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幽霊が出る職員室

作者: 矢間カオル

 

 「3年前、この職員室に幽霊が出たんだよ。俺、遭遇したんだ。」

そう語り始めたのは、この中学校に赴任してきて5年目の、恰幅の良い中年男性教諭だった。


さほど生徒数は多くない中学校で、1年、3年は本館、2年は別館を割り当てられていた。この職員室と言うのは、2年が使う別館の職員室の事である。

 私は赴任してきて2年目。1年生から始まったので、この年は、2年生の担任になった。当然、2年職員室を使うことになる。話を始めた先生は、今回で2年生を担任するのは2回目で、この職員室を使うのも2回目なのだ。


 別館校舎は、非常に不気味なつくりをしていた。もともとワンフロアに5つの教室が作られていたのだが、少子化の影響で使われなくなった教室が増え、野放しにしていると治安が悪いと言うことで、別館校舎の半分は、廊下に鉄格子をはめて、遮断されている。なぜ鉄格子かというと、壁で遮断すると、誰かが空き教室の中に入っても誰も気が付かない状況が生まれてしまうからだ。鉄格子の向こうは、何年も掃除をしていないようで、廊下にほこりが溜まっている。鉄格子から誰かが投げ入れた紙屑も所々に散らばったままだ。もし、誰かが侵入したら、そのほこりに足跡がついてしまい、すぐにばれてしまうことだろう。 ともかく、この鉄格子と言い、鉄格子の向こう側の暗さ、ほこりっぽさが不気味で、幽霊が出ると聞いてもなんら不思議ではない気持ちになってくる。


 男性教諭の話は続く。

「あの時、俺はテスト採点をしていて、職員室の入り口に背中を向けていたんだ。ドアは開いてたかって?たぶん開いてたんじゃないかなぁ。で、採点している最中に一人の女子生徒が職員室に入ってきたんだ。俺はテストの採点に必死になってたから、振り向かずに、何か用か?と声をかけたんだが、返事がないまま、彼女は俺に近づいてきた。俺の背中のすぐ後ろまで来たから、テストの採点を見られたらまずいと思って、後ろを振り向いたら、そこには誰もいなかったんだ。」

「見てないのに、どうして女子だってわかったんですか?そんなのおかしいわ~」と私。

「それがね、足音って言うか、雰囲気って言うか、わかるんだよ。あれは絶対に女子生徒だ!ってね。」


 この話を聞いた後、多少寒気はしたものの、日常の忙しさに紛れて気にすることもなく、日々が過ぎて行った。


 2学期のある日のこと。

 その日は良く晴れた1日で、生徒たちは放課後のクラブ活動に励んでいた。時々、グラウンドからクラブ生徒の歓声が聞こえてくる。夕方の5時ごろ、私は職員室で教材研究をしていた。明日の授業の準備である。私の机の位置は、ちょうど職員室の入り口が見えるような配置であった。


 ふと、何かの気配を感じ、顔を上げると、職員室の入り口の引き戸は閉まっていたのだが、引き戸のすりガラスに生徒が写っていた。すりガラスだから、はっきりとは見えず、シルエットがぼんやりと見える。生徒は、なぜかじっと立っている。


いったい誰だろう。用事があるのなら、職員室にはいってくればいいのに・・・。


 だが、その生徒が誰なのかは予想がついていた。私のクラスの男子生徒の山本(仮名)だ。山本は、当時流行っていた少し特徴的な髪形をしていたので、すりガラスに映るシルエットから山本と判断したのだった。私はしばらく山本が入ってくるのを待つことにした。


 それにしてもなぜ入らない? 普段の彼なら悪びれることもなく、ずかずかと職員室にはいってくるだろうに・・・。もしかして、自分から入りにくい何か理由でもあるのだろうか・・・。


 結局私の方が待ちきれずに、引き戸を開けて彼を職員室に入れることにした。

 私はガラッと引き戸を開けた。だが、そこには誰もいなかった。


 ????えっ???


 驚いた私は、すぐに廊下に出て左右を見渡した。職員室の右隣は私が担任しているクラスしかない。左側は、鉄格子がはめられていて、誰もその先へ行くことはできない。もしかして、からかってる? 隣の教室に隠れた? しかし、私は放課後私の手で窓やドアの確認をしてきちんと鍵を締めた。気になってすぐにとなりの教室を見たが誰もいないし、すべての窓、ドアは鍵がかかっていた。まず、もしも逃げ込んだら、ドアなり窓なり、開け閉めの音がするだろう。そんな音は一切なかった。いったい山本と思った生徒はどこに行ったのか・・・。


 翌日、教室で山本に聞いてみた。

「ねぇ、昨日の5時ごろ、職員室に来た?」

「はぁ?俺、サッカー部で練習してんのに、何いってんの?」

山本は日ごろからクラブの練習はとても熱心だ。まるで、さぼったかのようなあらぬ疑いをかけられて、憤慨していたようであった。

「ごめんごめん。クラブ頑張ってるのに、職員室にくるわけないよねぇ。」


 あのシルエットは山本ではなかった。 私はなぜ山本だと思ったのか? それは、まだ成長しきっていない身長と彼の特徴的な髪形からであった。特徴的な髪形、それは、おかっぱ頭であったのだ。当時、マンガやアニメの影響で、男子のおかっぱが流行っていた。まるで、ずいぶん前の女子みたいな髪型・・・。


 その時、私は気づいてしまった。そうか、あの時私が見たのは、男子の山本ではない。女子の幽霊だったのだ。そして、私が職員室の引き戸を開けたとき、消えたのではなく、職員室に入ってきたのだと言うことに・・・。



 ここに出てくる女子生徒?の幽霊は、私だけでなく、何人かの教師が見ています。今でも当時の教師と会うことがあれば、ふと話題に上ることがあるほど、印象的な幽霊でした。

 今はこの校舎は取り壊されていてありません。彼女が成仏していることを願っています。

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