結
病院のベッドで目覚めた後、俺は家族と医者から詳しい経緯を聞いた。
地震でゲームソフトの大量落下を受けて頭部を負傷した俺だったが、命に別状は無く、脳に関する後遺症が無い事も判明。
地震の被害規模はそれほどでも無かったものの、妹の茜は通う高校が水道管の破裂で臨時休講となり、友達と遊ぶ予定を我慢して病院に来ていたと言う。
「お兄ちゃんが治ったからもういいよね!あたし、友達と動物園行くんだから!」
茜はようやく厄介払いが出来ると言わんばかりの悪態をつき、俺もいつもの癖でついムキになってしまっていた。
「……おい茜、確かにお兄ちゃん色々迷惑かけたとは思うよ?でもその態度あんまりじゃね?」
「ふん!働きもしないでゲームばっかりやってるお兄ちゃんって何なのよ?べ〜だ!あたしは動物園でチーターの赤ちゃん観に行くの!じゃあね!」
目覚めて矢先の兄妹喧嘩に、両親は半ばあきれ顔を浮かべていたものの、一家にこの光景が戻って来た事を感謝している様な雰囲気も窺えている。
俺は家族への感謝と自分の決意を込めて、両親の前で堂々と宣言した。
「父さん、母さん、ありがとう……。俺、また働くから……」
あれから3日後、体調が回復して退院した俺は面接用の写真と履歴書をゲットするついでに、動物園へと足を運ぶ。
茜の言っていた、「チーターの赤ちゃん」がどうにも気になっていたのだ。
女神様は俺との別れ際に、「チーターにも出来る限りの幸せを用意する」と約束してくれている。
わざわざ俺に宣言するのだから、俺自身が確認出来るこの日本に、あのチーターが転生した姿があるはずだ。
動物園は既に黒山の人だかりが出来ている。
チーターの赤ちゃんは、今の動物園イチオシらしく、夕方近くになっても人気を集めている様子である。
俺は人だかりを掻い潜る様にチーターの姿を拝もうと背伸びし、その光景に驚愕した。
その赤ちゃんチーターの右目の上には、紛れもない「10円ハゲ」があり、俺がこっそり手を振ると、記憶を呼び起こした様に猛然とダッシュし、顔をくしゃくしゃにして泣き出したのである。
(やっぱりアイツだ!ありがとう……ありがとう!)
俺は人だかりの中にも関わらず大粒の涙を流し、チーターも声にならない鳴き声を上げて俺を呼んでいた。
やがてそんなチーターを後ろから優しく抱き締める母親の姿が目に映り、母の腕に抱かれたチーターは、暖かな安らぎの中で深い眠りに就いていく。
俺は……俺はもう、ひとりじゃない。
これからの人生、喜びも悲しみも分かち合える仲間は、ここにいる。
それが人間じゃなくても、分かち合える仲間が、ここにいる。
あれから1週間、久しぶりにスーツを着込んだ俺は、2年ぶりの就職に向けて、まずは最初の面接を終えていた。
2年のブランクが簡単に埋まるとは思っていないし、いきなり正社員の面接は無謀かも知れない。
だが、そんな事を言って行動を先送りにしていたら、俺は今でもサバンナで5メートルの崖を登る事が出来ずにいただろう。
面接の前には不安な気持ちを落ち着かせる為にチーターに会いに行き、面接の後には解放感で空いたお腹を満たす為、近所に出来たたこ焼き屋に顔を出す。
きっとこのローテーションは、仕事に就けても暫く続くのだ。
「お、今日も来たね!毎度あり!」
このたこ焼き屋は、男女2人で切り盛りしている店で、意外にも店主は女性の方。
美人でスタイルも抜群な彼女は、早くもこの界隈の人気者になっていた。
また、男性の方も、長身で眼鏡の似合う優男風で、女性ファンが多そうに見える。
「しかしお兄さん、どっかで見た事あるような気がするんだよね〜同業者?」
女性店主は俺の顔を何度も覗き込み、男性店員も俺に興味津々の様だ。
そう、俺達は確かに出合った事がある。
俺達が出合った場所は谷底と言う場所で、そこを離れる事が出来なければ生きて行けない種族がいる場所であり、そんな種族を助ける者が集う場所でもあった。
しかし、運命とは結局自分の決意で切り開くもの。
運命を切り開いた彼等の集うこの世界も、いつだって谷底なのである。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!