彼女の秘密
彼女は泣いていた。ただただ声を押し殺すように・・・。
誰にも気づかれないように人目を忍んできたのだろう。
それは偶然だった。
噂をされることに慣れているエイリーナだが、最近の同情や哀れみを含んだ視線に少し疲れていた。
だから一人になりたくて、いつもは来ない学園の裏に足をのばしてみたのだ。
そこには思わぬ先客がいた。
それもいつもは勝ち気なリツカが膝を抱えながら泣いていたのだ。
見てはいけないとエイリーナは引き返そうとしたが、何かリツカが呟いていることに気がついた。
「・・・りたいよ・・・。帰りたいよ。早く家に帰りたい。なんで帰れないのよう・・・。」
(・・・帰りたい?帰れない?どういう事かしら・・・。)
そのとき突然顔を上げたリツカと目があった。
「あ、」
「あ?」
「あ、あなた見ていたの?いつから!?」
リツカは驚愕しながらさっと立ち上がり、エイリーナとの距離を詰める。
「今来たところですわ。」
「何か聞こえた?」
「・・・。何かって、なんですの?」
エイリーナの知らなそうな素振りにふう、とリツカは息を吐いた。
「帰りたいって聞こえましたわ。」
「聞こえてるじゃない!嘘つき!」
「ウソは言っていませんわよ?ほんの少しだけしか聞こえませんでしたわ。」
リツカは探るようにエイリーナを見る。どうやら驚いたことで、リツカの涙は戻ったようだ。
「まあいいわ。あなたなら話してもいいかもって考えていたから、ちょうどいいわ。この間の悪役令嬢の話よ。」
そういうとリツカはぽつりぽつりと話し始めた。
ゲームのこと。
この世界のこと。
いつもは帰りたいなと思ったら『せーぶ』して元の世界に戻ること。
今回、ゲームに入る直前に『ばぐ』のような『のいず』があったけど、もう止められなかったこと。
そしてこの世界に来てから何度も帰ろうと試したけど、帰れないこと。
だから残りの可能性は『こうりゃくきゃら』であるジェインと結ばれエンディングを迎えれば帰れるかもしれないこと。
にわかには信じられない話を始めるリツカにエイリーナは思考が付いていけない。
混乱する頭を整理しながらもエイリーナはリツカに質問をした。
「それが真実なら、リツカ様はジェイン様に愛情はお持ちではないの?利用しているだけですの?」
「な、何よ、悪いとは思うわよ。・・・あなたにも。」
「私にも?」
「だって、本来ならあなたがジェイン様の恋人でしょ?でも最初は気にしてなかったのよ。私の知ってるエイリーナは悪役令嬢らしく本当に性格悪くて大嫌いだったから。」
リツカは何かを思い出したように苦々しい顔をする。
「なのに。あなたはいい人で。学園に入ってからもあなたの人気が高いのを知ったわ。金の薔薇?何よそれ、初めて聞いたわ。私の知ってるエイリーナじゃない。帰れないかもしれない。・・・不安が襲ってきたわ。」
「・・・リツカ様の言うエイリーナでないと帰れないんですの?」
「・・・分からないわ。でも今のあなたじゃ試してもイベントが発生しなくて。」
「イベント?」
「そう。でも他にシオン様とかもいつもと違うのよ。でもジェイン様はゲームのときの様な反応をするから、もしかしたら帰れるかも知れないの。もうこれしかないの。」
エイリーナが何も言えずにいると
しょうがないわよね。信じてもらえなくても。と見たこともない寂しそうな顔をしていた。
「・・・先に謝っておくわ。ごめんなさい、エイリーナ。」
「リツカ様はなぜ、私に話そうと思ったんですの?邪魔をしてしまうかもしれませんわよ?」
「あなたといても何も進まないなら、もういっそ話しても大丈夫だと思ったのよ。それに、ジェイン様の心変わりについてこの世界のあなたが心を痛めるのは本望ではないわ。」
「・・・それに、それにね。知らないこの世界で少しでも仲間が欲しかったのかもしれないわ。帰れないかもしれないからね。」
リツカはそう言うと寂しそうに笑った。




