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前世ではチート天才だったんで異世界では平凡に生きたいです  作者: 夢のもつれ
第2章 踊り子仕合は波乱万丈?!
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12.ライバルと悪漢が現れる

 ウタとリンとツバサが談笑しているところへ男装の麗人が現れた。これまた女子の好物だけに熱い視線で氷柱もみるみる溶けていく。


「リン、知り合いか?」

「あ、姉さん。紹介するよ、ぼくが探してたウタちゃん。その守り神のツバサ君」

「へえ、本当にいたんだ。頭の中で(こしら)えたものだと思ってたよ。ウタちゃん、リンをよろしくな。――おや、これはナギサのみなさんじゃないですか」

「ヒュウガさん、あんたも踊り子仕合に出るんだろ?」

「出ますよ、アミさん。ここでの個人戦はあんたとの一騎打ちかな。でもね、今年は団体戦が楽しみだよ。ヒナにこの子を加えて三人揃ったんで」

「えー?! リンさん、踊り子なの?」

「そおだよ。男が踊り子になってもいいでしょ?」

「いいけど、職業名が違くない?」

「いいのかなぁ? そんなこと言ってぇ」

「すみませんでした! でも、ヒュウガさんって見るからに踊り上手そう」

「そうだよ。姉さんはこの辺じゃあピカ一だよ。アミさんもいい線行ってるって評判だけど」

「あたしも団体戦出るんだよ」

「へえ、それは楽しみ! 自由曲決まってる?」

「駄目だよぉ。それはリンさんにもひ・み・つだよぉ。この間、お社に奉納したら降りて来た曲だなんて言えないなぁ。あたしの周りを龍が舞い踊ったなんて知られたら大変だぁ」

「ウタさん、相当な天然物に仕上がってますね。……曲が降りて来たって、たぶんあの時でしょうね。うちの村でも滅多に見ないような異形の者たちが空と言わず、森と言わず暴れ回ってましたから」


 あれだけの異常事態を起こせるのはそうそういないはずとリンは見定め、意外と早く再会できそうだと楽しみにしていた。


「うーむ。さすがは辣腕賢察官。天丼もないのに自供させられました」

「勝手にぺらぺら喋ったくせに。仕合までまだ時間もあるようだし、どうです? もつ煮でも食べに行きませんか? 奢りますよ」

「いいだぎゃ。おでは米の蒸留酒の炭酸水割だぎゃ」

「ツバサさんには奢りませんよ。子どものお小遣いじゃ無理です」


 葭簀(よしず)を回し立てた旗亭(のみや)に入り、硝子玉飲料(ラムネ)で乾杯する。


「ヒュウガさん以外に上手い人いるの?」

「上手いってこともないんですが、要注意の人はいますね。パロさんっていう人を中心にした組で、えげつないことを仕掛けて来るそうです」

「えげつないんでっか。どないなことするんだす?」

「そうだすなぁ。踊りの衣装を切り裂いたり、踊っとる時に鏡の光を目に当てたり、もうなんでもしよりますわ」

「おい、おまえら言葉の翻訳が変だぎゃ」


 そうなのである。この物語の今の舞台はZ世界だからそのままでは所謂文字化けのようになってしまうので、機械翻訳しているが、そのソフトが故郷をつい思い出してしまったらしい。しかし、この地の文までは手が回らないようだ。


