閑話②
セイバーズに潜入する少し前くらい
「うーん……。」
珍しくロアは困っていた。
というのも目の前にある荷物のせいだ。
雑務兵であるロアは荷運びというものも、もちろん仕事の一つであるのだ。
しかし如何せん荷物の量が多い。
しかも一つ一つがかなりの重さであった。
見た目通りに、非力なロアはどうしたものかと悩んでいたのだ。
「何、してる。」
すると後ろから声がかかった。
「あ、シン先輩。」
声の主は長代シンジ。
この騒がしいバッドエンズには珍しい寡黙な青年だ。
長代はロアの目の前の荷物に目をやる。
「これ……。」
「ああ、さっき届いた荷物なんす。倉庫に運ぶんすよ。」
「遠い。」
「そっすね。こっから倉庫まではそこそこ距離あるっすね。」
だから困っていたのだけれど。
ほとんど言葉の足らない長代のセリフを上手く汲み取って返事をするロア。
コミュ力高いよね。
ひょいっ
「えっ、ちょっ!シン先輩それ自分の仕事っすよ!!」
何も言わずに数個の荷物を軽々と持ち上げた長代に、焦ったように声をあげるロア。
それに対して長代は足元に目線を送る。
そこにはロアでも持てる程度の荷物が残っていた。
「あ……。」
ロアが気がついた時に長代はもう倉庫に向かって歩きだしていた。
慌てて荷物を持ち上げて追いかける。
「シン先輩!!」
ロアはそのまま長代と共に倉庫に向かった。
ーーーーー
「あの、ありがとうございましたシン先輩!」
その後しっかり荷物を倉庫に置いた二人は廊下を歩いていた。
ロアのお礼を聞いた長代は立ち止まり振り返る。
「どうしたんすか?」
ポスン……ポンポン
「えと、あの……。」
長代は無言でロアの頭をポスポスと撫でる。
表情はほとんど動いていないが、少しだけ口角が上がっていた。
「へへへっ。」
ロアもロアでまあ嬉しそうなのでよかったのだろう。
真相としてはほとんどのメンバーと意思疎通できず、交流も出来ていない長代は、自分の言いたい事を的確に把握し、なおかつ積極的に交流を取ろうとしてくるロアに対して好意的な感情を持っていたということだ。
寡黙な青年は別に一人が好きとかそういう訳ではなく、ただのコミュ障なだけだった。
それを見ていた寺沢と蜂須賀
「わー、長代がロアのあたまなでなでしてるよー。」
「珍しいこともあるのね。」
「ねー。」
「あいつ普段は誰とも喋んないのに。それこそボス以外とは。」
「そうだねー。あっ、でもこのあいだ須藤としごとのはなしはしてたよ。」
「それでも二三言でしょ。頭撫でるとか想像できなかったわよ。」
そんな会話がされていた。
長代シンジ:バッドエンズのメンバー
20代半ばの青年
水色の髪をオールバックにしている
顔は強面でギザっ歯
軍服のようなものを着ている
寡黙でコミュ力は底辺
ボスには忠誠を誓っている