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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第2章 踊り子仕合は波乱万丈?!
19/45

19.魔法バトルのほんの前触れ【加筆修正】

「うまそうなのが、ひい、ふう、みい。もうちょっと経つとうまそうなのがひい。後は食いたくもねえ、失せろ!」

 なんとかお腹を満たし、男の子をぎゅっとしたウタたちは会場に戻る。


「また来るね~」


「もう来んな~」


 男の子はとても楽しそうに手を振った。


 さて、会場では早速、結果発表が行われる。みんなが見守る中、歩み出た市長は厳かな表情で口を開いた。


「上位の三、四組はどれも代表として送り出しても恥ずかしくない高水準だった。本当に素晴らしいものを見せてもらった。この祭りを盛り上げてもらったことを率直に感謝する。とは言え、さすがに個人戦に引き続き、複数送り出したら怒られちゃうけどね」


 市長はここで一息入れた。


 しーん。


 笑いを取ろうとしたのがものの見事に滑ったのだった。事前にこう言うとおもしろいかなと思って言うと、大抵失敗する。笑いは意外性の中にあるから、企みはそれを損なうのだろう。


「こほん。では、発表します。優勝はナギサ酒場! 未熟な者だからこそ可能性を秘めているという風体(コンセプト)が高得点となった。あえて準優勝を挙げればパロとヒュウガの組の両方だろう」


 また、言葉を切ってみんなを見回した。『何回溜めるんだよ。早く言え』、『こういう大人にはならないぞ』、『トイレ行って来ても大丈夫かな』といった無言の圧力は彼には通じない。


「パロたちのは一言で言えば二重性の魅力だろう。その表裏一体感が三人で表現できるようになっていればもっと良かったかな。ヒュウガたちは珍しい男を交えた芝居仕立てで、楽しませてもらった。もう少し奥深いものがあれば良かったんだが」


 いちいち言葉を切るものだから、『あれの奥深さがわかんないのか?』とか『美少年好きがいっぱいいるって知らないの?』といった不満の声が漏れる。


「最後に。これら前評判が高かった三組を大いに脅かしたのが八番目に出演したナミキリ食堂。彼女らの地元を訪れたことがあるが、逆巻く波しぶきを浴びながら飲む酒は……」


「いい加減にしろ!」

「官費で行ったんじゃないか?!」

「接待疑惑の徹底究明を(まち)に要求する!」


 しゃべりすぎて観客を怒らせてしまった。


「あわわ。すぐ終わるから許して。――優勝、準優勝の三組には大小の神鏡を送る。今後、神鏡に恥じない精進をして欲しい」


 市長は特にパロを強く見つめたように見えた。


麻績寺(おみでら)で行われる東海道(うみつちほう)の代表戦は三週間後だ。日数があると思うかもしれないが、途中は地形も険しく、物騒な所も少なくない。余裕を持って出立するがいいだろう。これは我々からの心ばかりの餞別だ。路銀の足しにしてくれ」


 餞別の出所を追及する声は上がらない。カネは人と同じ。出自よりも何に役立つかの方が大事なのだ。出自に拘ればカネも人も死んだも同然、言い訳ばかりが蔓延(はびこ)る。


 酒場への帰り道、途中まで一緒だったヒュウガ、リンと周りに何もない三叉路で別れる。ヒュウガがおかみさんに声を掛ける。


「市長さんも、ああ言ってたし、心細いので出来れば麻績寺までご一緒できれば」

「そりゃ、こっちの方が願ったりかなったりです。弟さんはまだお小さいのに凄まじく強いって市の評判になってますよ」

「じゃあ、旅の支度が整いましたらお互い連絡を」

「姉さん、大丈夫だよ。ウタちゃんとはいつでも連絡取れるし」

「おやおや、そんな仲になるのはまだ早いんじゃないか。ウタちゃんはまだ……」

「十三歳です! リンさんは悪い人じゃないですけど、そんな仲じゃないです。変な噂を拡散しないでください」

「ふふふ。リンの奴、見事に振られてやがっただぎゃ。ウタ、もっと言ってやれだぎゃ。イケメンに鉄槌をだぎゃ」

「しょぼん。姉さん、家に帰ったら慰めて」

「あ、こら。ちゃんとよしよししてあげるから、こんな人前で言わないの」


 キッコ先輩が待ちくたびれたように言葉を掛ける。


「おーい。こんな何もないところで、いつまでくっちゃべってるんだ? 雑な物の怪に憑りつかれるぞ」

「あ、駄目だぎゃ!」

「それ、呼んでます!」


 地雷を踏んだというか、フラグを立ててしまったようだ。ツバサとリンが叫ぶ。ツバサが展開し始めるが、大きさで圧倒できるまでにはまだ時間が掛かる。リンが身構える。


「呼ばれて登場、ほほ、ほいのほい! うまそうなのが、ひい、ふう、みい。もうちょっと経つとうまそうなのがひい。後は食いたくもねえ、失せろ!」

「おかみさんとぼくが要らないってことですか? そういうこと言うといろいろ大変ですよ」


 荒地でも養分はそれなりあるのか、あちこちの積藁が集まって来て、物の怪は見る見る巨大化していく。たんぽぽを持った太い腕で殴って来る。ひまわりのような目が、邪悪で無邪気なこの物の怪の二面性を感じさせる。


