シールdeイタズラ:寺沢の場合③
次の日の朝
「寺ちゃんおはよーっす!」
「あぁロア、おはよ。」
寺沢を見つけたロアは元気よく駆け寄ってくる。
もちろん計画的犯行である。
「あれれー?寺ちゃん首元どうしたんすかぁ?」
「なにがよ?」
「なんかついてるっすよぉ。……あれ?これ手形じゃ……。」
わざとらしいにも程がある。
「何言ってんのよ!今朝鏡を見た時なんにもなかったわよ!?」
うん、簡単には騙されないよねー。
「えー、じゃあ自分の見間違いっすか?」
「そ、そうに決まってるでしょ!」
簡単には騙されないが、ここのところ不可解な現象に悩まされている寺沢は、動揺を隠しきれていない。
もちろん、全てロアの仕組んだことである。
「寺沢にロア、朝っぱらから何をしてる。」
と、そこにやって来たのは我らがボスだった。
「ボス!おはよーございまーす。」
「ボス……、なんでもありませんわ。」
「おはよう。そうか……ところで寺沢、その首どうした。」
「ぶへぁっ!」
(さっすがボス!作戦通りのナイスアシストっすよー!)
てか前から思ってたけどロアの笑い方汚いな。
見た目幼女なのに全然かわいくない。
「首……ですか?」
まさかボスにまで言われるとは思わず、うろたえる寺沢。
「……あー、いや。なんでもない、仕事にかかれ。」
「はーい!」
「……。」
黙り込んだ寺沢を置いて、元気よく返事をしたロアはボスについてその場を去った。
「いやー!さっきはナイスでしたよボス!」
「だろう?」
したり顔の二人がそこには居たのだった。
ーーーーー
その夜
いつものごとくロアは雑務をこなしに各部屋を回っている。
そして寺沢の部屋。
コンコン
「寺ちゃん!御用聞きっすー!」
「今あけるわ……。」
そう言って少し元気の無い寺沢が出てきた。
「今日はご用事あるっすか?……あ。」
「今度はなによ……?」
ロアは再び意味深にベッドの方へ目を向ける。
「寺ちゃん、言い難いんすけど……。」
「なによ、早く言いなさい。」
「ベッド……、ベッドの方が気になるっす。」
「ベッド?」
「やっ、なんてゆーか。気になるだけっすから!」
ロアは慌てたように首をふる。
ほんとわざとらしいな。
けれど寺沢はここ数日で、精神的にすこしきているせいか疑問に思っていないようだ。
「……調べるからロアはそこに居なさいよ!」
そう言って寺沢はベッドの周りを調べ始める。
最後にベッドの裏側をのぞき込んだとき……
「ーーーー!!!!」
声の無い悲鳴を上げ泡を吹いて倒れた。
「わーお。予想以上っすね。いぇーい、ボス見てるっすかー!」
ロアは寺沢の部屋に仕掛けておいた隠しカメラにピースサインを送る。
もちろん映像はボスに届いているのだ。
さてさてベッドの裏側に何があったのかと言うと、御札が貼ってあった。
それもおどろおどろしいものが。
焼け焦げていたり、文字が滲んでいたり、切り裂かれていたり。
そう、まるで何かが出て来ようとしたような。
「ま、ボスに買ってもらったただのシールなんすけどね。」
ペリッペリッ
証拠隠滅のために全てのシールを剥がしていく。
貼ってはがせる便利なシールなので綺麗に取れた。
「最後の仕上げっすよー♪」
ーーーーー
「……ん。あれ?アタシ何してたのかしら。たしかロアが来て……はっ!」
思い出した寺沢は慌ててベッドの裏側を見る。
しかしそこには何もなかった。
「夢……だったのかしら。」
安心した寺沢は、もう顔を洗って寝ようと洗面台に向かった。
そして……
「いやぁぁぁああ!!」
本日二度目の絶叫からの卒倒である。
何があったのか?
寺沢の顔には赤い小さな手形があったのだ。
もちろんロアの手形だ。
「ぶふぉっ!これはひどい。」
「ククッ、いいぞ。おもしろかった!」
画面を見ながら肩を震わせる大小二つの姿があったことを記しておこう。