王太子の初恋?
~ 王太子の初恋?~
彼女に初めて会ったとき、身体に衝撃が駆け巡った。
彼女の目を見つめると、目が離せなくなった。
こんな感情知らなかった。
リツカとの出会いは運命だと思った。
エイリーナは知らなかったようだが今までも、運命の出会いを期待して何人かの勇気ある生徒がジェインに接触を試みたことがあった。王太子であるジェインは顔も身分も文句がない。よって、もてるのだ。
ジェインはそんな強引なアプローチは好まない。ましてや婚約者のエイリーナがいる。
しかしそれでもあわよくばと夢見る少女は多い。事を荒立てないようヒラリと交わしたり、敢えてぶつかるのを待ち叱責しては彼女たちの気持ちを折ってきた。
またか、正直そうジェインは思った。
しかし彼女、リツカがぶつかってきたときは、身体に電流が流れたかのように衝撃があった。そこには艶やかな見たことのない黒髪の少女。そして彼女の口から紡がれる心地よい声。何より目を離すことが出来なかった。
自分が信じられなかった。いずれ王になるのだからと、幼い頃から感情を抑える訓練をしてきたのだ。でも離れたくないと、もっとリツカのそばにいたいと思った。
エイリーナを初めて怒鳴ったとき、自分の感情を抑えられず戸惑い、このままだとまずいとエイリーナを避けることを選んだ。
リツカを寮の部屋まで送りながら彼女の話を少し聞いた。
マードラス侯爵には養子で入ったと。とても感謝している。いつか恩返しがしたいのだと。
「とても大変な思いをしてきたのだな。」
「いいえ。私は恵まれていますわ。貴族になるなんて思ってもいませんでしたし、殿下とこうして歩けているだけで幸せですわ。」
そんな事エイリーナにさえ言われたことがない。
微笑みながら頬を赤らめつぶやいたリツカ。
なんて健気な娘なのだ。かわいいとさえ思った。
思わず無意識に抱きしめた。
「で、殿下。苦しいですわ。」
はっとしたジェインは抱きしめた腕をほどき、一歩離れる。
(私はどうしたのだ。なぜ・・・。)
リツカといると身体が勝手に動いてしまう。感情が高ぶってしまう。
「どうされました?」
リツカが一歩近づいてくる。
離れるジェイン。近づくリツカ。
数歩繰り返した所でリツカが考え事をするように軽く握った右手を顎にあてた。
その隙にジェインは用事を思い出したと小走りで駆けて行く。
逃げるしかなかった。自分はおかしいと、戸惑いしかなかったのだ。
そして残されたリツカの舌打ちは、逃げる事で精一杯のジェインに聞こえることはなかった。
急いで自室に戻ったジェインは、メイド達を下げ1人部屋に籠もる。
歴代の王太子が使用してきた学園の一室である。奥には豪奢な調度品がそろい、中でも手の込んだ細工がすばらしい天蓋つきのベットがある。ジェインのお気に入りの家具だ。
ベットに腰を下ろし、ずっと握っていた手のひらを静かに開く。
突き動かされた衝動に未だ戸惑い、先ほど抱きしめた感触の残る手のひらをただただ見つめ続けていた。
抱きしめたいなどと思ってもいなかった。なのに気がつくと華奢な身体を抱きしめていた。
自分が分からなくなったジェインは恐怖しかなかった。
いつまでそうしていたのだろうか。窓から差し込む日の光で朝になったことを知った。
(私は何をしている。エイリーナに会わなければ・・・。)
ジェインは冷静さを取り戻し、部屋を後にした。