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婚約破棄を宣言された令嬢の美しい宝石

作者: 美凛


ーーーーーーー君の瞳は美しいストロベリーダイヤモンドだね



その時彼女は、美しいゴールデンベリルに恋をした。


これは宝石が好きな1人の令嬢のお話


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


今日は王立学園主催の夜会が開かれていた。豪勢な料理に絢爛なドレス、胸元や髪を飾る煌めく宝石が沢山溢れていて目に麗しい。そんな中、会場中の輝く石を見ながら微笑む令嬢がいた。



宝石や鉱石を取り扱う事を生業とするユヴェール伯爵家の娘であるディアナ・ユヴェールは着飾る目的ではなく見る目的、そして知的探究心から宝石や鉱石が大好きである。

シャンデリアの光を受けて煌めく様々な石が沢山見れるため、夜会や舞踏会、パーティーに彼女が欠かさず参加する理由の大半はそれであった。



「皆の者!!私の話を聞いてほしい!これより第一王子であるステファン・フォン・エーデルシュタインによる宣告を始める!!」



ざわめきをたてていた会場は王子の言葉により静まり返った。皆、何を話し始めるのかと伺っている。


「先ずはディアナ・ユヴェール、前へ!!」

「……私、ですか?」


視線が会場の料理を優雅に食べていたディアナに一斉に集まる。ディアナは状況がさっぱりと理解出来ていないながらも、王子の申し立てであるため手に持っていた、ジュレが煌めくテリーヌの乗った皿を近くの従者に渡し、王子の前へと立つ。


王子の横には美しいハニーブロンドを持つ可愛らしい女性ーーークリスティナ・シュトーラル男爵令嬢ーーーが怯えた顔で、王子に庇われるように立っていた


「ここに呼ばれる理由はわかっているだろうな」

「いえ……大変申し訳ございませんが皆目検討もつきませんことをお許しください」

「しらばっくれるな!!!!クリスティナにしたことを忘れたとは言わせない!」

「はぁ……」


クリスティナ・シュトーラル男爵令嬢は最近の学園の有名人であった。理由は、透き通る白銀の髪に涼やかなターコイズブルーの瞳を持ち大変見目麗しい第一王子であるステファンから寵愛を受けている、というのが一番ではあるものの天真爛漫で誰に対しても分け隔てなく接し学園の名だたる貴族の令息を虜にしていたからである。もちろん他の令嬢達ははいい気分はせず、クリスティナへの嫌がらせがはじまり、それによる涙をステファンは幾度となく拭ってきた。



「お前は王族の婚約者という立場を利用しクリスティナに誹謗中傷をするだけでなく危うく大怪我を負うことになるような行為までしたではないか!私はお前との婚約など絶対に認めない!よって婚約を破棄とする!」



クリスティナへの危害は、王族の婚約者であるディアナが自分の立場を危ぶみ企てたものだと、ステファンやそれに連なるクリスティナへ思いを寄せる者たち全ての考えだった。ディアナと王族との婚約は、彼女の強い希望から成ったものという紛れもない事実はこの国のものであれば皆が知っていた。


「お待ちください!確かに私は第一王子であるステファン様やクリスティナ様へ苦言申し立てを述べたことは認めます。でも命を脅かすような行為はいたしておりません!」

「まったく白々しい……!そのような戯言に惑わされると思っているのか」

「それならばせめてお話だけでもさせてください!」

「今更なにを話すと言うのか。お前の顔すら見たくないに決まっているだろう」

「そん……そんな、……そんな…」



ステファンに言い詰められたディアナは膝をつき絶望からか肩を震わせ打ちひしがれてしまった。美しくゆるりとカールしているストロベリーブロンドの髪は乱れ、美人と評して謙遜のない顔は涙に濡れているのか両手で隠してしまい見えない。


