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悪役令嬢ってなんですの。  作者: 相良 美佐
2/13

出会い

    ~2 出会い~


  2人は学園内にあるジェインの応接室に向かう。部屋にはもうエイリーナの侍女エミリアと、ドレスを仕立て上げる選りすぐりの王室専属のデザイナー、そしてメイドたちが待ち構えているはずだ。


 前を歩くジェインの見慣れた後ろ姿を見つめながらエイリーナは、先ほどのリツカの言葉を考えていた。


 悪役令嬢って言葉ばかり考えていたけれど、「渡さない」とは何をかしら・・・。またお会いしたときに、彼女に聞いてみようかしら。


 「・・・い。・・・おい!聞いているのか?」

 ぼうっとしていたら聞こえるジェインの声。

 歩いているときに話しかけて来ることなどなかったから気を抜いていた。

 

 「申しわけございません。ジェイン様。どうされました?」

 「いや、たいしたことではないが・・・。考え事をしながら歩くなぞ、珍しい事もあるもんだな。」

 エイリーナを物珍しそうに見ながらジェインは口の端をニヤリと少し上げた。

 いや、エイリーナはよく考え事をするのだ。ただジェインは振り返らず歩くので今まで気づかなかっただけなのだが。

 

 2人でいるときにジェインが笑うなんていつ以来だろうか。

笑うとも言えないほどの笑みでさえ、ジェインはエイリーナの前で表情を変えることはない。

 ほんの少しの変化がエイリーナは嬉しかった。ジェインは感情を見せず、歩くときも後ろからついてくるエイリーナに話しかけることなど皆無だったから。少しエイリーナは暖かい気持ちになった。

 

 そんな珍しく穏やかな時、曲がり角に差し掛かると飛び出してくる華奢な人影。少し後ろから歩くエイリーナにはその人影がわざとジェインにぶつかるまでがよく見て取れた。

  

 「ジェイン様!」

 エイリーナはジェインの無事を確かめる。いくら平和が続いているとはいえ、ジェインは王太子。何かあったら遅いのだ。


 「え、ジェイン様?も、申し訳ございません!」

 ぶつかった人影は、震えながら黒い頭を下げひれ伏す。着ている質のよいドレスからこの学園の生徒と伺いしれる。しかし、顔を上げるまでもなくエイリーナには誰か分かった。

 この学園で、黒髪は1人だけだ。


 「大丈夫だ。ケガはないか?そんなに怯えなくともよいぞ。」

 ジェインは倒れた少女の腰に手を回し、助け起こす。

 「ありがとうございます。ジェイン様。」

 ジェインを見上げる潤んだ瞳。艶やか唇に薄紅に染まる頬。


 先ほどとは別人のような可憐な少女・・・。見つめ合う2人。


 「・・・そなたは、」

 「リツカ マードラスですわ。」

 ジェインの言葉を遮るように名を名乗るリツカ。しかしそんな無礼な態度を気にするでもなくジェインはリツカから目をそらさない。


 「リツカ・・・殿。その、すまなかった。」

 ジェインがリツカに謝るのを見て驚愕した。王族は簡単に頭を下げてはならないからだ。だから、思わず口を挟んでしまった。


 「なぜ謝るのです?ジェイン様。彼女からぶつかったのですよ?」

 エイリーナがいることを忘れていたように、はっとエイリーナを振り返る。

 「何を言うか!失礼ではないか!」

 

 「申し訳ございません。ですが、」

 「黙れ。エイリーナ。」

 初めて見せた怒気。そしてジェインはエイリーナを睨むとリツカを支えたまま歩き出した。


 「ジェイン様。どちらに?」

 「リツカ殿を送り届けてくる。今日の予定は延期だ。」

 後ろを向いたままリツカと来た道を戻って行く。去り際にリツカはエイリーナを見て口元だけで笑い、あざ笑うかのようにジェインの肩にもたれかかった。

 

 呆然と見送るしかなかった。



 

 「どういうことだ?」

 シオンは今見たことが信じられなかった。


 少し離れた場所からシオンは一部始終を目撃した。いつもジェインの前では気を張っているエイリーナが心配でこっそり物陰から見ていたが、そのとき先ほどのリツカ嬢が2人の先に潜んでいる事に気がついた。シオンにはリツカがわざとぶつかったと分かったし、恐らくジェインも分かっているはずだ。

 だからジェインがぶつかった者を叱責しなかったことに驚いた。

 そしてエイリーナを残していった。

 

 シオンはジェインがエイリーナに対し特別な感情など持っていないことは分かっていた。むしろ煩わしく思っていることを知っている。

 だが、婚約者として奮闘しているエイリーナを怒鳴りつけたり傷つける様なことはしたことがなかった。意志とは関係なく王太子の婚約者になってしまっていた彼女を尊重していたからだ。


 だから今まで2人に干渉せず見守ってきたのだ。 


 他の女性と寄り添いながら歩くなど、何を考えているのだ?


 「テイ、いるか?」

 シオンは静かに声をかける。

 「もちろん。ここに。」

 「リツカ マードラスを調べてくれ。」

 「了解。」

 それだけ言うとテイと呼ばれた声はどこかに消えていった。





 


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