 リンは基本技のスピードマスターで切り裂いて集まるのを妨げようとするが、藁が散らかるだけでダメージは通らない。


「くっ! ウタちゃん、炎の魔法で焼いてくれる?」

「合点承知の助。食らえってば!」


 太陽のような高温の炎がウタの手のひらの先から吹き出し、藁を燃やしていく。あっという間に紅蓮の炎が上がり、唖然としていたナギサ酒場の人たちに藁の塊が崩れかかっていく。


「うわっちち! 倒れる方向を考えてくれよ」

「でも、ウタちゃんの魔法凄いわね」


 キッコ先輩とアミねえさんがおかみさんを抱えて右往左往する。


「もうちょっと経ってから食べようと思ったけど、今始末してやる」


 物の怪はそう言うと一抱えもありそうな粘土の塊をウタに向かって放ち始めた。


「土属性か地属性か知らないだぎゃ、こんな地味な魔法はおでには通用しないだぎゃ」


 ツバサがウタの前に立ちはだかり、粘土玉をはね返す。


 打つ手がなくなったのか、三叉路の物の怪は火を消し、静かに風が収まるのを待っている。


「何か企んでますね。邪悪な気を感じます」

「証拠もないのに疑うのはよくないな。さては前世は刑察官だな」


 藁の物の怪が弱々しく問う。風がやみ、藁が散らばっていく。力尽きたのだろうか。


「惜しい。賢察官だよ。もっと正義を素朴に実現したくて、こっちに来たんだ」

「そうか、そうなるのを祈ってるよ。あばよ」


 その声が虚空に消えていく。リンは総毛立つ思いがした。こいつ、捨て身の攻撃か?


「しまった! 粉塵爆発だ!」


 どうしたらいい? 風魔法で辺りに充満した細かい藁を吹き飛ばす? 水魔法で周辺の温度を下げる? 空気そのものが瞬時に爆発するのに、どれも間に合いそうもない。


 その時、ウタが飛んでもないことを言った。


「死なないで! 戻ってきて! 藁藁さん。もう焼いたりしないから!」


 細かい藁がふわふわした玉に、それらが集まって元の大きさになる。


「誰が藁藁だよ。本当かい? ひどいことしない?」


 ゆさゆさ身体を揺らしながら訊く。今日一日の陽射しのにおいがする。


「しないよ。あたしたちはおうちに帰るだけ」

「ぼくたちの話を聞いてくれる?」


 ぼくたちなんだ。やっぱり藁藁でいいんじゃん。それとも藁藁藁……。アミねえさんがやさしく言葉を掛ける。


「もちろん。おねえさんが聞いてあげるわ」

「ぼくらは捨て子だったんだ。……旅の途中で置いてけぼりにされたのもいるし、夜に村から運ばれて来た赤ん坊もいる」

「たくさんいるの?」

「いるよ。ここにいるだけで村人の数より多いかも」

「そんなに?! 生きてる人より捨てられて死んだ子の方が多いなんて――」

「驚いてるってことは君たちは幸せなんだね。嫉妬しちゃうな」

「あわわ! やめて! 集まらないで!」

「あは、集まらないよ。でも、今度ここを通ったら、じっくりどんなふうに捨てられ、命を奪われたか聞いてくれる?」

「うん、いいよ。いくらでも聞いてあげる」


 ウタの発言に他のみんなは『安請け合いするな!』、『巻き込まないで!』と心の中で突っ込んだ。


「じゃ、じゃあ、今日はこんなところで」

「ああ、賢察官もお元気で。……ああ、そうだ。"あいつ"にはくれぐれも気を付けてね」

「え? "あいつ"って?」


 キッコ先輩が訊いた時には、藁の物の怪は風の中に消えていた。


 その後、リンはヒュウガにいろいろ尋問された。


「ねえ、賢察官って何? あんたウタちゃんと浅からぬ関係があるね。自白しな!」

「勘弁してよ。尋問されるのは慣れてないんだから」


 ぎゅうぎゅう首を絞めつけられて、リンはこれ以上、背が伸びると姉さんの胸に頬っぺたが当たらなくなるのかなと考えていた。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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