「クリスティナ、もう大丈夫だ。私は彼女、クリスティナ・シュトーラルと婚約を宣言する!」


呆然としている観衆のなか、王子は声高らかに婚約の宣言をした。

一人の泣き声だけが響いている、この会場で


「どうして、どうしてですか……こんなのあんまりです……どうして……ヘリオドール様……」


「は?」


すすり泣く彼女は、婚約破棄をしたステファンの名ではなく『ヘリオドール』という別の名前を出した。

ーーー会場はまた、凍りついた。


「そんな、もうお会いしたくないなんて、あんまりです……私ヘリオドール様に嫌われてしまうようなことしてしまったのでしょうか、う、うぅ……」

「へ、ヘリオドール……?どういうことだ……?」

「うわぁあぁんヘリオドール様ぁ!」


とうとう声を上げて泣き出してしまった伯爵令嬢と、たじろぐ第一王子、そして呆然とする第一王子に連なる令息御一行。生徒だけでなく、その家の者たちまで参加が認められている夜会会場は一瞬でカオスと化した。


「あれ?なんかシンとしてるけど夜会の会場はここであっているよね?」


そんな中、静寂を打ち破るようにホールに響いた声はそばに付き添う従者に優しく問いかけていた。

声の主に目を向けると渦中の人物である『ヘリオドール』がいた。


「あれ?あれ?真ん中で誰か泣いているの?でも、あれ?ディアナの声だね?」

「申し訳ございませんがわたくしめにはヘリオドール様のような御耳を持ってはおりませんので声のみで泣いていらっしゃる方を判断することはございませんがどなたかが泣いているのは確かでしょう。」


ヘリオドールに付き添う従者は淡々と答える。人々が次々に道をあけていくため、ヘリオドールはおろおろとしながらもホールの真ん中で『断罪』をされていたディアナの所までやって来た。


「何があったの僕の美しいストロベリーダイヤ」

「は……ぇ?ヘリオドール様……?」

「うん?ああ、泣かないで。本当はエスコートをしたかったんだけど、ごめんね遅くなっちゃって」


のんびりと喋るヘリオドールの登場により会場はますますカオスになっていく。


そもそも、ヘリオドールとはーーー

名をヘリオドール・ド・エーデルシュタイン。紛れもなく王族の者であり、その出生は魔法と妖精と人間の国であるエーデルシュタイン王国の「王家の人間は同種族以外のものとも子を成すこと」のしきたりに従った子、そのものである。

ヘリオドールは現国王を父に持ち、この国最大の山を護るドワーフ族の長の娘を母に持つ。ドワーフの血をひいているため、少々小柄で顔もあどけなさが残り、華やかというよりは素朴な面立ちでそして何より耳が尖っている。


一目見ただけで『人間』でないとわかる容姿では王権はなく、彼は山を護る辺境伯となり王族の一員として過ごしてきた。


そう。ディアナの婚約者は他でもないヘリオドールであった。


「ヘリオドール様!私のことを顔も見たくない程お嫌いになり婚約破棄を望んでいるとは本当ですか!?」

「えっ?待って?いったいなんのこと?」

「だって!!ステファン様が!婚約を破棄するっ、てぇ……捨てないでくださいませぇ、うう…」

「ステファン!?本当にどういうこと!?」


ーーーステファンは致命的な勘違いをしていた。



ある日ステファンが王宮の一室に呼ばれ、赴くとそこには父である国王と、母である王妃、ドワーフ族の姫である側妃、その子息であり2つ歳上の腹違いの兄のヘリオドール、そしてディアナがいた。


「お呼びとのこと、馳せ参じました。」

「ああ、急に悪かったな。」

「いえ。こちらの御令嬢は?」


ーーー嗚呼、この子はね、お前の家族となるやもしれぬ。仲良くしなさい。


その言葉を聞いてすぐ、ステファンは所用で呼ばれてしまった。国王の御前だぞと窘めたが、その本人はよいよいと朗らかに笑みステファンを送り出して行った。そして後日、ディアナ・ユヴェールと王族との婚約が広まる事となる。



