これしろと説教したり、葬式や法事でお布施をせしめるための方便だろ? しかし、この世にも恐ろしい顔をした奴の言葉はなぜか否定しきれない。


「そうなのか?」


 おれには"魂"なんかない、どぶの中に綺麗な魚が住めるものかとエウカシは考える。暗い思いを振り払うように全力で炎魔法をぶつける。ツバサはのけぞって避ける。その反動を使って、上から拳を振り下ろしてくる。思ったより応えるなとエウカシは感じる。無理もない。引き換えだからな。


 ぼっくっう!


 首の骨が折れたんじゃないかと思うほどの衝撃だ。周りの組織もかなりダメージを受けただろう。


「死んであそこに行けばわかるだぎゃ」


 ふと手を見ると紫色の斑点に覆われている。気色悪い。さっさとやっつけないとあいつみたいに手足がもげてしまう。ネサクと言ったっけ、悪かったなとは言わないぞ。だが、相応の罰は受ける覚悟だ。エウカシはそんなふうに思った。


 氷魔法でツバサを氷漬けにしようとする。


「おでは寒い所の生まれだからこんなの平気だぎゃ」


 運にまで見放されたかと苦笑いする。


「あそこに行くって、あの世か?」


 死ねばわかることなのに今知りたいと切実に思う。もう近いのだろう。だったら風魔法がいい。


 若草のにおいが立ち込める。小さな花が混じっている。舞い上がっていく。ツバサの言葉は途切れ途切れにしか聞こえない。 


「ちょっと違うだぎゃ。"永遠の神の沃野"だぎゃ。おめえの"魂"もじゃぶじゃぶ洗ってくれるだぎゃ」


 やっぱりあの世じゃないか。人を虐げたり、人を殺したりせずに済み、"あいつ"の言いなりにならなくていい世界なら極楽だろうが。こんなおれの"魂"も?――



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