エイリーナとシオン
「やあ、エイリーナ。」
ここは学園内にある聖堂である。エイリーナはエミリアに頼み彼を呼び出して貰った。
「シオン様。」
振り向いたエイリーナを眩しそうに見つめている。
「どうしたんだい?用があるって聞いてきたけど、君から誘われるなんて珍しいね。それに、いいの?」
「何がですの?」
「いけないね、俺と2人になるなんて。兄上に見つかったら・・・。」
「・・・シオン様。からかっていらっしゃるの?2人きりではないでしょう?」
ため息と共に言い放つ。
エイリーナの後ろにはエミリアが控えている。
そしてシオンの後ろにはシオン付きの近衛騎士も立っている。彼はよくシオンと共に行動している人物だ。
「テイ様。お久しぶりでございますわ。」
エイリーナはシオンの後ろに顔を向け、にっこりと微笑む。
「もったいないお言葉です。エイリーナ様。」
声を掛けられた近衛騎士、テイは拳を握った右手を胸にあて、軽く頭を下げる。
近衛騎士は自分の主以外にはこの略式の挨拶をする。
ここ聖堂は誰でも自由に出入りができ、今も数人が各々時間を過ごしている何よりも密会には向かない場所なのだ。
「シオン様にお返しし忘れていたので。」
エイリーナはエミリアから包みを受け取ると、そのままシオンに渡した。
「?」
不思議そうに包みを開け、・・・シオンは固まった。
「シオン様?・・・あの、どうかされました?」
シオンはビクッと肩を揺らし、信じられないといった表情でエイリーナを見る。
「エイリーナ?こ、この上着が何故俺のだと?」
「え?だって、刺繍がありますし、リンドンの花ですもの。」
「刺繍か、そうか当たり前過ぎて気がつかなかった。・・・いや、だって兄上のかもしれないよね?なぜ俺のだと思うんだ?」
「ジェイン様の筈がありませんわ。あの方は寝ている女性に上着を掛けるなんて考えつきもしませんわ。」
当然でしょとばかりに言いきるエイリーナ。
「・・・そうだな。エイリーナ。」
寝ている君を見て、思わず着ていた物しか掛ける物がなくて。
でも俺のだと分かると何かまずいかなと思ったから、まあ兄上のだと思ってくれれば2人の距離もまた密になるかもなんてほんの少しだけ考えていたんだけどね。
でも、何よりも俺の変わりに服なら君を包み込んであげられるかなーなんて気持ちもあって・・・。と考えていたら
「シオン様!気持ちがだだ漏れてますよ!」
テイが思わず止めに入る。
どうやら考えていた事まで口に出していたようだ。
今度はエイリーナが固まった。
コホン。
「エイリーナ。あー、その、なんだ。あのような場所で寝るのはちょっと危機感がないのではないだろうか?」
「え!あ、そうですわね。・・・ただ、あのときはちょっと疲れていて。」
思い出したように悲しそうにエイリーナは下を向く。
「いや、違う!怒っているのではないよ。ただ、無防備に寝る君は可愛いくて、ついよからぬ奴もいるかもしれないだろ?」
「シオン様のような人の事ですよ。エイリーナ様。」
シオンの後ろから真面目な顔でしれっとテイが呟く。そのやり取りがエイリーナの心を暖かくさせる。
「ふふ。でももう悩んではいません。だからあの場所でお昼寝はしませんわ。」
「悩んでいないのか?その、兄上とリツカ嬢の事だろ?」
戸惑いながらそっと問い掛ける。
「悩んでいないというか、リツカ様にはリツカ様の抱えているものがあることが分かりましたの。
ジェイン様も恐らくリツカ様のそれに沿った行動らしいのですが、聞いた限りでは私にはどうする事もできないことみたいですの。」
「聞いた?誰にだい?」
「リツカ様本人ですわよ。思わぬリツカ様に遭遇してお話を聞いたのですわ。」
「話?君を騙しているだけじゃないの?」
「いえ、あの時のリツカ様は私に見られていたことを本当に驚いていらしたから真実なのだと思いますわ。到底信じられる話ではありませんでしたが。」




