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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第2章 踊り子仕合は波乱万丈?!
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13.踊り子仕合個人戦予選も目が離せない

 いよいよ踊り子仕合が始まった。どのように仕合をするのか、どのように判定するのか、気になるところであろう。個人戦は一つの自由曲を、三名から行われる団体戦は課題曲と自由曲を踊る。自由曲の長さ、その他は自由気儘だが、あまり長すぎても短すぎてもいい判定が得られる道理はない。判定はこの(まち)の長と主だった酒場の主人たちの合計五名の合議で行われる。彼らは踊り子とその踊りを最もよく見ているし、どういうのが客に受けるのかを知っているかだ。


 踊りは神への奉納であっても、酒席の慰みであっても、神やお客を喜ばせるものでなくては何の価値もない。これに賛成できない者は自ら好きな踊り子を養う他はない。先年、こうした暗黙の前提に異を唱えた者がいる。


『自分の踊りは優勝した者より上手なはずだ。わたしの容姿を云々して低く評価するのはけしからん!』


 彼女が合議の結果に抗議して十五分にわたって振るった熱弁の要旨はこうだった。父親が地元銀行(かねかし)の頭取だということも彼女がこの挙に及んだ原因の一つだろうが、我儘なお嬢様が自分の踊り子としての価値を無遠慮に評価されてショックを受けたのだった。


 彼女は『王都に上って、雅楽寮(うたまいのつかさ)で腕を磨いて、こんな田舎の酒場の主人なんか見返してやる!』と捨て台詞を残して、故郷を後にした。その意気や良しといったところであろう。


 さて、初日の個人戦には三十七人がノミネートしたが、一名が急な腹痛で辞退した。八名が進める午後の決勝戦には確実と言われていた踊り子だったから、誰しも不穏なものを感じた。


「いくら踊りが上手でも、食べ物や水には気をつけねえとな」とパロがせせら笑う。

「ホントですよね。姐さんに喧嘩売るようなことを言うから(バチ)が当たったんですよ」

「ですです。あいつったら、『(たま)には正々堂々と勝負したら? そんなに下手でもないんだから』なんて失礼過ぎますよ」


 聞きたくもないのにナギサの者たちに聞こえてしまう。ウタは肩を震わせて怒っている。


「ウタ、ここはしばし堪えて、アミねえさんやキッコ先輩におかしなことされないよう、しっかり見張るだぎゃ」

「わかってる。衣装も食べ物、飲み物もあたしが抱えて守ってる。踊ってる間は変なことしないか、じっと見てる」


 そんな酷いことをするパロの踊りなんかどうせと思っていたウタは度肝を抜かれてしまった。まだ予選だというのに見たこともないような踊りを見せられたからだ。


  (いにしえ)(まつろ)わぬ神とその民

  地の底に奥津城(おくつき)もなく

  打ち捨てられ封じられ忌み嫌われ

  名も剥ぎ取られ寄る辺もなく……


 その女の声とも思えない低い声は地の底に鎮められた怖いものを呼び覚まそうとする呪文のようだった。


   (ふしだ)らな赤い月が昇れば

  其の神と民は蠍の影から毒を……


『なんということを謡うのだ! 危険だ! 怪物が目を覚ます!』


 みなの恐怖が最高潮に達した時、踊りが終わる。幻影もかき消える。


「はて、みなさん何をそんなに怯えているんでしょうか。しがない踊り子のお目汚しの踊りですが、もし続きをとおっしゃるなら決勝戦で。見たくないものがもっと見れるかも知れません」

 流し目を撒き散らして去って行った。


 キッコ先輩はガチガチに緊張していた。


「キッコ、ふだんどおりやれば大丈夫だって」

「そうですよ。キッコ先輩、去年も楽に決勝に進めたんでしょ?」

「去年は去年だよぉ。決勝で失敗したのを思い出させないでくれぇ」


 ホントへたれなんだよなとみんな思っている。業を煮やしたおかみさんが発破を掛けた。


「おまえさぁ、パロの鼻を明かしてやりたいって思わないのかい。さっきは踊り子の風上にも置けないって言ってたじゃないか」

「それはそうですが。……そうですね。やります! やってやろうじゃないですか!」


 急に元気の出たキッコ先輩はすっくと立ちあがって、舞台の真ん中に立った。


 可憐な花とその蜜を吸う蜂鳥を演じる。手をパタパタと羽ばたかせると、どういう仕掛けなのかすうっと浮く。見立てではなく、花は元からそこにある。そんな映像が見る者の脳裏に現れる。蝶でもない、蜂でもない異国の緑に輝く小さな鳥がひゅ、ひゅっと花に近づいていく。


  時計草さん、今日は一段と綺麗だね

  あら、その名前は好きじゃないわ

  わたしはくるくる回ったりしないもの、蜂鳥さん

  名前なんか問題じゃないよ

  ぼくだって蜂の親戚じゃない

  そんなこと言ってる間に

  わたしの花の奥深くまで(くちばし)

  吸い上げた蜜の味は甘いかしら  


 ホバリングしたまま花の奥に口吻(キス)していく踊りには思わず歓声があちこちから漏れる。


「キッコちゃん、すごい」


 アミが目を輝かせて見ている。彼女は先程、白鳥の舞を披露したところだった。


  堪らなくおいしかったよ

  明日もまた来るね

  待って、もうちょっとお話を

  行ってしまった

  蜜を上げてしまうと

  自分の巣に帰ってしまう

  切なさしか残らない


「あいつも成長したもんだ」

「何かいいことでもあったんですかね」


 審査員の酒場の亭主がひそひそ話をしている。彼らはふだんからあちこちの酒場を回って踊りを眺めて飲み食いし、それなりのカネを落としている。遊びも商売のうち、商売も遊びのうちというわけだ。お上にはなかなかわかってもらえないが。


 予選が終わった。お昼休憩後に決勝進出者が発表される。

 


最後までお読みいただきありがとうございました。

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