「ディアナの婚約者は……まさかヘリオドール兄さん?」

「まさかと、はどういう、ひっ、事ですか?」

「本当に本当に状況が全く理解出来ないんだけど……ディアナの婚約者は僕だよ?」

「私はなんてことを……」


今度は先程とは打って変わって第一王子であるステファンが項垂れる番だった。この場をこれ以上混沌とさせるわけにはいかないと、ヘリオドールの従者が部屋を一室借りそちらでお話をされてはどうかと促した。ダンスホールはひとまず、輝きと楽しさを取り戻せそうである。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「さて、話をはじめようか。ディアナは大丈夫そうかい?」

「お、お見苦しいところを大変申し訳ございません……」

「ふふ、だぁいじょうぶだよ。ね?」


甘い、とにかく甘い。もう別室は雰囲気が砂糖菓子だった。クリスティナは先程から混乱しているのかぼんやりとしているし、ステファンは耐えきれず、ため息を1つこぼしてから始めた。


「はぁ……まずは本当にすまなかった。まさかディアナ嬢が兄さんの婚約者だとは思わなかったんだ」

「ええ。本当に……私もまさかステファン様がご自分が婚約者だと勘違いしているとは思いもよりませんでしたわ」

「ねぇステファン、なんでそんなことになっちゃったの?」


ステファンは全てを説明した。自分がその時、家族になるかもしれない存在としてディアナを紹介されたこと。そしてすぐにディアナが王族と婚約したこと。同い年であること。伯爵令嬢ではあるものの宝石と鉱石を扱う家として王家御用達の地位があること。そして何よりも自分とクリスティナへの苦言申し立てである。


ステファンとクリスティナへの言葉は多岐にわたり、王族としての自覚はあるのか、国民の見本であるべきものが授業に出席しないのはどうなのか、貴女はステファンと釣り合いが取れない、婚約者がいる者に対してみだりに触れてはいけない等など。どれもこれも正論ではあるが煩わしく感じると同時に婚約者である自分(勘違い)がクリスティナという女性に移ろいでしまったため嫉妬しているのかと思うようなものであった



「私は事実を言ったまでですし、なによりも貴方様に失敗されるとヘリオドール様へご迷惑がかかるでしょう?私はヘリオドール様とあの山でキラキラとした鉱石と戯れながらのんびり過ごしたいんです。」

「ではなぜ王族と言っただけで名前を公表しなかったんだ!」

「声を荒げないでくださいませ?お見苦しい。なぜってそれはもちろん、ヘリオドール様が表舞台に出れば皆好きになってしまうと思ったからです」


「は?????」

「え?????なにか変なことを言いました?私」


ディアナはヘリオドールがそれはもう大好きである。ベタ惚れと言っても過言ではない。ディアナが家の仕事の一環で、ヘリオドールの管理する山へ入った時たまたま出逢った2人は恋に落ち、(ディアナたっての希望で)婚約者となった。

宝石と鉱石を取り扱う家と、山の守り神であるドワーフ族、そしてドワーフ族は石の加工技術では右に出るものはいない種族である。そんな家の関係は両者にとっても大変都合の良いものであり、婚約に反対するものは少なかった。それ以前に2人は想いあっている恋人同士であったためそれをどうこうしようと思う者もほぼいないに等しい。


「だってヘリオドール様ですよ?穏やかで朗らかで優しく、とても愛情深い素晴らしいお方ですもの。私以外の皆様がヘリオドール様を好きになってしまったら困ります!そしてなにより瞳が名に恥じぬヘリオドールの色そのもの!はぁ……いつ見ても美しいお色です……」

「ありがとう僕の美しいストロベリーダイヤ」



きゃーっ!と嬉しそうに恥じ入るディアナとにこにことしながら紅茶を飲むヘリオドール。ステファンはだんだんとこの激甘空間に慣れてきた。それはクリスティナも同じなのか、おずおずと口を開いた。


