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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第1章 転生栽判は大騒ぎ?!
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2.チート天才は暇つぶしに個人の幸福を定式化する

 一同が息を呑んで聞き耳を立てる中、被告は(おもむろ)に発言した。


「えーと、なんだっけか?」


 はらひらほれ~♪

 一同、とある地方名物の丁寧なずっこけ。


「いきなりボケかいっ! そんなんぼんやりやないやろ!」と新闇記者が傍聴席から叫ぶ。


「えろうすんまへん! やのうて。異世界のほとんどが戦闘系ですよね?」と被告が応じる。


「そんなこともないですよ。無人島を自分好みに開発していく世界とか、ブロックを加工したり、組み立てたりする世界とかもありますよ」と右陪席が言う。


 語り、語られる世界においては戦闘系が圧倒的に多いのは事実。その原因、理由について述べるのはノベルの主意から外れるので触れない。


「そうは言っても、栽判を傍聴してて現実問題として戦闘系世界に行くのがほぼ必然だろうなって思ったんです。でも、前世のぼくは知能に比して身体能力はあまりにも非力です。戦闘系の世界では仮令(たとえ)魔法使いや僧侶であっても身体能力は必須です」

「そういうことなら卓越した身体能力を望めばいいのでは?」


 この男が前世に於いて核兵器の開発に決定的な役割を果たしたのを知っている賢察官は、身体能力など何ほどのものかと密かに(わら)いながら言う。


「それも考えました。二十分しか待たされなかったらそうお願いしたでしょう。しかし、戦闘とはぼくとぼくの同僚が発案した『ゲーム理論』における『非協力ゲーム』であり、場合によっては――あ、すみません。やめましょう。で、暇つぶしにとりま非線形微分方程式で定式化してみると、戦闘系の世界だからこそ戦闘に向いていない資質の方が個人として幸せになれる蓋然性が有意に高いという皮肉な結果が二十七分に導かれたんです」


 法廷内のすべての視線が書記官に注がれた。『こんな天才を待たせるんじゃない!』


「あ、今の話は内緒ですよ。もし漏れたら戦闘系の世界に戦闘に向いてない人ばかり集まっちゃいますから。ああ、でもそんなことを言ったせいで位相転換が起きちゃったかも。すみませ~ん!」


 栽判官は頭が痛くなってきた。五百年前に左陪席として判事のキャリアをスタートして以来、数多の被告を見てきた。中でも独裁者や宗教指導者や大実業家等々、カリスマと呼ばれる人間の立ち昇るオーラを目の当たりにしてきたが、目の前の人なつっこいこいつほど地球を素手で、ぐるんっと動かしかねない人間にお目にかかったことがない。


「わかった、わかりました。あなたの希望は最大限尊重して結論を出します」


 栽判長が結審を宣告しようとしたその時、不気味な低い声が響いた。


「お願えだぎゃ。あっしを解任してくでだぎゃ」

「便護人ですか。辞めたい理由と後任者を疎明した文書を書記官に提出してください」

「そんな冷たいこと言わないでだぎゃ、ケンちゃん。長い付き合いじゃない、ここで言わせてだぎゃ」


 今まで触れなかったが、法廷内の者はすべて人間ではなく異形の者たちである。異形と言っても怖くなくてゆるキャラ風だからふざけてる感じだが、もちろん中の人はいない。ところがこの便護人だけは見るからに怖い。言葉で描写しようとするだけで、心臓が止まりそうになるので説明できない。五百五十年前に同期の使法修習生になって以来の付き合いの栽判長でさえ正面から見たくない。ついでに言うと、栽判長は半人半牛の予言獣(くだん)そっくりだ。ただ、予言しちゃうと死んじゃうので予言しない。


 もちろん人を見た目で判断してはいけない。(いわん)や神やその眷属においておやなのだが、建て前と本音が違うのもまた同断で、見た目は決定的に重要だったりする。だから、変な言葉遣いの便護士を選任する者はほとんどいない。しかし、被告は何を考えたのか、あるいは何も考えていなかったのか、彼しかいないと言い張った。ところが、便護士は彼を一目見るなり、

「辞めさせてくれだぎゃ、解任してくれだぎゃ」の一点張りだった。だが、公選便護人は辞任することができない。

 

「わかった、わかりました。特例ですよ。なぜ便護人を辞したいんですか?」


 さっきと同じ『わかりました』のリフレインだが、特例でもなんでもなく訴訟指揮権の範囲内である。


「決まってるだぎゃ。人間の皮を被ってやがるが、こんなおっかない化け物は見たことがねえだぎゃ」


 化け物じみた怖いやつに言われたくはないが、妙に説得力はある。じわじわ来る。


「そうだとしても、君に危害を加えるわけじゃないだろう?」

「何もわかっちゃいねえだぎゃ。これだから頭でっかちは困るだぎゃ! ケンちゃんはそんなんだから何回結婚しても続かねえんだぎゃ。人情の機微ってもんがわかんねえんだぎゃ」

「六百年間一回も結婚できない人に言われたくありませんーだ。あっかんべ~」

「栽判長いい加減にしてください。ここは幼稚園のプレイルームじゃないですよ」


 右陪席に(たしな)められる。因みに右陪席は魔法少女風の萌えキャラである。短い杖で「めっ!」ってしている。


「そうだ、そうだ! ケンちゃんはぼくの顔を見るとすぐに保育士さんに泣きつく意気地なしだっただぎゃ」

「だってツバサ怖いもん!」


 法廷中が凍った。この五秒凝視してたらおしっこちびりそうな奴の名前がツバサだって?! いや、名前と実体が不整合を来している例は枚挙に暇がない。ではあるが、これは酷い。しかし、この話題はこの辺にしておこう。読者をdisってると思われる危険性があるからである。地雷原をわざわざ歩くこともない。


「栽判長! 便護人の件も次回ということで閉廷しませんか?」


 仕切り好きの賢察官が声を張り上げる。問題の先送りは彼の、いや賢察庁という官僚機構の得意とするところであった。生ぬるい、気を持たせるなと言う勿れ。時間は難問解決の妙薬。大抵の悩み事は眠って起きれば片付いている。寝れば海路の日和ありと言うではないか。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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