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構想10分、製作期間1日!


練りに練った作品です(笑)。


 ……人間としての最後の記憶は確か、地震で棚から落ちてきたゲームソフトが頭を直撃した瞬間だったな……。


 

 俺は木陰に身体を横たえ、この広大な大地に朝日が昇る瞬間を、眩しげに目を細めながら眺めていた。


 俺の名は家物猛(けものたけし)、ライオンだ。


 人間としての俺は社会で使い物にならないニートで、よりによって25歳の誕生日に発生した地震で頭部を負傷し、死んでしまったらしい。


 らしい、と言った理由は、当然俺に死の自覚が無いからだが、今こうして人間時代の記憶や意識があるにも関わらず、自分の身体は小さな赤ちゃんライオンになっている。


 この状況を見る限り、俺の身にライトノベル等でよく読んでいた「転生」という現象が発生した確率は極めて高い。


 朝は動物達の移動も激しい。

 俺は取りあえず、安全な場所を確保する為に友達が待つ縦穴式住居を訪問する事にした。


 

 地震の負傷による衝撃から目覚めた時、俺はサバンナの様な大自然の中にいて、隣にはライオンのカップルと、俺と同じ位の大きさの赤ちゃんライオンがいた。


 言うまでもなく、俺は激しく動揺したが、自分の身体が赤ちゃんライオンになっている事と、目の前にいる3頭のライオンが俺に好意を示していた事で、ようやく自分の立場を理解したのである。


 暫くはライオンとして普通の生活が続き、俺と兄弟ライオンは小鳥や兎を捕まえて食べる練習や、飲み水のありか等を親ライオンから教わっていた。


 しかし1週間前、親ライオンの態度が急に厳しくなり、俺と兄弟ライオンは高さ5メートル位の小さな崖から谷底に突き落とされてしまう。


 たかが5メートルと侮るなかれ。

 

 赤ちゃんライオンの俺達の身体は1メートルにも満たない上に、崖の角度はほぼ垂直。相当なスピードで駆け上がるか、努力と根性で登りきるしか道は無い。


 だが、兄弟ライオンは登りきった。


 何度も崖から落ち、全身を傷だらけにしながらも休む事無く、僅か1時間で親ライオンの元に辿り着いたのである。


 俺は兄弟ライオンの努力を目の当たりにした時、既に諦めてしまっていた。


 俺はニートだ。


 大学までは順調に卒業したが、実家が裕福だった為にアルバイトの経験も無く、社会を舐めていた事に加えてブラック企業に就職してしまい、半年で心身をやられて逃げる様に退職した身だ。


 その後は鬱病を発症し、家族に守られて無事回復した後、周囲から社会復帰を期待されてはいたものの、結局ゲーム三昧でぬくぬくと生きる事を許されてきた身だ。


 俺がニートになった理由は、もう社会のせいじゃない。

 辛い事と努力から逃げたくなったからなんだ。


 俺が崖登りを躊躇していると、やがて親ライオンと兄弟ライオンは俺に失望した様な哀しい表情を見せ、崖から去って行く。


 当然だろう。


 結局、人間の世界以上に楽な世界はこの世には無い。


 人間時代は家族が甘やかしてくれたが、このタイミングで俺が死んだ事は、家族にとってはむしろ幸いだったのかも知れない……と、俺はやるせない無力感に苛まれていた。


 

 「チーター、いるか?」


 俺は友達であるチーターが住んでいる、草原の中に隠された縦穴式住居の近くまで来ている。


 ニートの問題点であり、ある意味逞しさでもある特徴は、激しく落ち込んでもやがて楽観論に辿り着く事だ。


 見た目は赤ちゃんでも俺はライオン。

 兎や小鳥は勿論、キリンや象レベルの大型動物で無ければ、少しは俺を恐れるだろう。


 そう信じていた俺は、自分1頭でもこの谷底を生き延びる決意を固めていた。


 だが、その考えは甘かった。


 シマウマやヌーといった中型の動物は勿論の事、こいつならメンタル的にもぜってー勝てる!と信じていたハイエナさんにまでフィジカルコンタクトで完敗し、命からがら偶然発見した縦穴式住居に逃れたのである。


 その縦穴式住居の先客として出会ったのが、チーターだった。


 チーターは俺と同じ位の体格で、人間のハンターに両親を殺されてしまい、1頭で怯える様に生きていた所で俺と遭遇する。


 ライオンである俺を初めは恐れていたチーターだったが、俺が元ニートでコミュ障気味の大人しい性格と知って意気投合。

 チーターの俊足で獲物を追い詰め、俺が捕らえるというコンビプレイを確立した俺達は、このサバンナの谷底で生き延びる唯一の武器を手に入れたのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 家物猛というネーミングは素晴らしいと思いました。
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