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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第3章 旅は道連れ世はバトル?!
23/45

23.ウタが組の若いのを鍛える

 組長はカグの肩を掴んで紹介する。カグは逃げようとするが、無理なようだ。


「こいつは素質はあるんじゃが怠け性で、わしは見てのとおりの病人だ。お恥ずかしい限りなのだが」

「おやっさん、そりゃないでしょ。この村の連中じゃ相手にならないから」


 どうした加減なのか、組長は眼光炯々(けいけい)、見違えるように若くなったように見える。病が癒えれば相当な腕前だろう。その組長からカグは将来を託す愛弟子なのだろう。


「まあいいや。あたしが先に手合わせをお願いします。剣ですか? 木刀でもいいですよ」


 ウタが言うとカグが身構える。


「残念だな。おれは素手なんだ」


 リンは見極めを発動してカグの能力を測る。――体術と炎の魔法か。レベルもなかなかのものだ。だが、さっきの親分に……


 いきなり炎を纏った回し蹴りが来た。ウタはのけぞって躱すが、睫毛が焦げたにおいがする。


「危ない、あぶない。ベルトを外してからにして欲しかったな」


 いつも腰に巻いている鉄の十倍はあるベルトを外し、そばに置く。わずかに宙に浮いている。リンだけが気づいている。


 ウタは侍の踊りを始める。そのまねびによって侍の"魂"を引き寄せる。見方、考え方が変わる。


「ずいぶんと余裕だね! でも、これをくらってもかな」


 膝蹴りからの後頭部へのダブルスレッジハンマー。避けられないこともないけど、組長から鍛えてくれと言われてるから、受けてみた。


 痛い! 悲鳴が上がる。


「ウタ、もうやめな! 死んじゃうよ!」

「きっついなぁ。頭ぐわんぐわんだよ」


 言葉とは裏腹に大丈夫と言わんばかりに、キッコ先輩に手を振る。


「なら、も一つ!」


 リンは思わず叫ぶ。


「それは甘いよ、カグさん!」


 ウタはトンっと地面を蹴って回転して攻撃を躱し、そのまま突き上げるように腹にブローを叩き込む。


 カグはゆっくりとうずくまっていく。ステップアウトして様子を見ている。


「かはぁぁ! ぐ、ぐしょぉ。何を……しやがった」


 しゃべれるだけ大したものだ。


「いいから、いちばんの得意技で来て。そうでなきゃ勝機はないですよ」


「そのつもりさ!」


 カグは大きくジャンプして豆粒のように見えるまで高く昇る。


「たっかーい! 雲雀みたい」

「カグ! 駄目!」


 サホの悲鳴が聞こえる。捨て身の大技ってことなんだ。まさかこんな楽しい人、死なせるわけないじゃん。


 最高度の炎熱魔法を身体中から吹き出しながら、急降下攻撃してくる。こりゃ音より速いね。リンが逆立ちするウタを見て、声を掛ける。


「ウタちゃん、どうするの?! あ、反返し?」


 ――反返し。逆立ちした両足の裏から反エネルギーを攻撃エネルギーにぶつけて、対消滅させる。カグにダメージはないはずだが地面に衝突した分はしょうがない。しばらく立てないだろうけど、サホが懸命に回復魔法を掛けている。


 眺めていた組長が拍手しながらで迎える。


「いやはや、お見事! ウタちゃん、ますます気に入った。おじさんの娘にならない?」

「嫌です。下心見え見えでキモいです」

「あちゃ~。手厳しいね。リン君もいい目持ってるね。戦いの場を見下ろしてるようで、軍師向きと見た」

「ありがとうございます。でも、ぼくは戦場で暴れ回ってる方が好きです」

「そうかそうか。……おい、サホ。こういう話には酒だ。おまえも一緒にお客さんと酌み交わそう」

「いえ、ぼくは未成年で。お酒はまだ駄目というか。お茶か硝子玉飲料(ラムネ)でも」


 やっと息が出来るようになったカグがウタに敬意を払って言う。


「その年で、そのちっちゃい身体で参りました」

「年は関係ないの! ちっちゃい言うな!」

「すみません。コテンパンにやられました。あの技があっさり破られるなんて」

「気を落とすことないですよ。ウタちゃんは、なんて言うか、特別だから」

「そうですね。今日からウタさんとリンさんは、おれのあねぇとあにぃです」

「もちろんおいらも弟ですのでよろしくお願いします」


 サホとともに酒と飲み物と肴を運んで来たネサクが頭を下げる。


「こんなおっきな弟要らないの。お兄ちゃんって感じでもないし。せいぜいはとこなの」


 ここも海産物が豊富に獲れるとのことだ。黒鯛、(すずき)、あおり烏賊、赤貝の刺身、穴子の蒲焼、蛤のお吸い物等々。歓声が上がり、舌鼓を打つ。


「こんなご馳走をありがとうございます」

「いやいや、わしもお客様のお相伴に預かれるというわけだ」

「お父さんまで何言ってるの。ふだんどおりよ」


 少し頬を赤らめながらサホは主張する。


「ふだんどおりって、ここんとこ魚は魚でも干し魚、漬物に具なしの味噌汁ばかりの塩対応だったのに。あねぇたちに居てもらうと食事がよくなるぜ」


 カグも日頃の不満をネタに戯れかかる。


「リンさん、海鼠(なまこ)の酢の物食べる? 見てくれはアレだけど、新鮮だからコリコリしておいしいわよ」


 頼もしい妹、弟ができた気分なのだろうか。二人の味や食材の好みを聞くといそいそと台所に入る。組長はアミねえさんのお酌を目を細めて受けながら言う。


「阿多温泉はすぐ近くなのだが、海にまで温泉が湧くものだから魚介類はあまりいいのが獲れないとか。今晩はここで泊まって、明日、温泉に行くのがいいだろう。あの温泉はあちこち病いを抱える年寄りにもいいが、若い女性にもいいんだ」

「あら、どうしてです?」

「肌がすべすべになるんだよ。いや、アミさんは今でもすべすべだが、それがもっとな」

「お父さん、あまり調子に乗ると嫌われますよ。みなさんは客商売だから当たりはやわらかいですけど、嫌なものは嫌なんですよ」


 サホは父親に釘を刺すと、お客となった踊り子たちにしみじみと言う。


「こんなに賑やかなのは久しぶりです。全盛期には十人を超す組員がいたのに、今はカグとネサクとわたしだけになってしまって」


 ネサクが柄にない熱を帯びて言葉を繋ぐ。


「組長の病いもあるんですが、黒狗のクゾウがあくどい引き抜きを行ったのが大きいんです。あいつの右腕が組長のかつての一番弟子のエウカシだなんて嫌になります」


 旅に出て初めての夜が、気の置けない人たちに囲まれてよかったと思う。心が解けていく。



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