「だぎゃ、だぎゃ、ゆうとるもんにゆわれとうないわ」

「せや、せや」

「う! これはおでの一族の証だぎゃ、やめるのは恥辱だぎゃ」

「そうなんや。ツバサはんの一族て、どの辺なん?」

「"永遠の神の沃野"のずっと北の寒いところだぎゃ。ご先祖様はなんでまたこんな寒いところに住み始めたんだぎゃって思うだぎゃ」

「だからこそ愛着があるんやろな」

「せやねえ」


 見ると五、六歳くらいの男の子が注文を取ったり、お酒やもつ煮をお客に渡したりしている。ウタは昔の自分を見るような想いで、目を細めている。


 ところが、その子が席を立とうとしている三人連れに何やら訴えている。三人は刀を一本腰に差している。


「あの! これじゃあ足りないんです! だって、お酒三本に、もつ煮に、焼き鳥が雛、砂ずり、皮が二本ずつで……」

「うっせえんだよ! ガキのくせに何をごちゃごちゃ言ってやがる! 亭主を出せ、亭主を!」


 男の子の腹を思いきり蹴ったところへいかにも非力な亭主が揉み手をして現れる。


「申し訳ございません。この子には後でよく言い聞かせておきますので、今日のところはこれで。いえ、お代はけっこうですから。はい」


 駄賃を紙に包んで渡して穏便に済ませようとする。


「そうか、そうか。その方からの申し出だな。皆も我らがゆすりたかりをしておるのではないことは得心行ったな?」


 男の子は腹を押さえ、地面に伏せたまま悔しそうな顔をしている。お客は気まずそうな顔をしているが、内心では乱暴狼藉にならずにほっとしているのがほとんどだ。ウタが今にも突っかかりそうなのをリンが抑える。


「リン、どうするだぎゃ?」

「ちょっと身体をほぐしてみますか?」

「おでもあいつらの背丈くらいまで展開してみるだぎゃ」

「ウタちゃん、先にぼくらは出てるから、あいつらを挑発して連れて来てよ」

「わかりました」


 旗亭からほど近い乗り継ぎの馬や馬子が並んでいる駅の前は広場になっている。挑発しての意味がよくわからないウタはこう言って、三人を連れて来た。


「すごく綺麗な女の人が来てくれないかって。お暇ありますか? ないならそう言ってきますけど」


 天然物の割に酒場で慣らした口八丁はお手のものだ。


「おい、待て! 行くよ、行くったら。おまえらはここにいろよ」

「なんでです。ついていきますよ。罠だったらどうすんですか?」


 ウタは吹き出しそうなのを堪えるので必死だ。


「伝言は預かってないですけど、それなり綺麗な人が二人ほど一緒でしたよ」

「ほらぁ、兄貴の独り占めはないですって」

「わかったよ。うっせえなぁ」


 リンは青空を見上げながらあくびしていた。ツバサは四十五%に展開するための祭文をぶつぶつ唱えていた。


「なんだよ。綺麗な女なんか――」


 次の瞬間、その親分格の男は腹に衝撃を受け、広場の真ん中から厩まで吹っ飛び、馬糞混じりの砂をしたたか舐めた。リンがそのスピードを活かして、軽く蹴りを入れたのだった。二人の子分は驚きながらも刀を抜いた。


 陽炎(かげろう)のようなものが揺らめいたと思ったら、怖ろしい姿をした大男が突然現れ、睨みつけて来た。


「ひ、ひええ」

「勘弁してください。おしっこちびりますぅ」

「もうちびってますぅ」


 二人は刀を放り投げて、土下座する。


「ツバサさん、ちょっと大きすぎませんか?」

「最初だから加減がわかんないだぎゃ」


 ウタはまだうずくまっている親分に訊く。


「どうします? まだやります? 飲み食いした分をちゃんと覚えているならそれを払って終わりにします?」

「終わりにするよ! 財布ごと持って行きやがれ!」

「あ、そういうのって、あたしいちばん嫌いなんですよね。あの子だって喜ばない」

「どうすりゃいいんだよぉ」

「お店に戻って、お勘定をあの坊やに教えてもらうんですね。あの子はちゃんと覚えてますよ。必死に働いてるんだから」


 三人揃ってとぼとぼ歩きだしたのを見て、リンは穏やか表情になり、ツバサは吊るし飾りに戻った。


「なんかいい感じですね。このトリオ」

「ですね。ウタちゃんが暴力なしで説教だけっていうのがいいです」

「なんかウタだけってずるいだぎゃ。代わりばんこがいいだぎゃ」

「ツバサさんは元便護士なのに説教下手そうだからなぁ」


 この間、ナギサの人たちやヒュウガさんは近在きっての名刹にお参りしていて、三人の活躍を見ることはなかった。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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