突然の訪問者
かわいいリボン、繊細なレース、絹の手触り、色とりどりの生地。
小さい頃から大好きだった。お人形に毎日着せ替えては遊んでいたわ。・・・昔みたいに楽しめたらいいのに。
「お疲れですか?エイリーナ様。」
「大丈夫よ。でも悩むわね。ジェイン様の学園最後のお衣装だもの。」
「好きな物でいいんじゃないですか?そう殿下もおっしゃってましたし。」
「そう、ねぇ・・・。」
「せっかくだし、エイリーナ様に最高に似合う物にしましょうよ!」
「・・・そうね。好きにしていいわよね。ありがとうエミリア。ジェイン様を驚かせましょうか。」
気持ちを切り替えて、次々に支持を出していくエイリーナ。建国祭の夜会の衣装はパートナーとお揃いにするのが通例なので、お互いの似合う色や雰囲気を模索して考える。
毎年の事だからジェインがいなくてもなんとかなる。でも心が重く気乗りしなかったが、エミリアの言葉で吹っ切れたエイリーナは、今まで通りの無難な感じの衣装を止め、全て最初から決め直すことにした。そうノリノリで。
完全にエイリーナは自分に似合うドレスを作ることにしたのだ。当てつけも兼ねているが、「勝手に」と言われたからには勝手にさせて頂こうと。
コンコン。
ノックの音がしたためエミリアが応対にでた。
「・・・が、・・・で・・・!」「い・・・な・・・。」
何か揉めているようだ。
(誰かしら?ジェイン様?・・・だったら嫌だわ。せっかく選び直したのに。)
そのとき珍しくエミリアにしては勇み足で戻ってきた。
「エイリーナ様。あの女が来ています!」
「あの女?」
「リツカ・マードラス侯爵令嬢です。追い返そうとしたんですが、どうしても会いたいと引き下がりません。」
「私に?私室までいらっしゃるなんて何かしらね。」
学園内には応接室が設けられており、私用で会いたい場合はメイドや侍女を通してから応接室を利用するのが一般的だ。
ちなみに王族だけは王族専用の応接室がある。
バタン!!
突然勢いよく開くドアの音に驚く。見るとそこには仁王立ちしているリツカがいた。
「ねえ、私あなたと少し話しがしたいのだけどいいかしら?そこの侍女じゃ話にならなくて。」
あまりに無礼な態度にエミリアは顔を赤くし追い出そうとする。
「エミリア。お止めなさい。リツカ様に失礼ですわ。」
「ですが・・・。」
「いいのよ。エミリア。それよりもやっぱり少し疲れたから休憩にしましょう。リツカ様もどうぞ。」
エイリーナはエミリアを宥めリツカをお茶に誘うことにした。
リツカはそんなエイリーナをじろじろ見て不思議そうにしている。
「どうかされました?」
「あなた、やっぱり違うわ。いつもなら私を追い払うでしょ?」
「いつも?・・・失礼ですが、今日で二度ほどしかお会いしておりませんわよね?」
「ああ、違う違う。あなたじゃなくて、いつものあなたよ。」
エイリーナは戸惑う。リツカの言っていることが全く理解できない。
だが、リツカは嘘をついているようには思えなかった。とは言っても嘘を見抜くほど話したことはないが。
「いつもの私・・・。」
何か噂のようなものがあるのだろうか、それともジェイン様が何かおっしゃっているのかしら?
ぐるぐると考えていたらエミリアがお茶の準備を整えて戻ってきた。
「リツカ様どうぞ。」
席に座るよう促し、エイリーナも腰を下ろした。
一口お茶を含み心を落ち着ける。
「ねぇ、少し2人で話したいのだけどいいかしら?」
チラリとエミリアをみながらリツカは聞いてきた。
「いけません!エイリーナ様と2人きりにするなんて、危ないじゃないですか!」
少し離れた位置に控えていたはずだがしっかり聞いていたエミリアは間髪入れずに返事をしてきた。
「危ないって・・・、あなたも大概失礼な侍女ねぇ。」
「エミリア。私は大丈夫よ。」
「エイリーナ様が大丈夫でも私が大丈夫ではありません!」
若干リツカが気圧されそうになったが、エイリーナがエミリアに近づき何かを耳打ちすると渋々部屋を退出していった。
「なんて言ったの?」
椅子に腰を下ろしたエイリーナにリツカは聞いた。
「リツカ様はマードラス侯爵令嬢で、この部屋に来たことは何人もの証人がいる。そのような状況で私に何かしないでしょうと。」
エイリーナはリツカに問うように答えた。
「・・・そうね。今日は話をしにきたのよ。あなたは悪役令嬢よって。」