「あの、大変失礼ではございますがディアナ様は本当にステファン様にご好意があるわけではなく……そして私を害する意思もなかった、とそういう事でしょうか……?」

「ええ。ステファン様に興味は全くございません。好みではありませんから。ですがステファン様とはいずれ義姉弟という形になりますので、目に余る行為は注意してくれと国王様よりお言葉を賜っておりますわ」

「それではなぜ私にまで……?」

「だって貴女ステファン様がお好きなんでしょう?ゆくゆくは王家の人間となるならば、そして私の義妹になるのならと思いお声をかけたまでです。」


クリスティナもディアナの言葉を聞き、どっと疲れを感じ、紅茶に手をつけた。荒んだ心に染み渡る。

そこでふと疑問が生じた。では誰が、クリスティナを危険に晒した?


「私が知り及ぶとでも?正直に言いますと私、ヘリオドール様と美しい石以外あまり興味ございませんの。どうせそんな宝石に恥ずかしい行いをするのは余裕のない娘の仕業ではなくて?まぁなにより勘違いを悔いている暇があるなら早く犯人を見つけてはいかがです?」

「返す言葉もないな……この度は本当に申し訳なかった。犯人を見つけたら、ありもしない罪をきせようとしてしまったことを改めて詫びさせてほしい。」

「お待ちしておりますわ。クリスティナ様も、平穏に暮らしたいならもう少し周りを気にするべきよ。」

「はい……。お言葉、ありがたく頂戴いたします。」


こうして、学園主催の夜会で起きた乱痴気騒ぎは無事幕を閉じた。


▼▼▼▼▼▼▼▼


「ところで、どうしてエスコートに来てくださらなかったんですの?ちょっと寂しかったです」

「ああ、本当にごめんね?つい先日、僕の鉱山で君にぴったりのピンクダイヤが見つかったんだ。」

「まぁ!本当ですか?原石、原石はまだ見れますか?」

「ふふ、そういうと思ってちゃんと取ってあるよ。近いうちに見においで。」

「はい!楽しみにしています!」

「で、そうだそれでね、ピンクダイヤを君に贈ろうと思って、夢中で加工してたら時間のギリギリになってしまって……これ、受け取ってくれる?」

「まぁ……まぁ、なんて……そんな……」


ヘリオドールが取り出したのはベルベットの小箱。中には指輪が佇んでいた。その指輪は優しくほんのりとピンクに色付いているダイヤが美しいカッティングを施されていて、ディアナの華奢な指により一層華を添えるだろうとわかるものであった。

ヘリオドールはするりとディアナの手を取り、左手の薬指に指輪を通した。


「ディアナは嫌がるかなぁって少し不安なんだけどね、この指輪……内側に加工してあって、指に僕の名前が浮き上がるようになってて……君が指輪を外しても、僕の証が消えないように……」


ごめんね?こんな重たくて、君を束縛するような事して。


その言葉を聞きディアナは感極まってかまたボロボロと涙を零している。ヘリオドールはよしよしと頭を撫でながら優しく涙を拭っていく。ああ、本当にダイヤのような涙を流すなぁ、とヘリオドールは思うのであった。


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これは、宝石を愛した令嬢のお話。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん?第一王子はお兄ちゃんの方では? 王太子とか言っておけば良かったね
[気になる点] 王族の結婚なんて政略結婚が殆どなのに国王が決めた婚約(勘違い)を破棄する… 自分の勝手でこんな事しでかすなんて普通に廃嫡なのでは?しかも新たに婚約を結びなおすで国王の許可を取らずに男爵…
[一言] 婚約破棄の場での混乱具合に思わず吹き出しちゃいました。 兄の名を呼んで泣き叫ぶ己の婚約者()www カオスwww 面白かったです。
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