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悪役令嬢ってなんですの。  作者: 相良 美佐
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突然の訪問者 2

 

 「あ・・・悪役令嬢ってなんですの?そういえば以前もおっしゃっていらしたわよね?」

 聞き慣れない言葉に戸惑うエイリーナ。

 「なんですの?って言われても。説明しづらいなあ・・・。」

 リツカは何気なくカップを手に取り一口飲むと、何これ美味しいと驚く。

 「そうですわね。私もこのお茶が大好きですわ。エミリアは特に上手に淹れてくれるし、リンドンの花茶は今の時期が一番美味しいですもの。」

 

 王家の花であるリンドンは咲いてもキレイだが、葉も花もお茶になる。料理に使われることもしばしばあり、栽培が難しい訳ではないため国民の多くは庭先で育てたりしている。

 

 「えっリンドンの花なの?知らなかったわ。飲めるのね。」

 「ええ飲めますわ。・・・学園の食堂やラウンジで出されているのもリンドンのお茶ですわ。ご存知ないですの?」

 「そうなの?でもこのお茶はキレイな紫だわ。学園のは薄い茶色だし色が違うから分からなかったわ。」

 リツカは手の中にあるカップに目を落とすとそこには透き通ったピンクに近い紫色のお茶が爽やかな香りを運んでいる。

 

 「このお茶はエミリアが花のみを使って丁寧に淹れたのでキレイな紫色なのですわ。淹れるのが少々難しいですの。簡単に飲めるようにしてある学園のお茶は、一番お花が咲くアリアスの時期に沢山収穫して葉と共に乾燥させたものを使っているから色は異なりますわね。」

 「そうなんだ。全然知らなかったわ。学園のは見慣れた色だったし、何のお茶かまでは言われたことなかったから気にしたことなかった。」

 

 エイリーナもリツカに言われてから、そういえば何のお茶かなんていちいち説明しないわねと気がついた。

 ブレイス王国ではお茶といえばリンドンのお茶が出されるのが当たり前だ。そのため他国から訪れる人にさえ、いつの季節の花のお茶か説明する程度だ。


 「失礼ですが、リツカ様のご出身はブレイス王国ではないんですの?」

 「出身?違うわよ。日本っていう国よ。」

 「ニホンですか?すみません。勉強不足かしら。聞き覚えがないですわ。」 

 エイリーナは頭の中で叩きこんである地図を思い出すが、ニホンという国に心当たりがない。

 

 リツカはそんなエイリーナを特に気にした様子もなく考え込んでいる。

 「・・・行き倒れているところをお花屋さんに拾ってもらい、お花屋さんと懇意にしているマードラス侯爵に養子にしてもらって学園にきたんだけど・・・。よく考えたら怪しいわね、私。」


 「そんなことありませんわ。マードラス侯爵も考えなしに養子になさらないはずですわ。」

 花屋で働いていた娘が貴族、それも侯爵の養子になるなんて、よほど運がいいとしか思えない。

 マードラス侯爵は独身を通しているがとても野心家とはほど遠い穏やかな人物だ。

 

 「えー、気を使わなくていいよ。・・・ところで話は変わるんだけど、あなたは昔からそうなの?」

 「そう?」

 「だって一応私ジェイン様狙いだし。前にあなたに宣戦布告したじゃない。なのに警戒心がないというか、おっとりしてるというか、いつもそんな感じ?」

 「宣戦布告とはもしかしてあの渡さないからとおっしゃった事かしら。」

 エイリーナは首を傾げて考える。

 「え?気づいてなかったの?」

 リツカは驚愕に目を見張る。

 「いえ、噂が届くようになってからはさすがに気がつきましたわ。ただ、産まれたときからすでに婚約者でしたので、ジェイン様をそういった取り合う対象の様にみていなかったものですから、失念していましたの。」

 エイリーナもジェインも良くも悪くも真面目であったため、婚約者がいるという事で誰かを特別に思うことはなかった。かといってお互いにも恋愛といえるような感情は持つことができなかったため、婚約者としてのお互いの義務を果たしてきたのだ。

 

 「気づいていたなら私が憎くないの?」

 「憎しみ、とは違いますわね。ただ私はこの国を、ジェイン様を支えるために生きてきましたわ。それが当たり前ではなかったのだと、少し虚無感に襲われているだけですわ。」

 「そう、あなた呆れるくらい正直なのね。でもあなたに恨みはないのだけれど、私にも目標があるからジェイン様に関しては負ける気はないわよ。ただ、今までよりやりづらいわ。」

 

 ふう、とリツカはため息をついた。

 エイリーナと話して、今日来なければ良かったと後悔し始めている。

 リツカにとって何回もプレイしてきたゲームに登場する悪役令嬢のエイリーナとはかけ離れているからだ。今回はおかしいと思いながらも直接話せば嫌なところが見えるはず、自分を騙そうとしているのだと思って来たのだ。拍子抜けもいいところだ。

 憎めないとなるとやりづらいし、エイリーナに虐められて発生するイベントなどは諦めたほうがよさそうだと思い直す。


 「リツカ様のおっしゃっていた悪役令嬢とはなんでしたの?」

 エイリーナはジェインの事よりも悪役令嬢という聞いたことのなかった言葉が気になる。


 「ああそうだったわね。悪役令嬢の話しをしに来たのだったわ。ちょっと長くなる話しだからまた来るわ。」

 

 外はもういつの間にか日が陰り始め、私室を訪れているには遅い時間となり始めている。

 エイリーナもリツカが再度訪れることを承諾し、リツカは残念だけどまた話しましょうと席を立ち部屋を後にした。

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