悪役令嬢エイリーナ
「まぁ。何か臭いますわね。平民の匂いがするわ。」
ここは学園内にあるラウンジ。生徒や教師、騎士たちも利用するこどができ毎日賑わっている場所だ。
リツカは顔をあげる。
「エイリーナ、様。何か用ですか?」
ガシャン!
陶器が割れる音で、賑わっていたラウンジは沈黙が降りる。
「何をするんですか!」
割れた陶器はリツカが飲んでいたティーカップで、エイリーナが持っていた扇で振り払われ床に落下したのだ。
「イヤだわ、汚らわしい。平民の分際で私に話しかけないで下さる?」
「あなたが話しかけてきたんでしょ?それに学園では身分は分け隔てないはずだけど?」
「話しかけてなどいませんわ。ですがこれ以上汚らわしい匂いをまき散らさずにお似合いの田舎にでもお帰りになったらいかが。」
「私は今は侯爵令嬢よ。」
「だから何です?ついこの間まで平民でしたでしょう?それに、どうやら風紀を乱していらっしゃるのかしら?・・・エーリック副団長とは懇意の中のようね。」
エーリック副団長はリツカの今回のターゲットで、若手ながら副団長まで上り詰めた実力派だ。もう少しで恋人になれそうな段階まできている。
(やっとここまでこぎつけたのに、後半は必ずエイリーナに邪魔されるわね。ほっといてくれればいいのに・・。)
「・・・だったらなんですか?あなたに関係ないじゃない。」
リツカはエイリーナを睨む。
「あなた本当にお馬鹿ね。学園は身分には関係ないとはいっても、これから社交の場に出たら学園での交友関係は少なからず影響するのよ。」
「・・・だから?」
「だからエーリック副団長があなたと交際してなんのメリットが?彼は将来を期待されている若者の一人なのよ。もっとふさわしい方がいらっしゃるわ。身を引きなさい。」
「嫌よ。あなたに言われる筋合いはないわ。」
「まあ、なんですって?口答えなさるの?・・・いいわ。覚悟しておきなさい。」
エイリーナは口元だけで笑いリツカを憎しみを込めた目でみていた。
「う、嘘ですわよね?」
エイリーナはリツカから悪役令嬢エイリーナの話を聞かされ狼狽える。
とは言ってもリツカはエイリーナの部屋を訪れるたびに話を聞かせてくれるのだ。
エイリーナにとっては信じがたい話だが、恋愛話を聞くのはエイリーナも嫌いではなく、なんとなく自分ではない話として聞いている。
しかもリツカが言うには同じ刻にもどり、いろいろな男性と恋愛するらしいのだ。
先ほど出てきたエーリック副団長に始まり、料理長や教師、クラスメイト、第2王子のシオンまで。
そして今回の王太子のジェイン。
信じているわけではない。そんなバカバカしい話あるわけがないと思ってはいるがリツカが前にぼそっと漏らした話によるとリツカは今、元の場所に帰れないらしいのだ。
いつもは戻ろうと思うと元の世界に戻れて、行き来をしていたらしいのだが、今回はこちらに来てから一度も帰ることができず焦っているらしい。
そして私からなんの接触もないため、自分から行動したそうだ。リツカには帰りたいから邪魔しないでと言われている。
エイリーナは話は信じてはいないが、リツカの「帰れないの」とつぶやいたときの顔が胸の中でくすぶっている。